「カワウソ」をペットには絶対できない

英国の動物園のコツメカワウソ(写真:Shutterstock/アフロ)

 先日、タイの空港で日本人の女子大学生がカワウソ10匹を日本に密輸しようとして発覚し、タイ当局に逮捕された。この女子大学生の密輸未遂は組織的な背景も疑われるが、1万バーツ(約3万4000円)でカワウソ10匹を購入したらしい。

 カワウソを密輸しようとしたケースは最近になって急増している。2017年2月にはカワウソ12匹、野生のフクロウなど8羽をタイから国外へ密輸しようとした男が逮捕され、6月にはカワウソ10匹をタイから密輸しようとした男が逮捕されている。

 こうした事件の背景には日本国内の「カワウソ人気」がある。ペットとして流通する場合、高値で取引されるのだ。

コツメカワウソに魅せられる人々

 特にカワウソの中で小型で愛らしいコツメカワウソ(Asian small-clawed otter、Amblonyx cinereus)は動物園や水族館で大人気の種で、おそらくタイから密輸しようとしたのはこのコツメカワウソではないかと考えられる。動物園で見たりテレビ番組などで紹介されたコツメカワウソに魅了され、ペットとして飼おうと考える人たちの需要が増え、それが違法な取引を助長している、というわけだ。

 多くの種類のカワウソは、両親(アルファペア)を中心とした数匹~10匹前後の大家族で暮らす。そのテリトリーも周囲10km前後と広大で、豊かな水辺が必要となる。また基本的にカワウソは肉食獣で鋭い牙も持ち、アナグマなどと同じイタチ科のために凶暴な一面もある。普通の日本家屋で多頭飼いで飼育することは困難であり、そのために繁殖も容易ではない。

 国際的な商取引を規制されているカワウソだが、国内の動物園で繁殖された個体が動物取引業者からペットショップなどへ流出しているケースもある。だが、これはごく少数だろう。上記のような密輸によりカワウソが国内へ違法に持ち込まれていることが大きい。市場に流通している個体のほとんどは違法に密輸されたもの、ということが周知される必要がある。

 つまり、カワウソは気軽に飼えるようなペットではない。また、その稀少性により、ペットとして飼ってはいけない、というより飼うことはできない、と言ったほうがいい生物なのだ。

 東南アジアに生息するカワウソは主に3種類だ。コツメカワウソ、ビロードカワウソの2種は、国際自然保護連合(IUCN、※1)のレッドリスト(※2)で国際的な商取引が規制されている(ワシントン条約附属書II類)。この2種は輸出入の際、輸出する国の許可書が必要となる。残りの1種はユーラシアカワウソ(ヨーロッパカワウソ)でレッドリストでは絶滅が危惧される種(準絶滅危惧)となっている。ワシントン条約では附属書Iのカテゴリーとなるが、ユーラシアカワウソはインドシナ半島には少ない。

 この女子大学生が、どの種類のカワウソを日本へ運び込もうとしていたのかはわからない。いずれの種類のカワウソであったとしても輸出国が発行する許可書が必要で、タイの警察当局に逮捕されたことで同国が許可書を出していないことがわかる。実際、ワシントン条約の加盟国で、血統の多様性などを目的とした動物園間の交換や売買以外、カワウソの輸出許可書を出す国はほとんどないのが現状だ。

 前述したコツメカワウソは、レッドリストで「VU(危急種)」となっている。稀少な野生動植物の国際的な取引を規制するワシントン条約(CITES、※3)の許可書をもって稀少生物を日本国内へ輸入する際、許可書や証明書が必要となる(※3)。

 繰り返すが、合法的な入手も含め、コツメカワウソを日本の一般家庭で飼うのはほとんど不可能だ。ペットとして考えているのなら諦めるしかない。

急速に姿を消した日本のカワウソ

 ところで、先日、長崎県の対馬でカワウソが観察され、1979年に高知県の須崎市で目撃されて以来の「ニホンカワウソ」か、と話題になった。その後、フンなどのDNA解析により、この個体はどうやら朝鮮半島にも生息するユーラシアカワウソではないか、ということになったようだ。

 日本にもかつてカワウソがいたが、今では絶滅している、とされている(※4)。1977年頃からの観察報告などの数から、おそらく1990年代の初めには絶滅していたのではないかと考えられているが、現在、世界に13種類が知られているカワウソでニホンカワウソはユーラシアカワウソの亜種ではなく14種目の新種ではないか、という議論も根強い(※5)。

 また、日本には古来よりユーラシアカワウソ系と固有種であるニホンカワウソ系の2系統がいた、という説もある。対馬で観察されたカワウソが、以前から日本にいたのか、それとも朝鮮半島から海を渡ってきたのかはわかっていない。

 カワウソは明治時代まで北海道を含めてそれこそ日本中にいた。各地に残る「河童伝説」の正体はまさにカワウソであり、俳句の季語にもなっていた。日本酒の人気銘柄「獺祭」はカワウソ(獺)が魚を岸辺に並べることを意味し、それが転じて書物を周囲に並べる様を表すようになる。

