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「タイタン号に使用したのは大割引で入手した使用期限切れの航空機用素材」運航会社CEOが生前言及 米誌

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
タイタン号には使用期限切れの航空機用素材が使われていたのか?(提供:OceanGate Expeditions/REX/アフロ)

 5人の乗船者が死亡したと見られる潜水艇タイタン号の沈没事故。

 タイタン号が抱えていた様々な問題が指摘されているが、米旅行誌「トラベル・ウィークリー」の編集長アーニー・ワイズマン氏もまた、懸念を感じていたようだ。同氏は、5月、タイタン号による8日間のタイタニック・ツアーに参加、潜水スポットまで往復するのに使われる母船ポーラー・プリンスに乗船したが、結局、天候不良のためタイタン号での潜水はキャンセルされた。パイロットは、今回の事故で亡くなった、ツアーの運航会社オーシャンゲイトCEOのストックトン・ラッシュ氏だった。ワイズマン氏は、ツアーの体験記を「トラベル・ウィークリー」に掲載し、その中で「ただ一つ気になることがあった」と懸念を述べている。

「使用期限切れの航空機の素材を使用」とCEO

 それは、ラッシュ氏が「タイタン号の製造に使用されたカーボン・ファイバーはボーイング社から大幅な割引価格で入手したものだ。なぜならそれは航空機での使用期限が切れていたからだ」と言及したことだという。気になったワイズマン氏はラッシュ氏に「それは問題ではないのか?」ときくと、ラッシュ氏は「使用期限は実際の使用期限よりもかなり短くに設定されている。ボーイング社やNASAもタイタン号の設計とテストに参加していた」と答えたという。

 事故が起きたからだろう、ワイズマン氏は「この1週間、この時交わしたやりとりについて随分考えた」と述べている。

 もっとも、ボーイング社はタイタン号との関与について「ボーイングはタイタン号のパートナーではなく、設計や製造もしていません。オーシャンゲイトまたはCEOに複合素材を販売した記録もありませんでした」と否定した。

 潜水艇の船体にカーボン・ファイバーを使用することについては、映画『タイタニック』を制作したキャメロン監督が疑問視し、「カーボン・ファイバーとチタンの船体が剥離や微細な水の浸入を許し、時間とともに不具合が進行すると警告した批評家は正しかった」と言及したが、ラッシュ氏はカーボン・ファイバーは強度対浮力の点でチタンの3倍優れていることやコスト削減の利点があると主張していたという。

“故障した潜水艇”を示す数字が繰り返し出現

 また、ラッシュ氏は、重要度に基づいてモニターで行うチェック作業をリストアップし、その作業を乗船者に割り当てていたという。その際、"4-19"という数字が「"4-19"ラインをインストールせよ」というように繰り返し現れたという。ワイズマン氏が「"4-19"ラインとは何ですか?」とラッシュ氏に尋ねると「映画『モンスターズ・インク』を覚えてる? モンスターが戻ってくる時、肩に白い靴下(white sox)を付けているよね? あれは"23-19"と呼ばれた。(whiteの)'w'はアルファベットの23番目の文字で、(soxの)'s'は19番目の文字だ。"4-19"は'disabled sub'(故障した潜水艇)のことだ」と答えたという。つまり、故障を示す"disabled"の'd'はアルファベットの4番目の文字であり、潜水艇を示す"submersible"の's'は19番目の文字なので"4-19"と表示されたわけである。

 乗船者はモニターでのチェック作業が重要であるにもかかわらず、気軽に捉えているようなところもあったというが、タイタン号の事故後、この時ラッシュ氏と交わしたやりとりについて考えたワイズマン氏は「振り返ってみると、それほど気軽に捉えられることではなかった」と述べている。

 実際、ワイズマン氏は、4月に、今回のツアーで亡くなった冒険家でビリオネアのハミッシュ・ハーディング氏から、昨年、タイタン号を母船に戻す際にトラブルが起き、タイタン号が一晩中洋上に浮かんでいた時に、"4-19"のトラブルに対処する作業が起きたことを聞いていたからだ。ハーディング氏は「潜水艇の中にいる人たちはかなり大変だったと聞いている」と話していたという。ワイズマン氏はこの時初めて「明らかにわかる問題以上に、様々な形の問題が起こりうるのだと考えた」と述べている。

 深海でどんな問題が起きていたのか? 事故原因の究明には時間がかかることが予想される。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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