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日本は“渡航注意国” 隔離失敗「下船者全員、感染の可能性あり」「船はウイルス培養皿と同じ」海外専門家

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
陰性の乗客が下船を続けているが、新たに感染リスクが引き起こされる可能性もある。(写真:ロイター/アフロ)

 日本は遂に“感染要注意国”のレッテルが貼られてしまった。

 新型コロナウイルスによる感染拡大から、CDC(米疾病予防管理センター)が日本を旅行する人に「渡航注意情報」を出したのだ。

 この背景には、日本で感染経路が不明な市中感染者が着実に増え続けているという現状がある。加えて、新型コロナウイルス検査で陰性の乗客を「ダイヤモンド・プリンセス号」から下船させている日本政府に対する不信感も、この判断に影響を与えたのではないか。

 実際、世界は日本政府のとった下船措置に驚きを隠しきれない。船内では今もウイルスが拡散されている状況があるからだ。実際、下船した19日には新たに79人の感染者が、20日には新たに13人の感染者が出た。感染者が日々現れる中での下船である。陰性の乗客も、陰性という結果が出た後も引き続き、船内で感染するリスクに晒されていたことになる。実際に感染した可能性もあるかもしれない。

 日本とは対照的に、アメリカ、オーストラリア、カナダ、イタリア、香港など他の国々は、下船した自国民を再び14日間隔離させるという慎重な措置を講じている。この違いを見るに、感染症対策においても「ガラパゴス日本」が露わになった感が否めない。

 米メディアの報道を見ると、日本の下船措置は信じられないといわんばかりだ。

「多くの海外の政府は、さらなる隔離期間を経なければ、自国の乗客を受け入れないと言っている。日本の乗客たちが下船し、タクシーに乗り、横浜の街に消えて行ったのは衝撃的だ」(米ロサンゼルス、KTLAテレビ)

「アメリカは、ダイヤモンド・プリンセス号から乗客を降ろすことを諌めている。CDCは、下船した人々が今後リスクを与えると話している」(英ファイナンシャル・タイムズ紙

下船者全員、感染の可能性あり

 海外の専門家たちも、下船措置をこぞって批判。

 東アングリア大学の医学博士ポール・ハンター氏は言う。

「隔離政策がうまく機能しなかったことが示唆されており、下船者全員、感染している可能性があると考える必要がある。さらに2週間、隔離しなければならない」

 ロンドンのキングス・カレッジのナタリー・マクダーモット博士は、隔離の開始時点の判断に問題があると指摘している。

「隔離というのは、もはや感染に晒されていないことがわかった時点から始まる。上船している人々が感染に晒されてこなかったとは言えない」

 隔離は2月5日から始まったが、その後も、乗客が船内で感染リスクに晒されていたことを考えると、2月5日を隔離開始日と考えて下船させるのはおかしいというのだ。

隔離は失敗に終わった

 感染症の専門家たちは、隔離政策の失敗を指摘している。

 感染症研究の世界的権威として知られる、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所所長のアンソニー・フォーシ博士はこう言い切った。

「隔離政策は失敗した。オブラートに包んで控えめに言っても、失敗だった。人々は船内で感染している。隔離する過程で何かがうまくいかなかった。それが何かはわからないが、多くの人が船内で感染した」

 ジョンズ・ホプキンス大学・センター・フォー・ヘルス・セキュリティーのアメッシュ・アダルジャ博士もこう話す。

「隔離政策は正当化できるものではなく、実際、ウイルスを感染させるとともに、乗客の権利にも違反した。14日間の隔離は、新たな感染や新たな伝染が起きたことを考えると、意味がなかった」

 生命倫理学者のケリー・ヒルズ氏は自主隔離の方が効果的とみる。

「隔離は効果的ではなかった。全く無意味だった。健康な人々を感染させないためには、自宅で自主隔離させる方が、船内隔離よりも、より人間的な対応であり、より効果的だろう」

ウイルス培養皿に入れられた

 専門家たちが失敗だったと指摘する隔離政策。なぜ、隔離政策は失敗したのか?

