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潜水艇専門家がタイタン号できいた“ヤバい音”を、運航会社CEOは「惨事が迫るものでは全然ない」と軽視

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(提供:OceanGate Expeditions/REX/アフロ)

 「ボーイング社から大割引で入手した、使用期限切れの航空機用カーボン・ファイバー素材で製造した」と、運航会社オーシャンゲートCEOのストックトン・ラッシュ氏が話していたというタイタン号。

 そのタイタン号には、2019年、潜水艇専門家カール・スタンリー氏も危険性を見出し、ラッシュ氏が「タイタニック探索ツアー」を開始することに警鐘を鳴らしていた。CNNなどの米メディアが報じている。

潜水艇内できこえたヤバい音

 スタンリー氏がラッシュ氏に警告を与えたのは、2019年4月にスタンリー氏がバハマ諸島沖でタイタン号で潜水した際、ヤバい音をきいたからだ。それは、潜水艇に亀裂が生じているような大きなノイズで、スタンリー氏は潜水艇に何か問題が生じていると感じたという。

 もっとも、ラッシュ氏は潜水の参加者たちには事前に、その音について、「潜水中、潜水艇はたくさんの大きなノイズをたてるが、それは予想されていることなので、惨事が迫るものでは全然ない」と言って、音を軽視していたようだ。

 しかし、潜水艇内できいた大きなノイズを懸念したスタンリー氏はラッシュ氏にメールを送り、自身の考えを述べた。

「私がきいた音は、非常に高い圧力を受けて圧縮、損傷されたことにより、一部の箇所に欠陥が生じているような音にきこえました。音の強度、音が深度のあるところでも完全には止まなかったこと、深度約300フィートで蓄積されたエネルギーが解放されたことを示す音がしたことは、船体の一部が壊れ、柔らかくなっていることを示唆しています」

 スタンリー氏はまた、ノイズの正体を突き止めずに、ラッシュ氏がタイタン号でツアーを開始することに懸念を示し、こう訴えている。

「このプロジェクトを自己資金により、自分のスケジュールで進めているとして、ノイズの出所がわからないのに、タイタニック号を観に何十人もの人々を連れて行こうと考えますか?(連れて行こうとは考えないでしょう?)」

テスト潜水の回数50回の提案に対し、疑問を呈したCEO

 その後、ラッシュ氏はノイズの問題に対処したのか、インサイダーによると、ラッシュ氏はスタンリー氏に「ノイズの問題は調査され、改善されつつある」という趣旨のメールを送っている。もっとも、タイタン号のテスト潜水を行う回数については、両者の間で議論が行われたようだ。

 ラッシュ氏は「潜水して分析を行った結果、明確にノイズの減少が見られたが、データが2回分しかないため検証可能とは言えず、深度4,000フィートの潜水を最大5回追加で行ってノイズのデータを取得する」と述べたのに対し、スタンリー氏は「2〜7回の深度でのテスト潜水は、6桁のチケット(ツアー参加料は25万ドル)のツアーを開始するには少なすぎる。50回テストするのがいい」と反論。スタンリー氏が50回に言及したのは、彼自身が所有している潜水艇に対して50回潜水テストを行い、また、スカイダイビングのBライセンスを取得するのにも50回のジャンプが求められているからだ。これに対し、ラッシュ氏は、スタンリー氏の提案は「恣意的な潜水回数だ」と50回という回数に疑問を呈し、テストには「2回か20回かかるかもしれない」と述べたという。これに対しスタンリー氏はまた、他の専門家も50回が「良い指標」だと考えていると言って反論したそうだ。

 ちなみに、ラッシュ氏はスタンリー氏がタイタン号で潜水した年はツアーをキャンセル、スタンリー氏は「ラッシュ氏は、100万ドル以上をかけて、ボーイング社が航空機を製造するのに使用している同じ素材を使って潜水艇を再建したようだ」と話している。

 また、スタンリー氏はタイタン号の事故原因についてはこう分析している。「故障は時間経過とともに生じた亀裂により起きたのではないか、また、ジョイント部分でも問題が発生したのではないかと感じています。さらに、ジョイント部分への水の侵入や、電解質反応(電解腐食)も起きたのではないかと。なぜなら、カーボン・ファイバーは金属ではないものの、ある意味では金属のように振る舞い、導電性もあるからです。そのため、カーボン・ファイバーとチタンとの間に侵入した海水が時間経過とともに腐食を引き起こした可能性があります」

 米沿岸警備隊は25日、タイタン号の捜索・救助活動を終了したと発表、再発防止のため原因を究明する調査委員会も立ち上げられた。深海で起きた事故の原因に辿り着くことができるのか注目される。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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