 彼らが急激に姿を消し始めたのは日露戦争の前後だ。カワウソの毛皮は防寒性と耐水性に優れていた。明治期には外貨獲得のために毛皮が輸出されたが、朝鮮半島やシベリアなどへ派兵された陸軍兵士のために毛皮が大々的に活用されたのが大きい。この傾向は第二次世界大戦が終わるまで続いている。また、カワウソの肝は結核などの治療のために漢方薬に利用され、高値で取引された(※6)。

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北海道で捕獲されたカワウソの数の変遷。1905(明治38)年前後から急激に数を減らしている。Via:国際自然保護連合「種の保存委員会(SSC)、カワウソ専門家グループ(OSG)」の資料「Extinction of the Japanese otter:-lessons from its extinction

 さらに戦後になると日本各地が開発され、カワウソが生息できる環境が激減する。また、その多くは漁網に絡まって殺され、道路で交通事故死するものもいた。何しろ野生状態のニホンカワウソの姿が写真撮影されたのは、わずかに1枚だけだ。彼らがいかに急速に姿を消したのかがわかる(※6)。

 カワウソに限らず、取引が禁止されたり輸出国の許可書が必要な稀少種の密輸はあとを絶たない。アフリカでは、象牙のためにアフリカゾウが、漢方薬などのためにシロサイなどが密猟され、牙や角を斬り取られた彼らの死体の残虐な映像にショックを受けた人も多いはずだ。

 CO2排出による温暖化や自然の乱開発、密猟(漁)、外来種の移動など、人類が行っている様々な行為により、地球の生物多様性が大きく危機にさらされている。生態系の中のカワウソも例外ではない。生態系の頂点に位置する生物で、魚や甲殻類などを捕食するため環境中の汚染が集積しやすい。カワウソが野生状態で生息できることは、すなわちその地域の環境が豊かに保全されていることを意味する。

 自然界の生物多様性が、我々人類にとっても重要なことは言うまでもない。種の多様性や遺伝子の多様性こそが、地球全体の生態系をバランス良く成立させている。

 何か一種類の生物が絶滅することは、そのバランスが崩れることを意味する。違法にカワウソを密輸することが重なり、その個体数が減れば種の回復は難しい。生態系から自然のバランスが崩れれば、いずれ我々人類にも大きな影響が及んでくるだろう(※7)。

※1:国際自然保護連合(IUCN、International Union for Conservation of Nature and Natural Resources):1948年に創設された国際的な自然保護団体(IUCN日本委員会)。本部はスイス。89の国家会員、129の政府機関会員及び1163の非政府機関会員等が加盟(2017年2月現在)。日本は政府とともに国内のNGO団体などが加盟している。

※2:国際自然保護連合のレッドリストでは、野生生物の保全状況(IUCNレッドリストカテゴリー)において、絶滅(EX)、野生絶滅(EW)、絶滅危惧IA(CR)、絶滅危惧IB(EN)、絶滅危惧II(VU)、準絶滅危惧(NT)、軽度懸念(LC)、情報不足(DD)、未評価(NE)の9段階に分けてられている。

※3:ワシントン条約(CITES):絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora、ワシントン条約、サイテス。付属書I「絶滅のおそれのある種」、付属書II「取引を規制しなければ存続が脅かされるおそれのある種」、付属書III「少なくとも一カ国で保護の対象となっており、その国が他の加盟国に対しても取引規制への協力を求めている種」。付属書Iは「輸出許可書または再輸出証明書と輸入許可書」、付属書IIは「輸出許可書または再輸出証明書」、付属書IIIは「輸出許可書または原産地証明書」がそれぞれ必要となり、許可書が原本でなかったり修正されていたりCITES当局の正式な署名がなかったりなどした場合、輸入することは出来ない。

※4:環境省の第4次レッドリスト(2012年)による。

※5:Y. Imaizumi, M. Yoshiyuki, "Taxonomic status of the Japanese otter (Carnivora, Mustelidae), with a description of a new species." Bulletin of the National Science Museum Tokyo, Series A, 15:177-188, 1989

※5:T. Suzuki, H. Yuasa, Y. Machida, "Phylogeneticposition of the Japanese river otter Lutra nipponinferred from the nucleotide sequence of 224 bpof the mitochondrial cytochromeb gene." Zoological Science, 13:621-626, 1996

※5:Daisuke Waku, Takahiro Segawa, Takahiro Yonezawa, Ayumi Akiyoshi, Taichiro Ishige, Miya Ueda, Hiroshi Ogawa, Hiroshi Sasaki, Motokazu Ando, Naoki Kohno, Takeshi Sasaki, "Evaluating the Phylogenetic Status of the Extinct Japanese Otter on the Basis of Mitochondrial Genome Analysis." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0149341, 2016

※6:国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会(Species Survival Commission、SSC)のカワウソ専門家グループ(Otter Specialist Group、OSG)の資料「Extinction of the Japanese otter:-lessons from its extinction」(Motokazu ANDO, Mizuko YOSHIYUKI, Sung-yong HAN, Hyeong-Hoo KIM)から。

※7:F. Stuart Chapin III, et. al., "Consequences of Changing Bioldivesity." nature, Vol.405, 2000