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「感染者数は何万も少なく見積もられている」前アメリカ食品医薬品局長官 新型肺炎が世界に拡大したワケ

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
果たしていつまで、マスクを着用しなければならない状況が続くのか?(写真:ロイター/アフロ)

 「中国での感染者数は、何万も、驚くほど少なく見積もられている。中国政府は完全には情報を公開していないと思う。重要な情報を隠しているので全体が見えない。中国は感染拡大を回避する黄金のチャンスを逸した。世界への感染拡大は避けられない」

 前アメリカ食品医薬品局(FDA)長官のスコット・ゴットリーブ氏が、1月28日(米国時間)、米CNBCに対してそんな発言をした。

ウイルス検査キットの製造が追いつかず

 世界を震撼させている新型肺炎。1月29日時点(米国時間)で感染者数は17カ国で7800人を超え、死者数は170人にまで膨れ上がった。

 しかしながら、WHO(世界保健機関)の腰はいまだ重たい。28日、WHOのテドロス・アダノム事務局長は中国政府の感染対策を支持すると表明、中国から外国人を避難させることは不必要だとの見解を示した。先週はトランプ大統領も、中国の封じ込め努力と透明性をツイッターで高評価した。

 アメリカの専門家は中国がそんな評価を得ていることに疑問を呈している。ゴットリーブ氏は、冒頭の発言のように、中国の情報公開に対して懐疑的だ。

 感染者数が少なく見積もられているのは、感染の有無を診断するためのウイルス検査キットの医療機関への配布が遅れたことが理由の1つとしてあるようだ。米紙ニューヨーク・タイムズによると、検査キットの製造が追いつかず、肺炎という診断を受けても、それが、新型コロナウイルスによる肺炎かどうか検査できない状況があったというのだ。

 ゴットリーブ氏も「1月下旬になるまで検査キットが行き渡らなかったため、中国での全感染者数を知ることは難しい。分子はわかっているが、分母がわからない」と話している。

 実際は感染しているのだが、軽症や無症状であるため感染を自覚していなかったり、感染を自覚しないまま自然治癒した人も非常に多い可能性があるという。また、肺炎で亡くなっても、それが新型コロナウイルスによる肺炎だったかどうかわからないまま亡くなった人もいると推測される。つまり、本当に、分母はわからないのだ。

情報共有が遅れた

 ゴットリーブ氏はまたここまで感染が拡大した原因について、「中国は中国の基準で対処しようとしている。初期段階で、中国が情報を共有しなかったことが問題だった」と指摘している。

 中国当局は1月21日になってようやくヒトヒト感染が起きていることや15人の医療従事者が感染したことを認めたが、それは遅過ぎる情報共有だったというのだ。その理由として、ウェイボーに投稿された動画の存在をあげている。

 この動画によると、1月12日、防護服で全身を包んだ医療従事者が、飛行機に搭乗している乗客の体温測定を行っていた。つまり、1月12日の時点で、中国当局はすでにヒトヒト感染が起きている可能性があることがわかっていたということになる。だとすれば、確かに、もっと早期にヒトヒト感染の可能性が世界と共有されていてもよかったのだ。

ウイルスの検体を共有せず?

 また、ゴットリーブ氏はウイルスの検体が共有されなかったことも問題視し、「発生から原因ウイルスを特定するまで約5ヶ月かかったSARSと違い、新型コロナウイルスは迅速にシークエンスされ、中国当局はシークエンス情報を発表したものの、スクリーニングテストの検証や治療薬開発のために使うウイルスの検体を海外の重要な保健機関と共有しなかったと思われる」と話している。

 米国下院エネルギー及び商業対策委員会委員長のフランク・パローネ氏も中国当局の報告に懐疑的だ。

「中国政府はしばしば本当に起きていることを言わない」

人口密度が問題か

 中国に対する不信の下、アメリカでは感染が拡大している。感染者は5人に増え、感染が疑われて検査中である人々の数は、26州で110人となった。110人というのは、1月23日時点の倍の数だ。

 しかし、ゴットリーブ氏は、アメリカは人口密度が中国のように高くはないことから、予防対策を講じれば感染拡大を封じ込めることができると考えている。裏を返せば、日本をはじめ、人口密度が高いアジア諸国では封じ込めは困難ということか?

 止まることを知らない新型コロナウイルスの感染拡大。世界はこの脅威とどう闘っていくのか。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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