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米国の新型コロナ犠牲者、黒人が突出 人種問題に飛び火か?

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
新型コロナの判定テストを受けるため、子どもを抱えて順番待ちする女性 (シカゴ市)(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルスの犠牲者数が爆発的に増加している米国で、とりわけ黒人の間に深刻な影響をもたらしている実態が徐々に明らかになり、社会の関心が高まっている。人種間の格差は、一歩間違えば、米社会のアキレス腱である人種問題に火をつけかねないだけに、トランプ大統領も強い懸念を表明した。

犠牲者の72%が黒人

新型コロナによる死者数が100人を突破したシカゴ市のローリ・ライトフット市長は6日、新型コロナの人種別の感染者数と死者数のデータを公表。「(人種間の)平等と統合を実現するため、われわれは今すぐ行動を起こさなければならない」と市民に訴えると同時に、黒人の感染者数の増加を抑えるための対策を強化することを約束した。

同市の発表によると、黒人は市の人口の30%を占めるにすぎないが、市内の全感染者数の半分以上を占め、全死者数に対する割合は72%に達した。人口10万人あたりの感染率や致死率も、白人やヒスパニック系、アジア系に比べて3倍から7倍も高く、黒人の命がより危険にさらされている実態が明らかとなった。

シカゴ市だけではない。ワシントン・ポスト紙のまとめによると、デトロイト市を抱えるミシガン州は死者数がすでに800人を超えているが、その41%が、同州人口の14%にすぎない黒人だ。また、ニューオリンズ市を中心とするルイジアナ州は、全人口に占める黒人の割合が32%と比較的低いにもかかわらず、死者数全体の70%を黒人が占めている。

トランプ大統領も懸念

各自治体は、新型コロナの感染者数や死者数を毎日のように発表しているが、人種別のデータを公表しているところは少ない。各地から報告を受けている米疾病対策センター(CDC)も人種別のデータは出しておらず、マイノリティを支持基盤とする民主党の連邦議員や市民団体などは、人種に関する詳細なデータを公表するよう、要求を強めている。

こうした中、トランプ大統領は7日、会見で、新型コロナの犠牲者に黒人が多いとの認識を示した上で、「この問題に全力で取り組んでいく」と強調。人種別のデータを公開していく方針も明らかにした。

黒人の感染率や致死率が他の人種グループと比較して高いことに関し、米メディアは、基礎疾患の有無や、医療保険の未加入問題、過密な住環境、人との接触を避けるのが難しいサービス業に従事している割合の高さなどを理由として挙げているが、それらの根底にあるのは、貧困問題だ。

貧困率は白人の2.4倍

カイザー・ファミリー財団がまとめた人種別貧困率データによると、人口の少ないネイティブ・アメリカン(先住民)を除けば、最も貧困率の高いのは黒人の22%で、最も低い白人の9%に比べ2.4倍も高い。貧困率は地域によっても大きく異なり、ルイジアナ州やミシシッピ州などでは、黒人の貧困率は30%を超えている。

黒人の貧困率が高いのは、親が貧困のため子どもが十分な教育機会を得られず、貧困が次世代に受け継がれる問題や、居住地域が限られているため周囲の社会環境の影響を受けやすい問題など、これも理由は様々だが、貧困は、個人の健康に大きな影響を及ぼしている。

新型コロナは、基礎疾患を持っている人のほうが重症化しやすく死亡リスクも高いことがわかっているが、米国では、糖尿病や慢性腎臓病、高血圧の持病を抱える人のリスクがより高いことが、データから徐々に明らかになってきている。

「私が象徴」

これらの基礎疾患の大きな原因が、米国の国民病と言われている肥満だ。実は、この肥満も、人種別で見ると黒人が一番多い。CDCによると、肥満の中でも最も健康リスクの高い「深刻な肥満」の割合は、黒人の場合、全黒人人口の13.8%。白人の約1.5倍だ。ちなみに、「深刻な肥満」はどれくらい太っているかというと、身長170センチの場合、体重115キロ以上が当てはまる。

貧困層は、日々の食事に十分な注意を払う余裕もなく、安価で高カロリー、高糖質のジャンクフードに頼らざるを得ない。子どものころからこうした食事を続けると、肥満になるリスクが高まる。貧困と肥満は互いに深くかかわっているのだ。

黒人のジェローム・アダムス公衆衛生局長官(45)は7日、出演したテレビ番組で、「私自身も高血圧だし、心臓病で1週間、集中治療室に入ったこともあるし、喘息持ちで、糖尿病予備軍でもある。私そのものが、米国の貧しい黒人社会で育った遺産の象徴だ」と語り、新型コロナを終息させるため、国民に協力を呼び掛けた。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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