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「自力」で「禁煙」できる最も効果的な方法とは

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 2024年の春から日本中の新幹線が全線で完全禁煙になる。タバコを吸える場所がどんどん少なくなり、そろそろ禁煙したほうがいいと考える喫煙者も多いだろう。中には、禁煙外来などに頼らず禁煙に挑戦する人もいそうだが、自力での禁煙はどれだけの成功率があるのだろうか。

禁煙するいくつかの方法

 この10年ほどの間に、タバコを買える場所も吸える場所も少なくなった。タバコ代も値上げされ、経済的にも喫煙者には辛くなっている。

 筆者も以前は喫煙者で、紙巻きタバコを1日20本ほど毎日吸っていた。禁煙には何度も挑戦したが、そのたびに失敗し、約20年前にようやくやめることができた。

 筆者がタバコをやめた理由は、家族からやめるように求められ、また自分の健康のためもあるが、自分の行為がバカバカしくなってきたからだ。風邪を引いてるのに冬の寒い中をコンビニまでタバコを買いに出かけ、その姿を客観的に眺めたとき、オレはいったい何てバカなことをやってるのかと改めて気づいた。

 タバコをやめる理由には、それこそ喫煙者の数と同じだけの理由や方法がある。タバコのニコチン依存からの脱却はかなり難しいが、ではどんな禁煙方法が最も効果が高いのだろうか。

 禁煙の方法を大きく分けると、自力でやめる方法と医療機関を受診してやめる方法がある。

・自分だけで、あるいは家族や友人知人の協力を得ながら、禁煙外来などの医療機関に頼らずタバコをやめる

・医療機関を受診せず、薬局薬店でニコチンガムやニコチンパッチを購入して自分でやめる

・禁煙外来などの医療機関を受診して禁煙治療を受ける

 また、禁煙外来などの医療機関を受診してもニコチンガム、ニコチンパッチ、バレニクリン(チャンピックス、飲み薬)などの禁煙補助薬(補助剤)を使う方法と使わない方法がある。ただし、2021年7月からバレニクリンが出荷停止になっていて、現在(2023/10/29)禁煙外来では処方していない。

・禁煙補助薬を使わず、カウンセリングなどでやめる

・禁煙外来を受診してニコチンガム、ニコチンパッチ、バレニクリン(チャンピックス)などの禁煙補助薬を使ってやめる

 この中で最も費用対効果の高い方法は自分だけ、あるいは家族や友人知人の協力を得てきっぱりタバコをやめる方法だろう。実質タダだが、この方法で簡単に禁煙できれば誰も苦労はしない。

 一方、健康保険を使って禁煙外来を受診(12週間で5回)すると、ニコチンパッチでの治療で約1万3000円、バレニクリン(チャンピックス、12週間服用)を使う場合は約2万円だ。また、禁煙外来へ行かず、喫煙者が薬局薬店で8週間、ニコチンガムを買った場合は約1万7000円、ニコチンパッチを買った場合は2万4000円となる。タバコ代(1箱500円を1日1箱の喫煙で12週間だと4万2000円)に比べれば、かなり安いだろう。

 筆者のように、家族や知人、友人から言われて禁煙しようと試みる喫煙者も多い。

 ただ、英国の研究グループによるシステマティックレビュー(過去の複数の論文を系統的に集め、比較して分析する手法。※1)によれば、両親などの保護者や血縁者といった関係と友人同士の働きかけでは禁煙サポートの手法が違うので効果は一概に言えないとしている。配偶者と言っても喫煙者との人間関係は多様であり、家族間の関係が仲が良いか喧嘩がちかということでも禁煙へ誘導する方法に大きな違いが出るだろう。

自力で禁煙する方法とは

 これまでの研究によれば、自分でやめるより禁煙外来での禁煙治療をしたほうが、そして禁煙補助薬を使ったほうが、長期の禁煙に一定の効果があることがわかっている(※2)。また、費用対効果の点でも禁煙補助薬を使ったほうが安上がりのようだ(※3)。

 とは言っても、わざわざ禁煙外来へ出向くのもおっくうだし、現在はバレニクリン(チャンピックス)が供給停止状態だし、という喫煙者もいるだろう。

 実際、禁煙できた喫煙者の多くは、自力でタバコをやめている(※4)。

 では、自力での禁煙はどれくらいの成功率があるのだろうか。これまでの調査研究によれば、40%から70%前後の成功率と考えられている。

 ただ、主観的なアンケート調査などが多いため、これらの数値にはっきりしたエビデンスはない。前述した通り、成功率についていえば、禁煙外来などでの治療のほうが自力での挑戦よりも高い。

 ニコチン依存を含む依存は、本人にも納得のできない病的な状態だ。喫煙者は、タバコはいいものだし、喫煙にはメリットがある、と考える。必要がなくなってもまだまだ欲しくなる状態が依存で、否認の病といわれるだけに、自らそれに目を向けずに気付かないふりを続ける。

