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「威風堂々」の言葉が似合う新横綱・照ノ富士が見せたもの 大相撲秋場所初日レポート

飯塚さきスポーツライター
(写真:筆者撮影)

大相撲秋場所が幕を開けた。通常よりも少し長くなった今回の場所間。それも相まってか、初日の国技館は、この日を待ち望んでいた多くのファンが足を運び、上限5000人にほぼ達していたであろう盛況ぶりだった。

新型コロナウイルスの影響による宮城野部屋の力士たちの全休は、場所前から角界に暗い影を落とした。先場所で復活の全勝優勝を遂げた横綱・白鵬や、新十両の座を手にした北青鵬をはじめ、多くの見どころがあったため、彼らの休場はますます悔やまれたのだ。しかし、それでもファンは、この日をずっと待っていた。そう肌で感じられるほどの熱気が、国技館にはあふれていた。

胸打たれた照ノ富士の横綱土俵入り

今場所の注目は、なんといっても新横綱・照ノ富士の活躍だろう。この日、新横綱の土俵入りが、本場所初のお披露目となった。

「続きまして、横綱・照ノ富士、土俵入りであります」

アナウンスと共にその姿が館内に現れるやいなや、割れんばかりの拍手が響き渡る。

堂々たる背中。落ち着いた表情。まるでひとつひとつの所作を嚙み締めるように、新横綱は土俵入りを披露した。その一挙手一投足を見逃すまいと、まばたきすらも惜しんで目に焼き付け、感慨深さに思わず感極まってしまったのは、きっと筆者だけではなかったに違いない。

大きなケガや病気を乗り越え、この日を迎えた新横綱。「威風堂々」の言葉が似合う照ノ富士の横綱土俵入りは、多くの人の心をとらえる素晴らしいものだった。

秋場所を彩る力士たちは誰だ

白鵬不在の今場所をリードするのは、もちろん一人横綱の照ノ富士であるが、ほかにも初日に輝きを放つ力士たちがいた。

まずは、自身最高位の前頭筆頭で場所を迎えた豊昇龍。「強い人と戦えるのが楽しみ」と、場所前から気合十分だった彼は、なんと大関・正代を堂々の寄り切りで下したのだ。勝利後、土俵上でさがりをまわしから引き抜きながら見せた、気迫あふれる表情が印象的だった。

さらに、隆の勝を破った関脇・御嶽海も好調の兆し。持ち味である出足の鋭さがいかんなく発揮された一番であった。

一方で、新横綱と共に場所を牽引していってほしい正代・貴景勝の両大関は、まさかの黒星発進。カド番でもある貴景勝は、先場所痛めた首がまだ本調子ではないのか、北勝富士の激しいぶちかましに対抗できなかったため、懸念が残る。

そうは言っても、場所はまだ始まったばかりだ。紅葉のごとく、場所を彩る力士たちは誰なのか。新型コロナウイルス対策に日々奔走するすべての関係者の皆さんのおかげで、場所が開催されたことに心から感謝し、最後まで無事に15日間完走できるよう祈りつつ、今場所の行方にも注目していきたいと思う。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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