Yahoo!ニュース

ニコチン依存を強める「二重喫煙」アイコスなど新型タバコと紙巻きタバコ

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 アイコス(IQOS)などの加熱式タバコを含む新型タバコを吸う人は、これまで吸っていた紙巻きタバコと併用するケースが多い。最近、この二重喫煙でニコチンの摂取量が増え、依存度が強まるという論文が出た。

二重喫煙は半分以上

 世界でも日本は特異的にアイコス、グロー(glo)、プルーム・テック(Ploom TECH)といった加熱式タバコの喫煙者が増えている。この理由の一つは、ニコチンの取り扱いに規制がかけられている日本では、欧米で広く吸われている電子タバコのリキッドなどにニコチンを添加できず、タバコ葉を使う加熱式タバコしかタバコ製品として販売できないということがある。

 加熱式タバコや電子タバコのことを大きく新型タバコというが、喫煙者は必ずしも従来、吸ってきた紙巻きタバコから新型タバコへまるっきり切り替え、新型タバコしか吸わなくなるわけではない。なぜなら、喫煙者の多くは新型タバコの吸い心地に満足できず、本心は紙巻きタバコを吸い続けたいが、健康懸念や受動喫煙の害といった様々な動機から新型タバコに手を出していると考えられるからだ。

 2018年に日本で行われた新型タバコの使用実態に関する調査研究(※1)によれば、男性の14.5%が、また女性の4.7%が、電子タバコを含む新型タバコを吸っていると回答している。そして、それまでタバコを吸ったことのない人の3.4%が、また禁煙していた人の4.3%が、新型タバコを吸い始め、さらに新型タバコの喫煙者の半分以上が紙巻きタバコとの二重喫煙者だったという。

 初めて吸うのが新型タバコという人が少なからずいて、せっかく禁煙していたのに新型タバコに再び手を出してしまう人も多い。そして、紙巻きタバコとの二重喫煙が半分以上という調査結果には驚かされる。

常套手段の有害性低減のPR

 なぜ、加熱式タバコを含む新型タバコをわざわざ吸い始め、再喫煙で手を出してしまうのだろうか。そして、なぜ完全に新型タバコに切り替えることができず、有害性がより高いと思われる紙巻きタバコから逃れられない人がこれほど多いのだろうか。

 アイコスはフィリップ・モリス・インターナショナル、グローはブリティッシュ・アメリカン・タバコ、プルーム・テックは日本たばこ産業というタバコ会社がそれぞれ製造販売している(輸入タバコは国内法人)。タバコの有害性が明らかになり始めたのは約70年前だが、それ以後、タバコ会社は喫煙者を離反させず、新たな喫煙者を取り込むため、有害性の低減をうたい文句にしたタバコ製品を開発し続けてきた。

 フィルター付き、低タールなどだが、加熱式タバコも同じ文脈に位置するタバコ製品だ。喫煙者の多くは、タバコによる健康被害について懸念を抱き、恐れを感じている。タバコ会社はそうした喫煙者の心理に訴えかけ、有害性の低減をうたったタバコ製品を提供し続けてきた。

 だが、フィルター付きにせよ低タールにせよ、タバコ会社がPRするような健康懸念を払拭することはできず、発がんや呼吸器疾患、循環器疾患などの発症リスクをなくすことはできなかった(※2)。タバコ製品や放射線など、様々な要素が複雑に絡み合う事象の健康影響が明確になるまでには何十年もかかる。さらに、大規模な疫学調査も必要となるから、その結果が出るまでタバコ会社はモラトリアム的に延命を図ってきたというわけだ。

 タバコ会社にしてもわざと喫煙者や受動喫煙の被害者の健康に害のある製品を作っているわけではないのだろうが、タバコ製品はどうしても有害性の高い物質を含まざるを得ない。さらに、喫煙は日常的に習慣化し、長期間にわたって続くので、いくら有害性を低くしても長期間の慢性的曝露を避けることはできない。

ニコチンは同様に入っている

 なぜ、喫煙が日常的に習慣化し、長期間、有害物質に慢性的に曝露するかといえば、それはニコチンという依存性薬物による影響の結果にほかならない。そして、タバコ会社の作り出す新製品には、常に共通して依存の有効性を保つだけの量のニコチンが含まれており、それは加熱式タバコも例外ではないのだ。

