新型コロナ「武漢ウイルス研究所流出説」の信憑性を高める米連邦助成金問題とは?

武漢ウイルス研究所には、米保健福祉省の審査なしの米連邦助成金が交付されていた。(写真:ロイター/アフロ)

 WHO(世界保健機関)の報告書で「極めて可能性が低い」とされた、武漢ウイルス研究所から新型コロナウイルスが流出したとする仮説。中国側が完全な生データを提供しないため、研究所から流出したのかを検証するのは難しい状況だが、研究所流出説については、前の投稿で書いたように、前CDC(米疾病対策センター)ディレクターでウイルス学者でもあるロバート・レッドフィールド氏もその可能性があるとCNNで私見を述べたことから、注目されている。 

 武漢ウイルス研究所で行われていたコウモリのコロナウイルス研究(コウモリのコロナウイルスを遺伝子的に改変するためのプロジェクト)に対しては、ニューヨークの非営利研究機関エコアライアンスを通じて、米国立衛生研究所の連邦助成金60万ドルの一部があてられていた。

 この連邦助成金について、米右系メディア「デイリー・コーラー」がある問題を指摘している。その連邦助成金は P3CO(Potential Pandemic Pathogens Control and Oversight)という米保健福祉省(Human and Health Service)内にある監督委員会の審査を受けていなかったというのだ。

 P3COは、新型コロナウイルスのような、パンデミックを引き起こす可能性がある危険な病原体の研究の抑制および監督を行うために2017年に設けられた。

P3COによる連邦助成金の審査

 P3COが設けられた背景には、病原体の機能獲得実験(gain of function research)が問題視されていたことがある。機能獲得実験では、病原体を遺伝子操作して病原体が持つ機能を増強したり、病原体に機能を付加したりするが、それにより、病原体がどう変異して感染力が高まるか研究することができたり、より優れたワクチン開発に向けた研究ができたりするというベネフィットがある。しかし、その一方で、恐ろしい病原体が生み出され、それが研究所から流出してパンデミックを引き起こすリスクもあると懸念されていた。

 そのため、2011年、ウィスコンシン州とオランダにある研究所が、フェレット間で効率的にウイルスが感染するようにH5N1鳥インフルエンザウイルスを変異させる実験を行っていたことが明らかになった時は、抗議が起きた。ちなみに、研究所は、フェレット間での感染実験は、ヒトヒト間でのインフルエンザの感染のしやすさを研究するモデルになるという理由で行っていた。

 2014年10月、オバマ政権は、機能獲得実験により、機能を獲得して強力化したウイルスが市中に漏れ出すリスクを懸念し、機能獲得実験に対する連邦助成金の提供を一時中断する。

 しかし、2017年には、危険な病原体の研究を監督する機関として前述のP3COを設け、機能獲得実験に対する連邦助成金の提供を再開した。P3COは、「大流行の可能性のある強化された病原体」に連邦助成金を出す価値があるか、また、強化された病原体が安全な環境下に置かれているかなどについて審査を行っている。また、P3COは、連邦助成金があてられる機能獲得実験に対し、追加的に危険低減措置を行う必要があるかどうかレコメンドする責任も担っている。

P3COがコロナ研究用の助成金を審査しなかったワケ

 しかし、エコアライアンスが米国立衛生研究所から受け取った、武漢ウイルス研究所でのコウモリのコロナウイルス研究のためにあてられた連邦助成金は、このP3COの審査を受けていなかったのである。

 なぜ審査を受けなかったのか?

 背後にはシステム上の問題が潜んでいるようだ。P3COは、連邦助成金を提供する米国立衛生研究所(NIH)の副機関である米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が審査をするよう警告を出すまでは審査を行わないシステムになっているというのだ。

 つまり、米国立アレルギー・感染症研究所が、武漢ウイルス研究所でのコウモリのコロナウイルス研究のための連邦助成金について審査するよう警告を出さなかったことから、P3COによる審査が行われなかったのである。

 なぜ、警告を出さなかったのか?

 NIHのスポークスパーソンはその理由について、デイリー・コーラーにこう話している。

「NIAIDが連邦助成金を詳細に検討したところ、武漢ウイルス研究所でのコロナウイルスの研究は機能獲得実験ではないと判断したのです。ウイルスの病原性や感染力を強力化する研究が含まれていなかったからです」

研究所は機能獲得実験を行っていた

 NIAIDの判断に対し、分子生物学者であるラトガース大学のリチャード・エブライト氏は疑問を投げかけている。

 先週出されたWHOの報告書によると、研究所で行われていた研究はコウモリのコロナウイルスの実験の際に組み替えウイルスを使っており、それは機能獲得実験に当たるとエブライト氏は指摘、「NIAIDが、エコヘルスアライアンスに認可した連邦助成金はコロナウイルスの感染力を増強させる機能獲得実験に関与していないと判断したことは間違っていた」と述べている。

 前述のレッドフィールド氏も、CNNで、コロナウイルスが効率的にヒトヒト間感染するような機能獲得実験が行われていた可能性を指摘している。

 また、NIHの要約書は、コロナウイルスの感染実験については、P3COの枠組みの中で、その実験によりベネフィットがリスクを上回るか審査する必要があるとしているが、それがなされなかったとエブライト氏は指摘する。

「NIAIDとNIHは審査をするよう警告せず、P3COをシステム的に無効にした」

 実際、連邦助成金が交付されたコウモリのコロナウイルス研究はリスクがあった可能性がある。

 ワシントンポストによると、2018年、中国にあるアメリカ大使館の外交官が武漢ウイルス研究所を訪問した後、外交公電で、研究所の安全運営に問題を見出し、研究所で行われているコウモリのコロナウイルス研究は、新たに、SARSのようなパンデミックを引き起こすリスクがあると警告していたからだ。

 もし、レッドフィールド氏の私見通り、武漢ウイルス研究所から新型コロナが流出していたとしたなら、その遠因には、コウモリのコロナウイルスの研究に対する連邦助成金が事前に米保健福祉省のP3COにより審査されていなかったという問題があったのかもしれない。もし、審査され、ベネフィットを上回るリスクが見出されていれば、追加的な安全措置が講じられたか、あるいは、連邦助成金が認可されなかった可能性もある。翻せば、審査されなかったために、リスクが見出されることなく交付された連邦助成金で研究が行われ、それが、新型コロナの流出に繋がった可能性もあるのかもしれない。米連邦助成金の審査問題は「研究所流出説」の信憑性を高めることになりそうだ。

(参考記事)

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