日本の「タバコの価格」は高いのか安いのか

写真撮影筆者

 2020年10月1日、たばこ税が増税される。そのため、タバコ会社は財務省へ小売価格値上げの申請を行った。そうした日本のタバコ、その価格は高いのか安いのか。

年々上がるタバコの税と価格

 下の表は、1985年以降の紙巻きタバコ1本あたりの税額とマールボロの小売価格の変遷だ。約20年の間に1本あたり10円以上もの増税がなされてきたことがわかるが、タバコ会社はそのたびにタバコの価格を上げてきた。

 もちろん、1985年当時のタバコの価格は今よりずっと安い。フィリップ・モリス・ジャパンが販売するマールボロは現在、520円(2020年10月1日から570円、20本入り)だが、2005年までJT(日本たばこ産業)がライセンス生産していた同銘柄は280円だった。

 ちなみに、マールボロの小売価格はフィリップ・モリス・ジャパンへライセンスが返されてから2003年7月1日に280円から300円へ、2006年7月1日に300円から320円へ、2010年10月1日に320円から440円へと値上げし続ける。この15年足らずの間に、300円以下から570円へ倍近くも価格が上がった。

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1本あたりの紙巻きタバコの税額の変遷。増税する前にタバコ会社は財務省(大蔵省)へ小売価格改定の認可申請を行い、けっして損をしないようにしてきた。JT時代のマールボロは時に価格が下がったりしている。グラフ作成筆者

 ところで、日本には「たばこ事業法」という国内のタバコ産業を守るための法律がある。そのため、国内でタバコを製造するのは実質的に日本たばこ産業(JT)しか認められず、外国製タバコの輸入販売は登録制であり、タバコの製造や販売、価格などが細かく決められている。

 今年2020年10月1日のタバコの増税は、2018年度の税制改正で決められた既定路線だ。この税制改正で、2018年10月から2022年10月までの5カ年間で紙巻きタバコは3段階(2019年は消費増税の影響で据え置き)、加熱式タバコは5段階のスライド式増税が行われる。

 加熱式タバコの課税方式は、従来の重量と小売価格(紙巻きタバコ1本平均約20円を加熱式タバコ0.5本に換算=1本が約10円相当)を1:1の比率で紙巻きタバコに換算される方法を採り、これを5年間の経過措置を設けて1/5ずつ重量制から小売価格との併用制にシフトさせていく方法で増税する。これにより紙巻きタバコと加熱式タバコの税額が接近し、各加熱式タバコの間の差も少なくなるとの目算だ。

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2018年の税制改正によるタバコの増税と1箱あたりの税額。JTのプルーム・テックが最も税額が低いのは「たばこ事業法」による国内のタバコ産業の保護育成のためだろう。グラフ作成筆者

日本のタバコ価格は高いのか

 こうして増税されると繰り返し値上げされてきた日本のタバコだが、世界的にみると実はまだまだ安い。少し前だが、米国のイリノイ大学シカゴ校などの研究グループが世界各国のタバコ価格について調べた研究がある(※1)。

 これは各国のGDPとタバコ100箱を買うための金額の相対評価をする指標(the Relative Income Price、RIP)を使い、2001年から2014年の間、低所得国(16カ国)、中高所得国(13カ国)、高所得国(30カ国)に分類してタバコの価格と消費の関連を調べた。日本を含む高所得国では、タバコの価格が上昇し、タバコ消費量は減り続けている。

 調査期間中、高所得国の中で最も相対指標が上がった国、つまりタバコの価格が上がったのはスペイン、日本は英国やドイツなどと同じ程度にしか上がっていない。香港などは逆に下がっていたことがわかったという。

 日本はタバコの価格をそれほど上げていないようだが、各国でマールボロの価格(USドル)を比較した調査がある。これによると2020年10月1日に570円に値上げされる日本のマールボロは、世界の真ん中よりやや下くらいの位置だ。

 値上げ前はポーランドとインドの間くらいだったが、やや順位を上げている。つまり、相対指標で価格が上がらなかったが、もともと低いままだったことになる。

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マールボロ20本入り1箱の値段の国際比較。日本はG7など他の先進諸国に比べてタバコが安いことがわかる。Via:ドイツ銀行「Mapping the World's Prices 2019」よりグラフ作成筆者(一部修正)

 経済学には価格の弾力性という概念がある。これはある商品の価格の変化率と需要の変化率の関係を示すもので、絶対値が1を超えると弾力的とされる。タバコの価格弾力性は0.3から0.4程度とされ、価格が上がっても需要が変化しにくい、つまり価格弾力性が低い商品だ。

 タバコ税が上がるとタバコ会社もタバコの小売価格を上げる。タバコは価格弾力性が低いから、小売価格が上がっての需要はあまり減らないと考えられている。

 実際、喫煙率の低下に合わせてタバコの税率を上げても、それにより販売数量はあまり減らず、タバコ税収が確保できることが明らかになっている(※2)。タバコの低い価格弾力性から考えれば、値上げをしても売り上げは減らない。

タバコの価格弾力性とは

 一番上で紹介したグラフのように、日本では2010年にタバコ増税にともなうタバコ小売り価格の大幅な値上げがあった。そのため、タバコの販売量は下がったが、このときの価格弾力性は2003、2006年の値上げ時と大きく変化しなかったという(※3)。

 タバコの増税は、喫煙率減少による税収減を防ぐために財務省が目論む税収確保の観点と同時に、厚生労働省が進める国民の健康増進、つまり喫煙率の引き下げも目的になっている。これは国の政策の整合性をとるために行っている増税と考えこともできる。では、タバコの価格が上がると喫煙率は下がるだろうか。

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タバコの販売数量と税収の推移。販売数量が減っても増税によって税収はそれほど減っていないことがわかる。財務省「たばこ税等の税収と紙巻たばこの販売数量の推移」より

 2018年以降のような段階的な増税方式を採ると、喫煙者が価格の安いタバコへシフトすることで、喫煙率を下げる効果が薄れることが知られている(※4)。タバコ会社は喫煙者を離反させないため、価格の安いラインナップを用意し、製品開発やマーケティング調査、若い世代の取り込みや拡販をするだろう。こうした段階的増税期間の間にタバコ会社に対し、時間的猶予が与えられてしまうというわけだ。

 2020年のタバコの増税は、新型コロナウイルス感染症のため、過去にない特殊な事例になる。紙巻きタバコは2年ぶりの増税になるが、この環境の変化とタバコ価格の値上げは喫煙率にどう影響するのだろうか。

※「たばこ税」「たばこ事業法」以外の表記を「タバコ」とした。

※1:Canyon He, et al., "The association between cigarette affordability and consumption: An update" PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0200665, 2018

※2:Corne van Walbeek, et al., "Analysis of Article 6 (tax and price measures to reduce the demand for tobacco products) of the WHO’s Framework Convention on Tobacco Control." Tobacco Control, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2018-054462, 2018

※3:伊藤ゆり et al、「たばこ税・価格の引き上げによるたばこ販売実績への影響」、日本公衆衛生雑誌、第60巻、第9号、2013

※4-1:Rosemary Hiscock, et al., "Tobacco industry strategies undermine government tax policy: evidence from commercial data." Tobacco Control, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2017-053891, 2017

※4-2:Ce Shang, et al., "Association between tax structure and cigarette consumption: findings from the International Tobacco Control Policy Evaluation (ITC) Project." Tobacco Control, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2017-054160, 2018