 では、二重喫煙についてはどうだろうか。紙巻きタバコを吸ってきた喫煙者が、加熱式タバコの味わいや吸い心地について不満を抱いているとすれば、二重喫煙も理解できる。

 米国ではニコチン添加式の電子タバコが若年層の間でかなり広まっており社会問題になりつつあるが、米国の中高生を対象にした調査(※3)によれば、電子タバコ使用者の少なくとも81%が紙巻きタバコや葉巻など、他のタバコ製品との二重喫煙だったという。

 欧米ではこうした電子タバコについての研究も多く、若年層の二重喫煙は従来のタバコ製品との併用のほか、電子タバコを入口(ゲートウェイ)にして紙巻きタバコなど、より使用感の強いタバコ製品に手を出すようになるという調査もある(※4)。

 二重喫煙の影響についてはどうだろうか。これについては、呼吸器疾患のリスクが高まるという論文(※5)がスウェーデンの研究グループから出ているが、まだそう多くはない。

ニコチン依存度を高める二重喫煙

 ただ、電子タバコと紙巻きタバコなど従来型タバコ製品の二重喫煙は、ニコチン依存をより強めるようだ。米国の南フロリダ大学リー・モフィットがん研究センターなどの研究グループが、禁煙希望の二重喫煙者2896人についてニコチン依存度のテストスケール(Heaviness of Smoking Index、HSI)で調べたところ、電子タバコを吸い始めると従来型タバコ製品の喫煙本数は減少するが、全体としてのニコチン摂取量と依存度はむしろ増えた(※6)。

 この研究グループは、ニコチンの依存性が高まれば電子タバコを含むタバコ製品から離れられず、喫煙習慣が継続してしまうことが予測されるという。電子タバコは蒸気(ベイパー)を発生させるタイプのものも多いが、気化させる際に加熱する金属から有害物質が出ているという研究もある(※7)。

 欧米で販売されている電子タバコは喫煙者が増加し続け、大きな公衆衛生上の問題になっていることもあってこれからも研究は増えていくだろう。健康懸念についてのエビデンスも出てくることが予想されるが、日本で広まりつつある加熱式タバコについての研究は電子タバコほど多くない。

 だが、電子タバコは禁煙へ誘導できず、むしろ呼吸器疾患などの健康リスクを高めることが次第に明らかになっている。ニコチン・デリバリー・システムとして電子タバコと同じカテゴリーに属する加熱式タバコにもまた、同じようなリスクがあると考えるのは不自然ではない。

※1:田淵貴大、「日本における加熱式タバコ及び電子タバコの使用状況」、欅田尚樹編、厚生労働科学特別研究事業、平成29年度、事業実績報告書:非燃焼加熱式たばこにおける成分分析の手法の開発と国内外における使用実態や規制に関する研究、2018

※2:Nigel J. Gray, "Nicotine Yesterday, Today, and Tomorrow: A Global Review." Nicotine & Tobacco Research, Vol.16, No.2, 128-136, 2014

※3:Youn Ok Lee, et al., "Examining Youth Dual and Polytobacco Use with E-Cigarettes." International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.15(4), doi:10.3390/ijerph15040699, 2018

※4:Faraz Siddiqui, et al., "E-cigarette use and subsequent smoking in adolescents and young adults: a perspective." Expert Review of Respiratory Medicine, doi.org/10.1080/17476348.2019.1589371, 2018

※5:Linnea Hedman, et al., "Association of Electronic Cigarette Use With Smoking Habits, Demographic Factors, and Respiratory Symptoms." JAMA, doi:10.1001/jamanetworkopen.2018.0789, 2018

※6:Ursula Martinez, et al., "How Does Smoking and Nicotine Dependence Change after Onset of Vaping? A Retrospective Analysis of Dual Users." Nicotine & Tobacco Research, doi.org/10.1093/ntr/ntz043, 2019

※7:Pablo Olmedo, et al., "Metal concentrations in e-cigarette liquid and aerosol samples: the contribution of metallic coils." Environmental Health Perspectives, Vol.126(2), 2018

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

石田雅彦の最近の記事