 それについて、医師で、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客でもあるアーノルド・ホップランド氏が、ウォール・ストリート・ジャーナルでこう話している。

「乗客は、マスクをせずに、バルコニーに洗濯物を干し、隣の部屋の乗客とおしゃべりしていた」

 バルコニー越しのおしゃべりだけではなく、乗客がデッキを歩くことを許可されたことにも原因があると指摘されている。デッキを歩く際、乗客にはマスク着用や他の乗客との間に一定の距離を置くことが指示されたものの、全員が全員それを遵守したかは疑問視されているからだ。

 また、ポップランド氏は、乗員と乗客間で交されたやりとりにも原因があると指摘する。1日に最高で10回、乗員が客室に来て、食べ物や生活必需品などを乗客に手渡していたという。

 乗員が隔離状態に置かれなかったことも問題だった。他の乗員と相部屋の乗員もおり、彼らは散らかったホールで一緒に食事していたというのだ。

「私たちはウイルス培養皿に入れられて、感染させられているのと同じだ」

とポップランド氏は皮肉っている。

無症状感染を懸念

 ところで、CDCは、今も船内にはリスクがあると警告し、現在上船している100人以上のアメリカ人は、下船後も、少なくとも14日間は入国を禁ずると発表した。これは、感染の兆候を見せていない乗客の間で、新たに感染が起きていることを懸念した上での措置だ。

「隔離政策は、感染低減においては、大きな公衆衛生上の利益となる可能性はあるものの、上船している個人の間で起きる感染の防止には不十分だったのではないか。船内で起きている新たな感染、特に、症状を見せていない人々の間で起きている新たな感染は、今も感染リスクが継続してあることを表している」

 症状を見せていない無症状感染者については、18日に、医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に、政府軍用機で武漢から母国ドイツに帰還したドイツ人を対象に行った検査結果に関する論文が発表されたばかりだ。

 この論文によれば、発熱や咳など、新型肺炎の症状があるかどうかを診断するスクリーニング・テストで陰性、つまり無症状だった114人中、その後行ったラボ・テストで陽性が確認された人が2人いた。

 ダイヤモンド・プリンセス号からも、無症状感染者が多数出ている。

海外との温度差

 市中感染が広がる中、日本にも多くの無症状感染者が存在すると予想される。彼らは無症状なので、感染しているとは思っておらず、検査も受けないだろう。

 また、検査を受けるにしても、今、“検査の窓”は感染という不安に晒されている多くの人々に開かれているわけではない。日本政府は、医療機関の受診の目安として、37.5度以上の発熱が4日以上続くなど受診のガイドラインを発表した。ちょっとした微熱だけでは受診するのは憚られることになる。ましてや無症状ならなおさらだ。しかし、無症状でも感染している人やちょっとの微熱だけでも感染している人がいることを考えると、彼らが野放しにされることによって、感染が拡大するのは必至だ。

 一方、シンガポールでは、“検査の窓”はもっと開かれている。同国は、国民に対して主に3つの感染予防策を推奨している。

1. よく手洗し、顔を触らないこと。

2. 毎日2回、体温を測定すること。

3. 体調が悪い時は人混みに行かず、すぐに受診すること。

 37.5度以上が4日間以上続くというような受診の目安を設けず、体調が悪い時はすぐに受診することを推奨しているのだ。

 WHO(世界保健機関)も、18日、シンガポールが感染者の発見努力をしていることを評価した。

「シンガポールはくまなく調査し、インフルエンザのような病気や肺炎など全てのケースを検査している。今のところ、地域レベルでの伝染は起きていない」

 筆者が先日訪ねたシンガポールでは、観光地やレストランの入り口に、アルコール消毒液に加えて、検温器が置かれているところもあった。訪問客の額に検温器を向けて、体温をチェックしているのだ。37.5度以上はお断りなのである。

 隔離政策や感染防止策において、日本は、大きな危機感を持って対処している海外の慎重なアプローチからもっと学ぶべきではないか。

(参考記事)

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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