 他の依存症と同様、喫煙者本人に禁煙したい意志がなければ強制的に禁煙させるのは難しい。関心が向いたときにそれを活かすことができるような情報提供が必要だ。

 そうした情報提供の方法に、本を使った禁煙(ビブリオセラピー、Biblio Therapy)というものがある。世の中には山のように禁煙本が出ているが、本を読む行為に自発性が含まれているので、禁煙本を読むことは禁煙への第一歩と言える。

 自分から選んで禁煙本を読む行為によって、自分はニコチン依存ではないか、ということに気付かせてくれる。喫煙者が、自分の状態を客観的に眺めるきっかけになる可能性があるというわけだ。

 有名な禁煙本にアレン・カーの『禁煙セラピー(The Easy Way to Stop Smoking)』がある。1985年に出た本で世界中で翻訳されて大ベストセラーになった禁煙本だ。

 この本については批判も多いが、より信頼性が高いとされるランダム化比較試験(※5)によると、オンラインの禁煙サポート(Quit.ie)より、この本のほうが禁煙効果が優れているようだ。

 また、最近、イタリアなどの研究グループが、この本を読んだ禁煙にどれだけ効果があるかを調べたシステマティックレビューを発表した(※6)。これによると、一定の効果は期待できるが、はっきりしたエビデンスはまだないとしている。

 また最近、中国の研究グループが発表したシステマティックレビューによれば、カウンセリング(認知行動療法、動機づけ面接など)による薬剤を使わない禁煙サポートにも一定の効果があるという(※7)。

 ただ、効果を比較評価した研究群には、より信頼性が高いランダム化比較試験が多く含まれていないため、その必要性を指摘している。

 ところで、だらだらと禁煙を繰り返すより、ある日を境にきっぱりとタバコをやめたほうが効果的だ。これを医療機関による禁煙治療と組み合わせるとより効果的なことがわかっている(※8)。

 禁煙へのアプローチは人それぞれ違うが、この記事を読んだ時点であなたは禁煙へ一歩進んでいる。この記事を読んだ喫煙者が、きっぱりと今日から禁煙することを願っている。

※1:Gill Hubbard, et al., "A systematic review and narrative summary of family-based smoking cessation interventions to help adults quit smoking." BMC Family Practice, DOI 10.1186/s12875-016-0457-4, 24, June, 2016

※2-1:Tim Lancaster, Lindsay F. Stead, "Self-help interventions for smoking cessation" Cochrane Library, doi.org/10.1002/14651858.CD001118.pub2, 20, July, 2005

※2-2:Kate Cahill, et al., "Pharmacological interventions for smoking cessation: an overview and network meta-analysis" Cochrane Library, doi.org/10.1002/14651858.CD009329.pub2, May, 31, 2013

※2-3:Nicola Lindson, et al., "Smoking reduction interventions for smoking cessation" Cochrane Library, doi.org/10.1002/14651858.CD013183.pub2, September, 30, 2019

※3-1:Victor U. Ekpu, Abraham K. Brown, "The Economic Impact of Smoking and of Reducing Smoking Prevalence: Review of Evidence" Tobacco Use Insights, doi.org/10.4137/TUI.S15628, July, 14, 2015

※3-2:Takako Fujita, et al., "Cost-effectiveness analysis of treatment with varenicline for nicotine dependence compared with smoking cessation without pharmacotherapy in the real world" Pharmacoepidemiology & Drug Safety, doi.org/10.1002/pds.5359, September, 16, 2021

※4-1:Michael C. Fiore, et al., "Methods Used to Quit Smoking in the United States" JAMA, Vol.263(20), 2760-2765, 23, May, 1990

※4-2:Andrea L. Smith, et al., "What do we know about unassisted smoking cessation in Australia? A systematic review, 2005-2012" Tobacco Control, Vol.24, Issue1, 11, September, 2011

※4-3:Shuhan Jiang, et al., "Real-world unassisted quit success and related contextual factors a population-based study of Chinese male smokers" Tobacco Control, Vol.30, Issue5, 16, July, 2020

※5:Shelia Keogan, et al., "Allen Carr's Easyway to Stop Smoking A randomised clinical trial" Tobacco Control, Vol.28, Issue4, 25, October, 2018

※6:Irene Possenti, et al., "The effectiveness of Allen Carr's method for smoking cessation: A systematic review" Tobacco Prevention and Cessation, Vol.9, September, 2023

※7:Tao Nian, et al., "Non-pharmacological interventions for smoking cessation: analysis of systematic reviews and meta-analyses" BMC Medicine, Article number: 378, 29, September, 2023

※8:Jixiang Tan, et al., "A meta-analysis of the effectiveness of gradual versus abrupt smoking cessation" Tobacco Induced Diseases, Vol.17, Issue9, 13, February, 2019

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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