蒸し返される「冥王星」は「惑星」か否か論争

ニュー・ホライズンズ探査衛星から送られた複雑な冥王星の表面の写真(提供:NASA/ロイター/アフロ)

 太陽系の惑星はいくつか、という質問にどう答えるだろうか。現在、8個の惑星(Planet)となっているが、中には指を折って「水金地火木土天海冥」と9個、数える人もいそうだ。最後の「冥」は冥王星(Pluto)で、2006年から惑星から準惑星(Dwarf Planet、矮星)に格下げになったが、今回、冥王星を元の惑星の地位に戻すべきという論文が出た。

若き米国人が発見した冥王星

 太陽系の惑星は、1781年に英国のドイツ人天文学者、ウィリアム・ハーシェル(Sir F. William Herschel)が天王星(Uranus)を発見して7つになった。その後、天王星の動きから海王星(Neptune)の存在が予測され、1846年にドイツのベルリン天文台の天文学者、ヨハン・ゴットフリート・ガレ(Johann Gottfried Galle)がフランスの数学者、ユルバン・ルヴェリエ(Urbain Le Verrier)の計算式を用いて海王星を発見し、しばらく8つの時期が続く。

 天王星や海王星の動きから、その外側に9番目の惑星が存在することが示唆されていたが、あまりにも遠いため、従来の光学式の天体望遠鏡では観測は難しかった。9つ目の惑星は惑星Xと名付けられ、20世紀に入ってから世界中の天文学者が発見しようと競争する。

 20世紀初めごろの天体望遠鏡によって遠方の天体の存在を証明するためには、数日間、複数の写真を撮影し続け、天体が移動することによるそれぞれの画像の違いを比較する必要があった。1930年に冥王星を発見したのは、米国アリゾナ州にあるローウェル天文台(Lowell Observatory)のスタッフ、24歳の米国人、クライド・トンボー(Clyde W. Tombaugh)だ(※1)。

 ところが、天体望遠鏡の性能が格段に向上したこともあり、21世紀に入ってから冥王星と同じ程度の大きさの天体が太陽系に存在することがわかってくる。クワオアー(2002年、Quaoar、小惑星番号50000)、セドナ(2003年、Sedna、90377)、ハウメア(2003年、Haumea、136108)、エリス(2003年、Eris、136199)、マケマケ(2005年、Makemake、136472)などだ。

 それ以前に、海王星以遠に冥王星以外の小惑星群が発見され始めていたが(※2)、海王星よりも軌道長半径(※3)が大きいこれらの天体を十把一絡げに外縁天体群(トランス・ネプチュニアン天体群、Trans-Neptunian Objects)と呼ぶようになっていく(※4)。

 冥王星は公転軌道の角度などがそれ以外の太陽系の惑星とは異なり(※5)、大きさも月より小さく(冥王星の直径は約2400km:月は約3474km)、組成も彗星に近いということで、どうも惑星にしておくのはおかしいのではないかという意見が出始める。中には、冥王星の約半分という衛星シャーロン(Charon、カロン、直径約1200km)と分解した双子の天体なのではないかというものもあった(※6)。

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冥王星と衛星シャーロン(左)。NASA(米国航空宇宙局)が2006年に打ち上げた冥王星や外縁天体群の探査機ニュー・ホライズンズ(New Horizons)による画像。Via:@NASANewHorizons

冥王星が惑星でなくなった

 この議論に大きな影響を与えたのが、米国ニューヨークにある自然史博物館のローズ地球宇宙センター(Rose Center for Earth and Space)がプラネタリウムのリニューアルに合わせて行った2000年の展示だ。太陽系を紹介する展示コーナーで天体の特徴ごとにグループ分けし、地球型惑星、小惑星帯、木星型惑星、エッジワース・カイパーベルト(Edgeworth-Kuiper Belt、海王星の外側に存在する天体の密集地帯)などを紹介しているが、冥王星が惑星から除外され、太陽系の惑星が8つになっていた(※7)。

 ローズ地球宇宙センターの当時の館長、ニール・ドグラース・タイソン(Neil de Grasse Tyson)によれば、惑星の定義は過去に何度も変更されてきたが明確ではなく、今回の展示では冥王星を「エッジワース・カイパーベルトの王」としたという。つまり、冥王星が惑星かどうかは関係なく、太陽系を構成する天体のグループ(エッジワース・カイパーベルトの天体)の一員として性格付けたというわけだ。

 また、冥王星は惑星ではなく、大きさも性質も冥王星とよく似ているハウメア、エリス、マケマケと同じ、エッジワース・カイパーベルトを構成する、単なる一つの小惑星なのではないかという指摘も多い(※8)。逆に冥王星が惑星なら、当然これらの天体も惑星になるはずだし、ひょっとすると冥王星の衛星シャーロンでさえ惑星に入る。

 ようするに、惑星の定義がはっきりしていないから起きた論争ということになる。国際天文学連合(IAU)が、冥王星を惑星から準惑星に格下げすると発表したのは、2006年のことだ。

