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「360度スピンし、生還できないと思った」乗船者 タイタン号は推進機トラブルで制御不能に陥っていた!

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
360度スピンするタイタン号に対処しているグリフィン氏(右)。出典:BBC

 沈没事故を起こした潜水艇タイタン号を運営していたオーシャンゲート社が、同社ウェブサイトで、深海ツアーや海洋調査を一時中止すると発表した。

 深海ツアーについては、タイタン号の残骸が引き上げられ、遺体とみられるものが発見された後も、2024年に行われる2つのタイタニック号探検ツアーのスケジュールがウェブサイト上に掲載された状態になっており、米メディアは同社が「2024年のツアーを今もまだ宣伝している」と批判していたのだが、同社はやっとツアーの一時中止を正式に発表したわけである。

 アメリカでは、残骸引き上げ後も様々な続報が流れているが、その一つとして、タイタン号が2022年夏に行われたの潜水の際に、推進機(スラスター)のトラブルに襲われていたことも報じられている。

360度スピンしかできない

 英BBCがテレビ番組「ザ・トラベル・ショー」の撮影中に捉えたタイタン号内の映像が、推進機に不具合が生じ、前にも後ろにも進むことができず、スピンするしかない状態に陥ったことを示す潜水艇内の様子を紹介しているからだ。推進機の不具合が生じたのは、タイタニック号まであと300メートル付近、すでに周囲には残骸も見られる水深約3,800メートル地点だった。

 映像は、この時、タイタン号を操縦していたパイロットのスコット・グリフィン氏が「何が起きているかわからない。推進機に何か問題が起きている。推進させているが、何も起きない」と懸念する発言をしたり、乗船者に「スピンしているのか?」ときくと乗船者が「そうだ」と答えたり、グリフィン氏が推進機の状況について「オー、ノー、問題が起きている。前方に推進させると、推進機の一つが後方に推進している。今は360度スピンすることしかできない」と言及したりする様子を映し出しているという。(映像の一部は、英デイリー・メールで紹介されている)

生還できないと思った

 潜水艇がスピンする中、乗船者は生きた心地がしなかったようだ。映像はまた、状況に苦悶する乗船者が手で頭を押さえている様子や、下船後「“生還できない、タイタニック号から300メートルしか離れておらず、すでに残骸のあるところにいるのに、ただグルグルと回ることしかできない”と思った」とスピン時の心境を吐露する乗船者も紹介している。

 スピンしているタイタン号に対し、CEOのラッシュ氏は海上の母船から交信してタイタン号がタイタニック号の方向に進むのを助けた。そのため、タイタン号は再び操縦可能となり、乗船客はタイタニック号の残骸を見ることができたようである。

もっとテストする必要があった

 ちなみに、推進機の問題は、米ディスカバリー・チャンネルの「Expediton Unknown(未知の探検)」のホストのジョシュ・ゲイツ氏も懸念を感じ、タイタニック探検ツアーをキャンセルしている。同氏は2021年にオーシャンゲート社がまだタイタン号のテストを行っている時に数時間乗船した際、様々な問題を見出していた。「推進機に問題があった、コンピューター・ボードにも問題があった、通信にも問題があった。潜水艇にはもっと時間が必要だ、もっとテストする必要があると感じた」とアメリカのテレビショーで話している。

 テストが不十分であることについては、潜水中に亀裂が生じているような大きな音をきいて問題があると感じた潜水艇専門家のカール・スタンリー氏も指摘していた。そのため、同氏は50回テスト潜水するようラッシュ氏に勧めたが、ラッシュ氏はそれほど多くのテスト潜水は必要ないと楽観視していたようだ。

 様々な問題を抱えていたと指摘されているタイタン号。

 残骸調査により、タイタン号が抱えていた問題が見つかり、事故原因にたどり着くことができるのか注目される。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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