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自国民に最低評価をされた安倍氏の新型コロナ対応「安倍氏に最悪の事態が訪れているかも」米メディア

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
他国と比べ、安倍氏の新型コロナ対応は、自国民に最も低評価されていた。(写真:つのだよしお/アフロ)

 日本の緊急事態宣言が解除された。

 解除宣言に際し、

「日本ならではのやり方で、わずか1ヶ月半で流行を終息させることができた。日本モデルの力を示したと思う」

と日本スタイルの新型コロナ対策が奏功したことを訴えた安倍氏。

 しかし、そんな発言は、盟友トランプ氏譲りの自画自賛にしか聞こえない。

 国民の大多数が安倍氏の新型コロナウイルス対応を評価していないからだ。それを如実に表している調査結果がある。

指導者に対する評価は日本が最低

 フランスの調査機関イプソスが、4月23日〜26日に、13カ国の約2万6000人に対して行った調査結果だ。この調査では、13カ国の人々に、自国の政府が新型コロナウイルスの封じ込めを上手く行っているかどうかたずねた。

 その結果、13カ国中9カ国の国民が、自国の政府は新型コロナの封じ込めを上手く行っていると感じる一方、13カ国中4カ国の人々は自国の政府の新型コロナ封じ込めは不十分だと感じていたのである。

 不十分だと感じていた4カ国の中でも、自国の政府の対応を最も低評価したのが日本だ。調査を受けた日本人の62%、つまり、5人中3人以上が、日本政府の仕事を不十分と評価したのだ。感染者や死者が多数出ていたスペインやフランスの人々よりも、日本の人々は自国の政府の対応を評価しなかったわけである。

 さらに、同機関が3月19日〜21日に行った調査と比較した場合、多くの国で、自国の政府の新型コロナ対応に対する国民感情は悪化していた。中でも、最も悪化していたのは日本で18%悪化。これに、フランスの13%、ブラジルとロシアの9%、アメリカの4%が続いた。

日本人の62%が政府の新型コロナ対応は不十分と回答。調査した13カ国中では、自国の政府の対応に最低の評価を下した。出典:IPSOS
日本人の62%が政府の新型コロナ対応は不十分と回答。調査した13カ国中では、自国の政府の対応に最低の評価を下した。出典:IPSOS
自国の政府に対する国民感情を3月と4月で比較したところ、調査した13カ国中では、日本が最も悪化した。出典:IPSOS
自国の政府に対する国民感情を3月と4月で比較したところ、調査した13カ国中では、日本が最も悪化した。出典:IPSOS

 大多数の日本人が政府の対応を低評価し、そのため、政府に対する国民感情は悪化していたのだ。

 反対に、政府の新型コロナ対応に対する国民感情が最も好転したのはドイツで26%の好転、これに、オーストラリアの24%、メキシコの13%、カナダの10%が続いた。

 また、シンガポールのブラックボックス・リサーチとフランスのトルーナが共同で、23カ国の人々を対象に、指導者の新型コロナ対応の評価をたずねた国際比較調査でも、政治、経済、地域社会、メディアの4分野全てで、日本が最下位となった。

日本人の国民性が奏功

 米ブルームバーグは日本の新型コロナ対応について以下のことを紹介している。

緊急事態宣言発令が遅れたこと

・中国からの訪問者の入国禁止措置が遅れたこと。

・現金とマスクの支給措置がトークショーの嘲りのネタになったこと。

・安倍氏が自宅でリラックスしているビデオが”空気が読めていない”と批判されたこと。

・定年延長というこれまでにない手法で、東京高検検事長にとどまらせた黒川弘務氏が、緊急事態宣言下、賭け麻雀をしていたためにスピード辞職に至ったこと。

 確かに、安倍政権の新型コロナ対応の問題点は多々指摘されていた。しかし、問題が指摘されながらも、死亡率は世界的に低い。それについて、世界は首を傾げているが、筆者は不思議でもなんでもないと感じている。

 新型コロナの感染拡大が始まってから現在まで、日本、シンガポール、アメリカの3カ国に滞在したが、まず、日本ほどマスクをきちんとつけている国はない。日本のテレビ番組は手洗いの仕方もしつこいほど繰り返し紹介し、国民の感染予防意識を高めていた。日本人は他者を気遣う気持ちも強い。

 つまり、安倍氏の対策が奏功したというより、日本の人々の国民性が奏功したのだ。

 一方、アメリカの場合、マスク着用が義務化されている地域でも、マスクを身につけない人々が大勢いる。行政命令に反抗して、レストランやジム、チャーチを強行に再開する人もいる。アメリカはメモリアルデーのホリデーを終えたばかりだが、連休中、社会的距離を取らない人々で芋洗い状態になったスイミングプールも各地で出現し、波紋を呼んだ。以下は、現在、経済再開を推進しているトランプ氏と生前犬猿の仲だった故ジョン・マケイン上院議員の長女でコラムニストのメーガン・マケインさんがリツイートしたプールの動画。メーガンさんは「もう、何と言ったらいいかさえわからないわ」とあきれている。

最悪の事態が訪れているかも

 問題は、今後どうなるかである。

 米ブルームバーグは「ウイルスは落ち着いたが、日本の安倍氏に最悪の事態が訪れているかもしれない」というタイトルで「日本の緊急事態宣言は終わったが、安倍氏の政治的苦境は始まったばかりかもしれない」とこれから安倍氏に問題が降りかかる可能性を示唆している。

 その問題について、「感染を抑えて経済的ダメージを抑えようとする安倍氏の取り組みは遅れ、効果的でないと広く愚弄されてきた」と安倍氏の新型コロナ対応を批判した上で、

「依怙贔屓スキャンダルにより、支持率が、これまでの首相たちが辞職に追い込まれたレベルまで落ちた」

と黒川氏問題により、安倍氏の支持率が急落したことと、

「(新型コロナ)危機のために、安倍氏の経済政策に対する支援は損なわれ、深刻なリセッションを回避し、彼を任期最長の首相にしたような復活をやってのけるのに必要なリソースも使い果たされた。自民党の中には、岸田元外務大臣の主導で、考えられる後任を検討している者もいる」

という自民党内の動きを紹介している。

 安倍氏が経済という強みを失ったことについても、

「安倍氏は、経済が安定し、国が事実上完全雇用だった時に持っていた“財政という攻撃の手段”をもはや持っていない。世帯は必需品の消費を抑え、企業は倒産を防ぐために投資や生産、雇用を削減するので、日本の抱える問題は深刻化しそうだ」

「アナリストは、今四半期、1955年以降最大となる、22%近い経済収縮を予測している」

と指摘している。

 暗雲が垂れ込めている日本経済。

 安倍政権が今後、新型コロナにより引き起こされたリセッションをどう解決していくのか、注目されるところだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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