東京五輪聖火リレー「偽善で、害悪で、バカげている」と米オリンピック専門家が断罪するワケ
以前の投稿「世界の公衆衛生よりも金が物言う東京五輪は中止すべき」米NBCで森氏“即時辞任”を求めた専門家に聞く」でインタビューさせていただいた、『オリンピック秘史 120年の覇権と利権』の著者で、オリンピック問題に詳しいオレゴン州パシフィック大学政治学教授のジュールズ・ボイコフ氏が、再び、NBCニュースに注目すべきオピニオン記事を寄稿した。
「新型コロナウイウルスの恐怖がある最中、東京五輪の聖火リレーがキックオフ。聖火は消されるべきだ」というタイトルで、「(聖火リレーという)ショーは、ナチスに生み出されたオリンピックの伝統のために、まさに公衆衛生を犠牲にするリスクがある」というサブタイトルがついている。
復興していない福島から聖火リレーがスタートする皮肉
この記事の中で、ボイコフ氏は、まず、3つの大きな災害に襲われた福島で聖火リレーがスタートするということに疑問を呈し、こう述べている。
「2011年3月に東日本大震災、津波、原発事故によるメルトダウンという3つの災害が起きた福島で聖火リレーがスタートするということは、(聖火リレーという)セレモニーが偽善であり、害悪であり、バカげているということを浮き彫りにしているだけではなく、(聖火リレーという)この歴史的瞬間に、日本全体がオリンピックに向けて突き進んでいるという問題を表している」
ボイコフ氏がそう主張する背景には、“復興五輪”と謳われている東京五輪にもかかわらず、復興が進んでいない状況がある。同氏は「現地の多くの人が、リソースが福島から五輪の準備のために東京に向けられていることから、福島の復興が遅れているのは東京五輪のせいだと考えている」として、現地の人々や専門家らの以下の声を紹介している。
「こんなことは見たことがない。彼らは、まだ復興していない場所が復興しているという考えで聖火リレーのテーマ化をしている。これほど皮肉なことはない」
「福島は、東京五輪のために犠牲になっている」
「聖火リレーは、福島が復興していないという現実を隠蔽するための政治的偽装だ」
「聖火リレーは、福島の重大で長引いている問題から(人々の)注目を反らす“トーチ・ウオッシュ”だ」
広がるオリンピック懐疑論
また、パンデミックの間、オリンピックのリーダーたちは東京五輪を“世界の希望の目印”や“トンネルの終わりに見える光”と呼んでいたものの、日本ではワクチン接種が進んでおらず、オリンピックのために日本に来るアスリート、コーチ、ジャーナリストらに対してワクチン接種を必須とはしていないことから、オリンピックはパンデミックを悪化させる可能性があるとも主張。
日本では、80%の人々が五輪の中止か延期を支持、オリンピック懐疑論が広がっており「感染が再拡大しているにもかかわらず、緊急事態宣言が解除されたのは、聖火リレーが予定されていたからだ」という識者の声も紹介している。
聖火ランナーは37.5度以上の熱がある場合は走ってはならないことや、観衆は声援を送らず拍手だけで応援するという感染防止対策についても「無意味なポーズだけの感染症対策」という専門家の声を交えて問題視した。
聖火リレーは政治的プロパガンダ
また、ボイコフ氏は、聖火リレー自体茶番であり、廃止されるべきだという見方をしている。聖火リレーは、1936年の夏季ベルリン・オリンピックの際、ナチスがヨーロッパにその思想を広げるべく生み出した政治的プロパガンダだからだという。
ボイコフ氏は、東京五輪の聖火リレーも、福島が復興していないにもかかわらず復興したことを世界に広めるという意図を持つ政治的プロパガンダだと言いたいのだ。
オリンピックの放映権を握っているNBCが五輪に与える影響は大きい。
実際、前回、ボイコフ氏がNBCニュースに寄稿したオピニオン記事「森氏は去らなければならない」は、森氏の辞任に大きな影響を与えたといえる。今回の記事は、聖火リレーの継続や東京五輪開催の判断にどんな影響を与えるのだろうか?
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