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「バイデン氏の“台湾防衛宣言”は日本をややこしい立場に。中国との戦争で甚大な影響」米紙 日米首脳会談

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 バイデン大統領が初訪日し、岸田首相と日米首脳会談を行った。

 会談後の記者会見で、台湾有事が起きた場合、米国が軍事的関与をするかと問われた同氏は「はい、それが我々の約束だ」と明言、米国の有力紙は、この“台湾防衛宣言”を以下のタイトルで報じている。

ニューヨーク・タイムズ「バイデン、台湾が中国からの攻撃を受けたら台湾を防衛すると誓約」

ワシントン・ポスト「バイデン、アジア訪問で、中国に攻撃的姿勢を取る。大統領は(台湾が)中国から攻撃を受けた場合、台湾軍を防衛すると警告、ロシアのウクライナ侵攻に直接なぞらえる」

3回目の“台湾防衛宣言”

 もっとも、バイデン氏が“台湾防衛宣言”をしたのは今回が初めてではない。

ニューヨーク・ポストが「ホワイトハウスが、バイデンの台湾防衛発言を打ち消すのは9ヶ月で3回目」というタイトルで報じているが、バイデン大統領は、昨年8月には、ABCテレビのインタビューに対し「北大西洋条約機構(NATO)の同盟国が侵略されたり行動を起こされたりしたら、我々はそれに対処するというNATO条約第5条に誓約している。日本についても、韓国についても、台湾についても同じだ」と発言、昨年10月に、CNNのキャスターのアンダーソン・クーパー氏に「アメリカは、台湾が中国に攻撃されたら台湾を防衛するのか?」ときかれた時も「そうだ、そうコミットメントしている」と明言している。

 そして、その度に、ホワイトハウスは「米国の台湾問題に関する“一つの中国”という政策に変更はない」と“台湾防衛宣言”の“火消し”に追われた。今回も、米国防長官のロイド・オースティン氏がすぐに“火消し”をした。

 ニューヨーク・タイムズは、バイデン氏は、敵対国に対峙する場合、スタッフの注意を無視する癖があることも指摘、バイデン氏がロシアのプーチン大統領について「戦争犯罪人」と呼んだことや、「権力の座に留まってはいけない」と非難したことを例にあげている。ホワイトハウスは、バイデン氏がこれらの挑発的な発言をした後も“火消し”に走った。

 しかし、“台湾防衛宣言”は3回目ともなると、それはもはや“失言”などではなく、発言後にホワイトハウスが“火消し”をすることを織り込み済みでした発言といえるのではないか。バイデン氏が具体的にどんな軍事介入を意図しているかは不明だが、ニューヨーク・タイムズは「彼(バイデン氏)は、米軍が何らかの形で台湾に配備されることを意味しているという印象を明らかに残した」という見方をしている。米国がこれまで台湾問題に対してとってきた「戦略的曖昧さ(中国の台湾侵攻という有事の際、米国が軍事介入するかは明確にしない戦略)」という政策からシフトしようとしている表れのようにも見える。少なくとも、中国はそう捉えるかもしれない。

 また、ロシアによるウクライナ侵攻を食い止めることができなかったことが批判されたバイデン氏である。東アジアでプレゼンスを高める中国に対して、有事の際は軍事介入をするという強硬な姿勢を見せる必要性を強く感じているのだろう。

 さらには、秋に中間選挙を控えているにもかかわらず、国内ではインフレ問題やリセッションの懸念など多くの問題が山積し、39%という政権発足後最低の支持率を示したことからくる焦りもあるのかもしれない。敵対国に強硬な姿勢を示すことは求心力を高める常套手段である。

ややこしい立場に置かれた日本

 台湾はバイデン氏の発言を歓迎しているが、一方で、懸念する声もある。

 ニューヨーク・タイムズは今回の発言について「米国と、台湾は領土の一部であり主権国家として存在できないと主張している中国の間に、新たな緊張を生み出しやすくした」と両国間関係に与えるネガティブな影響を指摘している。実際、中国も、すぐにバイデン氏の発言に対し、強い反対の意を表明した。

 同紙はまた「バイデン氏の台本にない発言は、日本をややこしい立場に置いた。台湾は人が居住している日本の最西端の島である与那国島からわずか65マイル、中国との戦争は、第二次世界大戦で敗戦以降、武力衝突を否定してきた日本に甚大な潜在的影響をもたらす」と日本にも大きな影響が及ぼされる可能性があると指摘している。

 また、ロイター通信も、バイデン氏の発言について「地域の平穏を保ち、台湾を安全にする助けにはならないと思う」と米中対立という脅威を懸念する声や「アメリカの政策を取り巻いている混乱は抑止力を損なう。我々が抑止しようとしている攻撃を挑発する可能性がある」という意見など、発言を問題視する識者の分析を紹介している。

 “台湾防衛宣言”は中国の軍事行動の抑止に奏功するのか、それとも抑止力を損なうものになるのか。また、岸田首相は防衛費増額を表明したが、それは東アジアの安全保障にどんな影響を与えることになるのか。議論すべきことが多々あるのではないか。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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