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「IOCは“家族、友達、公衆衛生が金より大事”に気づいていない」米識者、金欲まみれの五輪中止を力説

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
IOCのバッハ会長は金より重要なことに気づくのか?(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 「五輪に参加するアスリートたちにこんなことを言うのは全然嬉しいことではないが、五輪は世界の公衆衛生のために中止する必要がある。もうたくさんだ」

 『オリンピック秘史 120年の覇権と利権』の著者で、パシフィック大学政治学教授のジュールズ・ボイコフ氏から届いたメールには、憤りが滲み出ている。

 ボイコフ氏はこれまでも米紙ニューヨークタイムズやNBCニュースで、繰り返し、東京五輪中止を訴えてきたが、五輪が強行されようとしている状況はいまだ変わっておらず、5月11日付の米紙ニューヨークタイムズに「スポーツイベントはスーパースプレッダーになるべきではない。オリンピックを中止せよ」と題した意見文を寄稿した。

 その中でボイコフ氏は、日本で新型コロナウイルスによる感染者が増加しているにもかかわらずワクチン接種率が2%以下であること、東京などで5月末まで緊急事態宣言が出されていること、国民の約60%が五輪中止を求めていることを指摘し、五輪中止を強く訴えている。

 ボイコフ氏によると、IOC(国際オリンピック委員会)や日本のオリンピック・オーガナイザー、日本の与党がパンデミックの最中なのにオリンピックを強行して推し進めているのには3つの理由があるという。それは、金、金、金だ。そして、そんな金の多くは、アスリートではなく、運営側、放送局、そしてスポンサー企業が吸い上げていると指摘している。

「IOCは、1ビリオンドル蓄えていると言われているが、夏季五輪はIOCが頼りにしている金の蛇口であり、コロナウイルスでさえも、その蛇口を閉めるようオリンピックのパワーブローカーたちを説得することができていない。オリンピックのオーガナイザーたちは、公衆衛生のために利益を犠牲にするつもりはないのだ」

 IOCの収益の73%は放映権料で、NBCユニバーサルは2022年から2032年までに行われる6回のオリンピックの放映権料を7.75ビリオンドルで購入、オリンピックが中止になった場合、IOCも放送局も保険に入ってはいるものの、利益は帳消しになるという。

 ボイコフ氏は、オリンピック中止の世論に対するパワーブローカーたちのレスポンスにもメスを入れ、「日本の人々は、歴史を通じて、粘り強さを示してきた。逆境を乗り越える力が日本の人々にあるからこそ、非常に難しい状況下での五輪は可能なのだ」というバッハ会長発言は常套句だと批判している。

 また、東京五輪の衛生管理は形だけのものだとし、ボランティアたちがマスクやサニタイザーを配られたり、社会的距離というスローガンを言い渡されたりしているだけであることや、アスリートに対して入国後の隔離やワクチン接種を必須としていない点も問題視している。

 さらに、ボイコフ氏は、IOCが“アスリート・ファースト”を訴えながらも、それとは矛盾する動きをしている点も指摘。

 「IOCは、よく、アスリート・ファーストだと吹聴しており、オリンピアンの考えが、東京五輪の意思決定プロセスには重要だと主張している」というIOCの主張を紹介しつつ、オリンピアンである大坂なおみ選手が今夏開催すべきかについて「確信がもてない」と疑問を呈していることにも言及した。

 また、アスリート向けの五輪プレイブック内にある「あらゆるケアが講じられるが、リスクやインパクトは完全には排除できないかもしれない。ゆえに、東京五輪には自己責任で参加することに同意する」という記載について、「アスリート・ファーストというより、新型コロナからの免責のように聞こえる」とIOCが責任逃れしようとしている姿勢も疑問視している。

 オリンピック関係者がよく、五輪にはスポーツ以上のものがあると明言している点も指摘、「もし、パンデミックが我々に何か教えてくれているとしたら、それは、友情、家族、友達、公衆衛生というものが金より重要だということだ」とし、「IOCはこのことになかなか気づいていないが、まだ、正しきことをする時間はある」とIOCに正しきこと=五輪中止を促している。

 ボイコフ氏がNBCのニュースサイトに寄稿した意見記事「東京オリンピックトップの森氏、性差別で大坂なおみなどから非難を受ける。彼は去らなければならない」は森氏の辞任に大きな影響を与えた。オリンピック開催都市と交わす契約書の付属文書には“五輪全体を大きく変更することになる場合は、IOCが最終的には判断する責任がある”と記されているというが、今回のボイコフ氏の訴えもIOCの判断に影響を与えるのか? IOCは金より大事な何かに気づくのだろうか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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