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トランプ氏がボルトン氏の後任にオブライエン氏を選んだ「ホントの理由」

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
大統領補佐官に任命されたオブライエン氏はボルトン氏とは違ってチーム・プレイヤー。(写真:ロイター/アフロ)

 「とてもケミストリーが合う」

 トランプ氏はボルトン氏の後任として、米大統領補佐官(国家安全保障担当)に任命したロバート・オブライエン氏について、こう言った。

 前任のボルトン氏とはケミストリーが合わないことが指摘されていたので、ケミストリー、相性が合うかどうかはトランプ氏の中では重要事項なのだ。

カリフォルニア州でも人気

 オブライエン氏とはいったいどういった人物なのか? 

 もともと、ロサンゼルスで弁護士を務めていた同氏だが、政界に入ってからは、共和党議員らの外交政策顧問を務め、ジョージ・W・ブッシュ政権時代には、国連総会の米国代理代表に任命され、当時国連大使を務めていたボルトン氏と共に働いた。トランプ政権では、国務省で人質問題担当特使として人質解放の交渉に当たってきた。

 愛想の良さから、トランプ政権のスタッフたちとの相性もいい。また、昔ながらの共和党保守派にもかかわらず、オバマ政権の元スタッフからさえ「本当に良い人物だ」と評され、リベラル派が圧倒的に多いカリフォルニア州でも人気が高い。

おべっか上手

 特に評価されているのは、自分の考えを押し通すところがあったボルトン氏とは違い、チーム・プレイヤーになれるという点。トランプ氏にイランへの軍事行動をすすめたボルトン氏のように戦闘的ではなく、トランプ氏に抵抗もしない。トランプ氏が求める“イエスマン”なのである。

 おべっか上手でもある。

 トランプ氏はスウェーデンで暴行騒ぎを起こして拘束された有名ラッパーのエイサップ・ロッキー氏の解放交渉のためにオブライエン氏をスウェーデンに派遣したが、オブライエン氏は数年で20人の人質を解放したトランプ氏の手腕を「米国史上最も偉大な人質解放の交渉人だ」と褒めていたという。そんなオブライエン氏のおべっかに、トランプ氏は随分気をよくしたようだ。おべっかに弱いトランプ氏だ。オブライエン氏任命の裏には、彼のそんな性格があったのかもしれない。

トランプ氏はルックスも重視

 しかし、ボルトン氏去りし後、トランプ政権はトランプ氏のご機嫌を取る面々で固められていることを考えれば、トランプ氏が彼を任命したホントの理由は、また別のところにあるようにも思われる。

 それは外見。NYタイムズによれば、トランプ氏に近い人物がこう話したという。

「トランプ氏は彼がそれらしく見えると思っているんだ」

 つまり、オブライエン氏は、大統領補佐官というトランプ氏の側近職にふさわしいルックスというわけだ。確かに、オブライエン氏は愛想がいいだけではなく、ルックスもきちんとしている。トランプ氏がボルトン氏の口髭を嫌っていたのは有名な話だが、オブライエン氏は清潔感があり、人に好印象を与える。

 アメリカでは、ビジネスの場ではルックスも重視される。政治にビジネス感覚を持ち込んでいるトランプ氏にとって、オブライエン氏のルックスは大きな決定要因となったに違いない。

ボルトン氏と同じタカ派

 相性、能力、ルックスなどトランプ氏にベタ褒されているオブライエン氏だが、彼自身は、トランプ氏のことをどうみているのか? その答えはトランプ氏にとってはあまり嬉しくない答えかもしれない。トランプ氏が独裁的指導者たちと仲良くすることを重視しているのに対し、オブライエン氏は自著の中で、暴君やテロリストと対決する必要性を訴えているからだ。

 例えば、オブライン氏は、前回の大統領選時、トランプ氏のライバルだったテッド・クルーズ氏の陣営で外交政策アドバイザーを務めたが、その時、こう言ってトランプ氏の外交政策を強く批判するようクルーズ氏にアドバイスしていた。

「トランプ氏が大統領に選ばれたら、プーチンと仲良くしてしまうということを強調すればいい」

 つまり、オブライエン氏の考え方はボルトン氏のように“超”はつかずとも同じタカ派。中国、イラン、ロシアなどに対しても、厳しくアプローチする外交政策を重視している。トランプ氏が2016年に共和党大統領候補にノミネートされた際には、ボルトン氏を国務長官にするようトランプ氏にすすめていたほどだ。

 実際、タカ派の一面も覗かせている。今年初め、オブライエン氏から、イランで拘留されているアメリカ人の解放を求める手紙を受け取ったイランの外相は「その手紙は交渉というよりも、一方的な要求だった」と言及している。

すべて決定するのはトランプ氏

 しかし、表向きは愛想がいいことを考えると、オブライエン氏はいわば、ハトの衣をまとったタカなのかもしれない。そのタカが爪を出すかはわからないが、出しても出さなくても、トランプ氏にとっては関係ないようだ。爪を出してきたら、ボルトン氏のように切ればいい。人材はいくらでもいる。トランプ氏は、人はみな自分と働きたがっているとたかをくくっているところがある。

 先週も、トランプ氏は、ホワイトハウスで働く人々の回転が早いことについて、以下のように言及している。

「ご想像の通り、みなホワイトハウスでの職をとても欲しがっているんだ。ホワイトハウスでの仕事は素晴らしいんだよ。ドナルド・トランプと仕事をするのは楽しいからね。僕と働くのは実際とても楽なんだ。なぜ楽かわかる? 僕がすべて決定するからだよ。彼らは仕事する必要ないんだ」

 トランプ政権では決めるのは常にトランプ氏。トランプ氏以下のスタッフはみな彼の決定に服従する下僕と変わりない。トランプ氏は、どうせ下僕にするなら、世界という表舞台に出して好印象を与える人物が適任と考えていることだろう。その意味で、愛想良し、ルックス良しのオブライエン氏は、隠している爪を出さない限りは、トランプ政権にとっては適材なのかもしれない。

参考記事:

Trump's new national security adviser is the anti-Bolton in style only

Robert O’Brien ‘Looks the Part,’ but Has Spent Little Time Playing It

Trump’s New National Security Chief Once Compared Trump to President Obama

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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