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「ロシアは自国領内で核兵器を使うのではないか」ワグネル創設者が懸念 核使用失敗の可能性も示唆 米報道

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
プリゴジン氏はロシアがロシア領内で核兵器を使用することを懸念。(写真:ロイター/アフロ)

 タス通信によると、ロシアのプーチン大統領はベラルーシのルカシェンコ大統領と会談、ロシアが保有する戦術核兵器のベラルーシ領内への配備について、「予定通りに進んでいる。7月7~8日には準備が完了し、配備作業が開始される」と述べた。

 ロシアが核兵器を使用する可能性については、かねて危惧されてきた。ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、プリゴジン氏もロシアが核兵器を使用することを懸念していると6月6日付け米紙ニューヨーク・ポストが報じている。もっとも、同氏は、ロシアが自国領内で核兵器を使用する可能性があると懸念しているようだ。

ロシアが自国領内で核を使う?

 プリゴジン氏は、ロシア政府寄りのテレグラム・ニュース「ドンバス・ナウ」のインタビューで、ウクライナとの国境を接しているロシア領のベルゴルド地域での戦闘について、「ロシアが、自国領内で小さな核爆弾を投げるという卑劣な考えを思いつくのではないかと懸念している」と述べたというのだ。小さな核爆弾というのは戦術核兵器のことだと思われる。

 ベルゴルド近くの国境では、ウクライナ軍と共に戦ってきた、ウクライナを支援するロシア人のパルチザン・グループが攻撃を開始し、街を破壊、多くのロシア人が避難を余儀なくされた。

 プリゴジン氏はこの状況について「だから、我々(ロシア人)がベルゴルド地域から後退し、ウクライナ兵が前進しているわけだろ?」と言い、ロシア軍が自国領内で核爆弾を使う可能性について「なぜなら、他国の領土に向かって核爆弾を投げるのは怖いが、自国領の街で投げて、みなにもの凄さを誇示することはできるからね」とウクライナ軍がロシアとの国境にあるロシア領の村に駐留した場合、ロシア軍がそこにいるウクライナ軍に対して戦術核兵器をぶっ放すシナリオについて言及したという。

ロシアによる核使用は失敗する可能性も

 しかし、プリゴジン氏は、ロシアが自国領で戦術核兵器を使ったところで、それが奏功するかについては疑問を持っているようだ。「(ロシア国防省の)軍装備品のメインテナンスのやり方を考えると、核兵器が適切に機能するかどうかさえ大きな疑問だ」と述べ、核使用が失敗する可能性も示唆したという。

 先日、同氏は、武器や弾薬がワグネルの戦闘部隊の元に届かないために多くの兵士が亡くなっている状況について、ロシア兵の遺体を映し出す動画を投稿して、ロシア国防省に怒りをぶちまけたが、軍装備品のメインテナンスがうまくできていないロシア国防省は戦術核兵器のメインテナンスもきちんとできていないのではないかと疑問を感じているようだ。

 ロシア軍の兵器については、プーチン大統領が、9日、「現代的な兵器が足りない」と高精度のミサイルや新しい戦車などが不足していることを認める発言をしたとタス通信が伝えている。しかし、戦術核兵器では、ロシアの保有数は約2,000発で、他のどの国よりも多いとアメリカは推定している。

ダム決壊はロシアにとって不利

 また、6日に起きたカホフカ・ダムの決壊については、米戦争研究所はロシアの防衛態勢に不利に働くとの見方も示している。ダムの決壊により水はドニプロ川に流れ出たが、洪水は主にヘルソンを奪還したウクライナ軍が駐留する西側ではなく、ロシア軍が占領している東岸で発生し、ウクライナ軍の攻撃を防御するために使おうとしていた要塞が被害を受けたと同研究所は分析、これにより、ロシア軍は撤退を余儀なくされ、地雷源を含む軍装備品も失われたというのだ。また、ロシア軍は洪水が起きたエリアから5〜15キロの位置に再配置されたことから、ドニプロ川の西側にいるウクライナ軍への射程範囲の外に出てしまったという。

 しかし、その一方で、ダムの破壊はロシア軍にベネフィットを与えるという指摘もされている。ウクライナ軍がドニプロ川を渡って前進するのが困難になったからだという。

 プーチン大統領は「ウクライナの反転攻勢が始まった」との見方も示し、ウクライナのゼレンスキー大統領も反転攻勢を認めたが、西側諸国の強力な兵器を供与されたウクライナによる反転攻勢が開始された今、戦況は重要な要塞が洪水による被害を受け、現代的な兵器も不足しているロシア軍にとって厳しい方向へと進んでいるようだ。そんな中、ロシアが戦術核兵器を使用する可能性があるというプリゴジン氏の懸念は、果たして懸念のままで終わるのか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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