 この年の8月にチェコのプラハで行われたIAU総会で、惑星の定義が議論され、太陽の周りを公転し、自らの重力で球形にまとまることができるほどの質量を持ち、軌道上の他の天体を排除(Clear)しているという3つの基準が決められた。3つ目の排除(Clear)という概念は、その天体の衛星以外の他の天体が軌道の近くにいない、つまり太陽の周りを公転する惑星の軌道上に他の天体が存在し得ないことを意味している。

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冥王星を惑星から準惑星(Dwarf Planets)へ格下げしたことを報告するIAU総会の2006年8月24日のプレスリリースの解説図。Via:IAU総会のプレスリリース(2018/09/09アクセス)

 2006年のIAU決議の結果、太陽系には水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8つの惑星しかないということになった。冥王星は、冥王星型天体(ハウメア、エリス、マケマケ)というジャンルをもらい、準惑星(矮星)に格下げになってしまう。

 ただ、冥王星と惑星の定義に関する議論はくすぶり続けた。米国人が発見した唯一の惑星だったからか、米国の天文学者などから疑問や反対の声が上がり続ける。

 そもそもIAUが決めた惑星の定義では、冥王星を惑星ではないとはいいにくい。IAUのHPでは冥王星がなぜ準惑星なのかという理由について、その大きさと外縁天体群の中にあるからと説明しているが(※9)、これでは2006年決議の基準には合わない。冥王星も太陽の周りを公転し、球形になるほどの質量は持っているからだ。

惑星の定義に疑義

 冥王星を惑星へ戻す議論は定期的に蒸し返されているが、3つ目の他の天体を排除しているかどうかという基準について、今回、米国のセントラルフロリダ大学などの研究グループが異論を唱える論文を発表した(※10)。同グループによれば、IAUの排除という基準は研究論文などを背景にしておらず、科学的な根拠が薄弱という。

 そして、惑星の定義は、他天体を軌道上から排除することではなく、自らの質量で球形になるかどうかにすべきと主張する。なぜなら、そういう天体の地殻内部ではダイナミックで地質的な活動が起きるからだ。冥王星はむしろ火星よりも活動的な可能性があるという。

 米国のNASAは2006年に冥王星を主な観測対象とした探査機ニュー・ホライズンズを打ち上げ、2015~2016年に冥王星へ接近して観測した。送られてきたデータの解析が少しずつ出てき始め、冥王星の衛星シャーロンが地球の月と同じような巨大天体衝突(ジャイアント・インパクト)で形成されたのではないか(※11)、冥王星にはメタン粒子の砂丘があるのではないか(※12)などの研究論文が出ている。

 もともと冥王星には地下水(海)の存在が示唆され、表面には峡谷やハート型の広大なスプートニク平原などの複雑な地形が確認されている。セントラルフロリダ大学の研究グループは冥王星はむしろ地球型の惑星と主張するが、冥王星の惑星か否か論争はしばらく続きそうだ。

※1-1:Frederick C. Leonard, "The New Planet Pluto." Astronomical Society of the Pacific Leaflets, Vol.1, No.30, 121-, 1930

※1-2:Clyde W. Tombaugh, "The Search for The Ninth Planet, Pluto." Astronomical Society of the Pacific Leaflets, Vol.5, No.209, 73-, 1946

※2:David Jewitt, et al., "Discovery of the Candidate Kuiper Belt Object 1992 QB1." nature, Vol.362, 730-732, 1993

※3:軌道長半径:惑星の楕円軌道の最も長い距離、海王星の軌道長半径は30天文単位(1天文単位は1495億9787万700m)

※4:Rita Schulz, "Trans-neptunian objects." The Astronomy and Astrophysics Review, Vol.11, Issue1, 1-31, 2002

※5:Renu Malhotra, "The Origin of Pluto's Orbit: Implications for the Solar System beyond Neptune." Astronomical Journal, Vol.110, 420, 1995

※6:Alistair R. Walker, "An Occultation by Charon." Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, Vol.192, Issue1, 47-50, 1980

※7:Kenneth Chang, "Pluto's Not a Planet? Only in New York." The New York Times, January, 22, 2001(2018/09/09アクセス)

※8-1:Chadwich A. Trujillo, et al., "Large Bodies in the Kuiper Belt." The Astronomical Journal, Vol.122, No.5, 2001

※8-2:Michael E. Brown, et al., "Discovery of a Planetary-sized Object in the Scattered Kuiper Belt." The Astrophysical Journal Letters, Vol.635, No.1, 2005

※8-3:David L. Rabinowitz, et al., "Photometric Observations Constraining the Size, Shape, and Albedo of 2003 EL61, a Rapidly Rotating, Pluto-sized Object in the Kuiper Belt." The Astrophysical Journal, Vol.639, No.2, 2006

※9:"Pluto and the Developing Landscape of Our Solar System" International Astronomical Union(2018/09/09アクセス)

※10:Philip T. Metzger, et al., "The Reclassification of Asteroids from Planets to Non-Planets." Earth and Planetary Astrophysics, arXiv:1805.04115, 2018

※11:Yasuhito Sekine, et al., "The Charon-forming giant impact as a source of Pluto’s dark equatorial regions." nature astronomy, Doi: 10.1038/s41550-016-0031, 2017

※12:Matt W. Telfer, et al., "Dunes on Pluto." Science, Vol.360, Issue6392, 992-997, 2018