バイデン大統領が追加調査指示を出して注目されている、新型コロナウイルスの「武漢ウイルス研究所流出説」。

 3月には、前CDC(米疾病対策センター)所長で、ウイルス学者でもあるロバート・レッドフィールド氏がCNNのインタビューで「研究所から流出したと思う」と発言し、大きな波紋を呼んだ。

科学者から来た“殺しの脅迫”メール

 そのレッドフィールド氏が、CNNで問題の発言をした後、「殺しの脅迫」を受けていたことを、米誌「ヴァニティー・フェア」が報じている。

 レッドフィールド氏は同誌でこう話している。

「私は脅され、村八分にされました。別の仮説(研究所流出説のこと)を提示したからです。政治家から脅されると思っていました。科学界から脅しが来るとは思っていなかった」

 レッドフィールド氏は、著名な科学者たちから“殺しの脅迫”メールが殺到したこと、メールの中には前の友人からのものもあったことなどを同誌で明かしている。メールの中には「枯死しろ」というものもあったという。

 科学界から「殺しの脅迫」が来たのは、科学者たちが「動物由来の自然発生説」の立場を取り、「研究所流出説」は陰謀論として否定しているからだろうか。

 しかし、なぜ、レッドフィールド氏は、政治家サイドから脅しが来ると思っていたのか? その答えは、「ヴァニティー・フェア」が数ヶ月にわたって、40人以上の関係者にインタビューしたり、内部メモや会議議事録を得たりするなどの調査を行って発表した調査報道記事から窺い知ることができる。

“パンドラの箱”を開けるな

 同誌が入手した内部メモの中で、元国務省の高官トーマス・ディナンノ氏はこう書いていた。

「2つの局のスタッフが、新型コロナの起源調査を追求するな、追求し続けたら“パンドラの箱”を開けることになると警告した」

 また、元国務省高官たちによると「研究所流出説を調査していたグループのメンバーたちは、繰り返し、“パンドラの箱”を開けないよう警告されていた」という。そのため、ディナンノ氏は「警告は隠蔽の匂いがした。関わらないことにした」と同誌に話している。

 “パンドラの箱”を開けたら、何が出てくるのか? 

 それは、当時、国務省で新型コロナの起源調査を行っていたデビッド・アシャー氏の発言が示唆している。同氏は「連邦政府内では、機能獲得実験をめぐる重大な官僚主義があることがすぐに明らかになる」と話していたという。

 また、国務省バイオロジカル政策スタッフのディレクターであるクリストファー・パーク氏も、同誌が入手した会議議事録の中で、高官たちに、機能獲得実験におけるアメリカ政府の役割を指摘しないよう忠告していたという。

 機能獲得実験とはウイルスを遺伝子操作してウイルスが持つ機能を増強したり、ウイルスに機能を付加したりする実験で、伝染力や致死力が高められたウイルスが流出する危険性もあることから、オバマ政権時代、機能獲得実験に対する連邦助成金の提供が一時中断されていた。

 米国務省内では、新型コロナの起源調査にあたり、危険視されている機能獲得実験と関係がある可能性がある「研究所流出説」を追究するのはご法度という空気が流れていたわけである。

機能獲得実験に連邦助成金が使われていた?

 なぜか?

 それは、前の投稿“新型コロナ「武漢ウイルス研究所流出説」の信憑性を高める米連邦助成金問題とは?”で書いたが、アメリカ政府が武漢ウイルス研究所で行われていたコロナウイルスの機能獲得実験に連邦助成金を出していたとする問題が指摘されていたからだ。米国立衛生研究所の連邦助成金は、ニューヨークにあるエコアライアンスという非営利研究機関を通じて、武漢ウイルス研究所に送られていた。武漢ウイルス研究所は、2014年〜2019年の間、連邦助成金約340万ドルを受け取っていたが、その一部は、コウモリのコロナウイルス研究に当てられていたという。

 もっとも、米国立衛生研究所所長のフランシス・コリンズ博士も、米国立エネルギー感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ博士も、武漢ウイルス研究所に送られた連邦助成金は機能獲得実験には使われていないと主張している。

 ところで、エコアライアンスの社長ピーター・ダスザック氏は、2020年2月の科学誌「ランセット」に掲載された、27人の科学者たちが署名した“新型コロナは動物由来で自然発生したものであり、研究所から流出したものではない”とする発表を取りまとめた主要人物である。科学者たちが行ったこの発表が「研究所流出説」はありえないとする見方に大きな影響を与えたと言われている。

 また、ダスザック氏は、今年2月、武漢で新型コロナの起源調査を行うことが許可された、WHO調査団の唯一のアメリカ人メンバーでもあった。

 WHOは調査後、「研究所流出説」は最もありえない仮説だと位置づけたが、ダスザック氏が社長を務めるエコアライアンスが「流出説」が取りざたされている武漢ウイルス研究所に連邦助成金を送っていたこと、同氏が「動物由来の自然発生説」という科学界の見方をまとめたことを考えれば、今、一部の科学者たちが「利害の対立」を問題にして、新たに独立調査を行うべきだと主張しているのは理解できることかもしれない。

病気になった3名の医療記録の提出を求める

 しかし、中国はどこまで今後の調査に協力するのか? それについて、米新型コロナ対策チームのトップ、ファウチ博士は、MSNBCのインタビューでこう話している。

「パンデミックの起源を見つけることは、中国にとっても利益になることです。オープンになって協力する姿勢が明らかに求められています。協力を得るには、一つには、非難しないことです。非難は、中国をいっそう後ずさりさせるだけだと思います」

 中国の協力を仰ぎたいなら、中国を責めるなというファウチ博士。

 一方、ファウチ博士は、中国に対し、初期感染者9名の医療記録を発表するよう求めるという強い姿勢も見せている。今回、バイデン大統領の追加調査指示のきっかけになったのは、2019年秋に武漢ウイルス研究所でコロナウイルスの研究をしていた研究員3名が病気になって病院に搬送されたという出来事だが、その3名について、博士は英紙ファイナンシャル・タイムズで「2019年に病気になったと報じられている3名の医療記録が見たい。彼らは本当に病気になったのか? もしそうだとしたら、何で病気になったのか?」と研究所を追究するコメントをした。

中国は賠償金を支払え

 「研究所流出説」を陰謀論化させたトランプ前大統領も、流出説を再燃させ始めた。2022年の中間選挙に向けて政治活動を始めたトランプ氏は、6月5日、ノースカロライナ州で3ヶ月ぶりに行った演説で、訴えた。

「アメリカと世界が、中国共産党に賠償金と責任を求める時がきた。新型コロナによって引き起こされた損害に対して、少なくとも10兆ドルの賠償金を中国に要求すべきだ。中国に借金を抱えている国は、その借金を賠償金の頭金にさせて、借金を帳消しにすべきだ」

 バイデン大統領が期限を設けた90日間の間に、アメリカが、どこまで新型コロナの起源に迫ることができるか注目されるところだ。

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