Yahoo!ニュース

「ナワリヌイ氏殺害はプーチン氏の強さを証明。バイデン氏は弱い大統領」超タカ派ボルトン元大統領補佐官

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ナワリヌイ氏の獄中死はプーチン氏の自信と強さを示しているのか?(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく2年。

 超タカ派で知られる元大統領補佐官のジョン・ボルトン氏が、ロシアの反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の獄中死について様々な米メディアで見解を述べている。

 ナワリヌイ氏の獄中死について、ブリンケン国務長官は“X”で「プーチン体制の弱さと腐敗を露呈した」と投稿したが、同国務長官の見方とは裏腹に、ボルトン氏は「ナワリヌイ氏の死は、プーチン大統領の弱さではなく、その反対の強さを示す悲劇的な出来事だ」と“News Nation(アメリカのライブTVチャンネル)”のインタビューで明言した。

ナワリヌイ氏の死はプーチン大統領の強さを証明か

 ナワリヌイ氏の獄中死がプーチン大統領の強さを示しているとはどういうことなのか? それについて、ボルトン氏は政治サイト“The Hill”への寄稿の中で詳述している。

 まず、ボルトン氏は、ナワリヌイ氏の死について、「ナワリヌイ氏の本当の死因は決して分からないかもしれない」としつつも、「ロシアの強制収容所で著名な囚人に“事故”が起きるとは誰も思っていない。 クレムリン側による著名な厄介者を排除するという決定は、プーチン大統領自身によってもたらされる必要があるだろう」と同氏の死の背後にはプーチン氏がいるとし、「ナワリヌイ氏の殺害は、プーチン大統領が自らの統治に自信を持ち、国内外の反発を気にしていないことを示している」との見方を示している。

 そして、プーチン氏が自信を持っている背景として、国内的にはプリゴジン氏のようなプーチン政権に対する批判分子を排除し、「シロヴィキ」と呼ばれる権力者たちが影響力を高めていること、国際的にはウクライナで優勢に立っていること、トランプ氏がアメリカのNATO離脱を訴え「(ロシアに)彼らが望むことは何でもするよう奨励する」と発言したことなどに言及している。

 ウクライナ戦争の戦況については「残念なことに、流れはロシアに有利に流れている。 ウクライナの2023年春季攻勢はほとんど成果をあげておらず、戦争開始以来、激しく争われてきたアウディーイウカなどの潜在的な重要拠点は今、ロシアの手に落ちつつある」と述べている。

バイデン氏は弱い大統領

 プーチン氏に自信と強さを見ているボルトン氏だが、反対に、バイデン氏には弱さを見出しているようだ。前述の、“News Nation”のインタビューでは、ウクライナ戦争や激化する中東紛争がより広範な戦争になることを恐れているバイデン氏は弱い大統領だと、いかにも超タカ派らしい批判を展開している。

 “The Hill”への寄稿の中でも、ボルトン氏は「西側諸国の指導者はすぐに怒りを表明するものの、すぐには行動を起こさない」と口だけで行動が伴わない西側諸国の対応を批判、「2021年にジュネーブで行われた会談で、バイデン氏はプーチン大統領に対し、ナワリヌイ氏が獄中死した場合、ロシアは“壊滅的な結果”に直面するだろうと警告した。 金曜日、その“結果”について問われたバイデン氏は『あれは3年前のことだ。 その間、彼らは非常に多くの結果に直面した。35万人以上のロシア兵が死傷した。 彼らは全面的に大きな制裁を受けた。 他に何ができるかを検討中だ』と答えた。バイデン氏が言及した“結果”は、ナワリヌイ氏の処遇や失脚から生じたものではなく、ロシアのウクライナに対するいわれなき侵攻から生じたものだ」とバイデン氏の回答のおかしさを指摘している。

 さらに、バイデン政権のウクライナ戦争に対する対応について「バイデン氏は2年間、非戦略的に、少しずつ援助を行い、それによってロシアが膠着状態に至るまで戦争することを許した。 バイデン氏は、ロシアが“より広範な戦争”を開始するのではないかと懸念して常に踏みとどまっているが、そのような戦争を遂行するロシアの能力がどこに隠されているかについては一度も説明していない」と批判している。

 では、バイデン政権はどう対応したらいいのか? それについて、ボルトン氏は「ナワリヌイ氏の悲劇は、特に共和党員にとって警鐘となるはずだ。 私たちはウクライナに慈善活動を行っているのではなく、アメリカのコアな利益を守るために行動している」、「ナワリヌイ氏殺害とウクライナに対する最も即時的対応は、アメリカ政府がウクライナを支援するという戦略的責務に議会が目覚めることだ」とアメリカの国益のためにもウクライナ支援を続けるべきとの姿勢を強調した。

プーチン大統領の“バイデン氏推し”は偽情報キャンペーン

 ところで、先日、プーチン大統領が「バイデン氏の方が、経験豊富で予測可能、古いタイプの政治家だと思う」と述べて、次期大統領に“バイデン氏推し”をした件が話題になったが、ボルトン氏はそれについてはプーチン大統領による偽情報キャンペーンとし、「トランプ氏が当選したら、クレムリンでは祝賀会が開かれるだろう。それについては何の疑いもない。プーチン大統領は彼(トランプ氏)のことを“騙されるお人好し”だと考えているからだ」とMSNBCのインタビューで述べている。

 また、次期大統領については「国家安全保障と外交政策における判断を踏まえると、バイデン氏もトランプ氏も大統領として容認できない」と主張。

 強いプーチン大統領に対するバイデン政権の生ぬるい対応を批判したボルトン氏だが、バイデン政権はナワリヌイ氏の獄中死に対して、ロシアに効力のある制裁を加えることができるのだろうか?

(関連記事)

「プーチンは核を使ったら遺書に署名する(暗殺される)ことになる」超タカ派ボルトン元大統領補佐官の見解

プーチンが停止した核軍縮条約は「消滅しても問題ない」 超タカ派ボルトン元米補佐官の一番の懸念とは?

「原爆投下は道徳的に正しかった」と言った、超タカ派ボルトン元補佐官はウクライナ戦争をどうみているのか

ボルトン新大統領補佐官は、原爆投下は「道徳的に正しかった」と明言した“モンスター”

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事