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「緊急事態のタイタン号が発見されなかったら、とにかく死ぬね」運航会社CEOは事故を予言していた!?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(提供:OceanGate Expeditions/REX/アフロ)

 アメリカでは、今も、沈没事故を起こした潜水艇タイタン号を運航していたオーシャンゲート社CEOストックトン・ラッシュ氏の様々な過去発言が報じられている。それらの発言は、同氏の人物像を浮き彫りにしているように思われる。

とにかく死ぬね

 例えば、insiderは、ディスカバリー・チャンネルの番組「Expedition Unknown(未知の探検)」の撮影でタイタン号に乗り込んだビデオカメラマン、ブライアン・ウィード氏が感じた懸念を紹介している。それは、ウィード氏がラッシュ氏に「母船から遠く離れている時、潜水艇に緊急事態が起きて突然浮上しなければならなくなったらどうなるのか?」ときくと、ラッシュ氏が「潜水艇内には4日〜5日分の酸素がある」と答えたので、ウィード氏が「もし(母船に潜水艇を)見つけてもらえなかったらどうなるんだ」ときくと、ラッシュ氏は「まあ、とにかく死ぬね」と答えたこと。

 ラッシュ氏のこの発言について、ウィード氏は“何日経っても潜水艇を見つけてもらえなかったら、ただ死ぬだけ。終わりだ。だからもし潜水艇から自力で出られなくても、どうでもいいことだ”ということが言いたかったのではないかと解釈しているが、この時のラッシュ氏の様子について「非常に奇妙だった。生死に対してニヒリスティック(虚無的)な姿勢を持っているように見えた」と話している。

 また、乗船者との間で交わされた4ページの免責同意書には、“死のリスク”について数多く言及されていたと報じられている。また、同じ免責同意書によれば、タイタン号がタイタニック号の残骸がある水深に到達できたのは90回中約13回しかなかったという。つまり、成功率は14%程度だったわけだ。探検は多かれ少なかれリスクを伴うものではあるが、ラッシュ氏自身、タイタニック号探検ツアーは死と隣り合わせにある成功率の低いツアーだと認識していたということだろう。

 タイタン号は水圧により破壊されたという見方が濃厚だが、「緊急事態に陥ったタイタン号を見つけてもらえなかったら、死ぬ」というラッシュ氏の発言は、遺体のようなものも発見された今となっては、予言のようにも思えてならない。

接着剤はピーナッツ・バターのようなもの

 また、潜水艇のチタン・リングとカーボン・ファイバーの船体の接合を監督したラッシュ氏は、2018年、同社のYouTubeチャンネルの動画の中で「チタン・リングを船殻に固定する接着剤は非常にねっとりしており、エルマーの接着剤のようなものではない。それはピーナッツ・バターのようなものだ」とも言及している。接合に使う接着剤はドロドロしており強力であることを表現したかったものと思われるが、それをピーナッツ・バターに喩えたところが軽率だと捉えられているようだ。

 ちなみに、先日、引き上げられた残骸の写真を見たエキスパートは、カーボン・ファイバーの船体が最初に壊れ、その結果、壊滅的な爆縮が起きたという見方をしている。

 さらに、ラッシュ氏はタイタン号のデザインについても「デザインは非常にシンプルだ。しかし、私たちがメチャメチャにしたら、復旧できる余地はほとんどない」とタイタン号のデザインの脆弱性についても言及していた。

 ちなみに、乗船者と交わした免責同意書には、タイタン号について、“他の潜水艇では広く使われていない素材を使って製造された実験的潜水艇である”とも記されていたという。

 つまり、ピーナッツ・バターのような接着剤でチタン・リングとカーボン・ファイバーが接合され、あまり使われていない素材が使われた脆弱な実験的潜水艇タイタン号は、母船に発見されなかったら乗船客が死ぬことになる“死の潜水艇”だったわけである。

ルールを破らせるほどの旺盛過ぎるリスク・アペタイト

 しかし、ラッシュ氏はなぜそんな実験的潜水艇でツアーを運航していたのか? 

 事故に遭ったタイタン号ツアーに参加しようと考えていたラスベガス在住のブルーム氏は、ラッシュ氏が自作の実験用飛行機でチケットの販売交渉にやってきたのを見て、ラッシュ氏の“リスク・アペタイト”(ビジネスの目的を達成するために、敢えて取るリスクのこと)の旺盛さに懸念を見出したと話している。

 ラッシュ氏はまた、ルールを破ることが付加価値をもたらすとの考えも示していた。「『ルールを破ったことにより、人々は思い出される』と言ったのはマッカーサー将軍だったと思う。私はいくつかのルールを破ったが、論理と優れたエンジニアリングに裏付けられた上でルールを破ったと思う。カーボン・ファイバーとチタンの接合はやらないというルールがあるが、私はそれをやった。破るべきルールを選ぶことが、人や社会に付加価値をもたらすのだ」と2012年7月にタイタン号に乗船したメキシコ人のトラベル・ブロガーからインタビューされた際に述べている。

 ルールを破らせるほど旺盛過ぎたラッシュ氏のリスク・アペタイト。結局のところ、そんなリスク欲がタイタン号沈没事故を引き起こしたのではないか。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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