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アレルギー性疾患リスク高める「加熱式タバコ」多重喫煙に要注意

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 電子タバコによる健康被害が米国で多発しているが「加熱式タバコ大国」の日本で同様の心配はないのだろうか。韓国の研究者が発表した論文によれば、加熱式タバコを含むタバコ製品を吸う若年層に喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎といったアレルギー性疾患が多くみられ、健康リスクが懸念される結果が出たという。

韓国でも広がる加熱式タバコ

 日本では現在(2019年12月)、4種類の加熱式タバコのデバイスとタバコ葉スティックが販売されている。フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)のアイコス(IQOS)、日本たばこ産業(JT)のプルーム・テック(Ploom TECH)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)のグロー(glo)、インペリアル・タバコのパルズ(PULZE)だ。

 ニコチンの取扱いに厳しい規制のある日本では、タバコ葉からニコチンを摂取するしかない。そのため、リキッドにニコチンを添加するタイプの電子タバコが広がらず、タバコ会社はタバコ葉を使った加熱式タバコを日本市場へ投入し続けてきた。

 韓国でも加熱式タバコが流行している(※1)。韓国人は日本の状況に敏感で喫煙状況が伝播したからだが、韓国では電子タバコ(ニコチン添加あり)よりも加熱式タバコの喫煙者が増えているようだ。

 ただ、PMIの資料によれば、韓国におけるPMIの加熱式タバコ製品のシェアは6.9%(2019年)で前年同期の7.6%から落ちている。一方、日本におけるPMIの加熱式タバコ製品のシェアは16.9%だ。韓国でのアイコスの優位性は、日本より低いことがうかがえる。

 韓国には日本のJTに似たKT&G(Korea Tobacco & Ginseng)という企業がある。IMF危機の際に韓国政府が同社株を売却し、今では完全民営企業となっていて、日本政府(財務大臣)が33.35%の株を持っているJTとは異なる体制の会社だ。

 KT&Gにはlil(リル)という加熱式タバコ製品があり、これは日本で販売されていない。JTのプルーム・テックも韓国で販売されておらず、日韓で加熱式タバコのラインナップも異なる。

韓国の中高生を調査

 このように加熱式タバコが広がりつつある韓国でも、日本と同様に健康への悪影響の懸念が高まっている。今回、韓国ソウルにあるカトリック大学校大学院の研究グループが加熱式タバコによる健康被害、特に喘息(Asthma)、アレルギー性鼻炎(Allergic Rhinitis、AR)、アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis、AD)との関係を調査した論文を英国の科学雑誌『nature』のScientific Reportsに発表した(※2)。

 同研究グループは、2018年に実施された韓国の12〜18歳に対するリスク行動調査データを利用し、その中から中学校400校、高校400校を無作為に選び、さらに各学校の各学年から1クラスを無作為に選んだという。

 そして、調査研究に同意した最終的な参加者5万8336人(女性2万8723人)のサンプルを抽出した。さらに、この中からアレルギー性疾患と診断された生徒1万4829人を特定し、喫煙経験とタバコの種類との関連を調べた。

 その結果、全体の25.8%が3つのうちのいずれかのアレルギー性疾患にかかっていたという。これまで紙巻きタバコ、電子タバコ、加熱式タバコを吸ったことのある人は、それぞれ3.9%(8129人/5万8336人)、7.1%(4114人)、2.4%(1414人)だった。

トリプル喫煙者も

 タバコ製品の喫煙行動では、電子タバコの喫煙者の57.1%が紙巻きタバコとの二重喫煙(Dual Use)をしていた。興味深いことに、加熱式タバコの喫煙者の82.4%が紙巻きタバコと電子タバコのトリプル喫煙だった一方、電子タバコ喫煙者の28.6%、紙巻きタバコ喫煙者の15.0%しかトリプル喫煙がいなかったという。

 アレルギー性疾患との関係では、アレルギー性疾患のある生徒のほうが、アレルギー性疾患のない生徒よりこれらのタバコ製品を吸っており、受動喫煙の経験の有無でもアレルギー性疾患のリスクが高くなることがわかったという(※3)。

 加熱式タバコの単独喫煙と紙巻きタバコとの二重喫煙では、喘息との強い関連が示唆された(※4)。また、アトピー性皮膚炎でも各タバコ製品との関連があったという(※5)。

 同研究グループは、タバコ製品のトリプル喫煙は、アレルギー性疾患のリスクを高め、特にアトピー性皮膚炎との強い関連が疑われるという。また、それぞれのタバコ製品の単独喫煙でも同じことが起きる危険性があると警告している。

※1:Heewon Kang, Sung-il Cho, "Heated tobacco product use among Korean adolescents." Tobacco Control, dx.doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2019-054949, 2019

※2:Ahnna Lee, et al., "The Use of Heated Tobacco Products is Associated with Asthma, Allergic Rhinitis, and Atopic Dermatitis in Korean Adolescents." SCIENTIFIC REPORTS, doi.org/10.1038/s41598-019-54102-4, 2019

※3:調整オッズ比:喘息=1.59, 95%CI: 1.17-2.15、アレルギー性鼻炎=1.22, 95%CI: 1.05-1.42、アトピー性皮膚炎=1.64, 95%CI: 1.36-1.98

※4:喘息との関連、調整オッズ比:単独喫煙=3.59, 95%CI: 1.47-8.78、二重喫煙=4.38, 95%CI: 2.44-7.87

※5:アトピー性皮膚炎との関連、調整オッズ比:紙巻きタバコ=1.34, 95%CI: 1.20-1.50、電子タバコ=1.37, 95%CI: 1.17-1.61、加熱式タバコ=1.80, 95%CI: 1.44-2.26

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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