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トランプ氏がボルトン氏をクビにした「ホントの理由」

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ポンペオ氏とは対照的に、ボルトン氏はメディアでトランプ氏と矛盾する考えを発言。(写真:ロイター/アフロ)

 第4次安倍内閣が発足し、野党からは「お友達内閣だ」と揶揄されているが、「お友達内閣」を欲しているのはトランプ氏もまた同じなのかもしれない。

 トランプ政権では「蚊帳の外」にいたボルトン氏の解任の可能性は以前から取り沙汰されてはいたが、トランプ氏はもはや、ボルトン氏のことを“お友達”とは思えなくなったのだろう。

 もちろん、その大きな理由としては、外交政策における考え方の違いがある。様々なメディアが指摘しているように、北朝鮮やイランやアフガニスタンやベネズエラなどにどう対峙すべきか、両者では意見が異なっていた。交渉重視のトランプ氏に対して、超タカ派のボルトン氏は交渉には懐疑的で武力行使も辞さない構えを示して来た。ボルトン氏の強硬な姿勢は、日本に原爆を落としたことについて、かつて、「道徳的に正しかった」と明言したことにもあらわれていた。

メディアを使ってトランプ氏を傷つけた

 しかし、背後には、“交渉vs武力行使”という考え方の違い以上のものがあるのかもしれない。それについて、政治ニュースサイト「ポリティコ」が紹介しているホワイトハウス関係者の見解が興味深い。

 その関係者によると、トランプ氏は、側近が自分に反対するような見方をしていても気にしなかったものの、ボルトン氏のように、それを、メディアなどを通じて公然と発言することは問題視していたというのだ。

「トランプは、ボルトンが自分のした選択に反対する場合、メディアなどの方法を使って自分を傷つけることに苛立ちを感じていました。ポンペオは、ボルトンとは対照的な姿勢で、トランプから評価を得てきました。つまり、ポンペオは大統領に内々に反対するのは良しとしても、公然と反対することは決して良しとはしない姿勢なのです」

とホワイトハウスの関係者が話している。

 メディア報道に神経質なトランプ氏であることを考えると、この指摘、なるほどと思った。

 つまり、ボルトン氏の問題は、トランプ氏との考え方の違いだけに止まらず、トランプ氏とは異なる考えをメディアで公言していたことにもあったのかもしれない。政権内での意見の違いはトランプ政権が不安定である証拠、国民からの信頼の失墜に繋がるからだ。

 例えば、ボルトン氏は、シリアについて撤退論を展開していたトランプ氏の考えとは反対に「イランの部隊が展開している限り、撤退することはない」と記者団に話したり、最近続いた北朝鮮のミサイル発射については「短距離ミサイルなので気にしていない」というトランプ氏とは裏腹、訪日中の記者会見で「国連決議に違反する」と発言したりしていた。

 また、ベネズエラに制裁を加えると発表した際には、CNNのインタビューで「我々はモンロー主義という言葉を使うことを恐れない。この国は私たちの半球だ」という過激な発言をして脅威を与えた。

 トランプ氏はボルトン氏をクビにした大きな理由として彼が北朝鮮を非核化させるために「リビア方式」を主張したことをあげたが、それも、ボルトン氏がCBSやFOXなどのテレビインタビューで訴えていたものだ。

トランプ氏が手綱を締めていた

 メディアなどで好戦的な発言をしてきたボルトン氏。アクシオスによると、トランプ氏はそんな好戦的なボルトン氏のことを懸念する側近たちに、こう話していたという。

「彼は大丈夫だ。1日に3つの戦争を始めたがっているが、私が彼の手綱を締めているから」

 また、トランプ氏はテレビインタビューでこうも話していた。

「ボルトンは絶対的なタカ派だ。彼に任せたら、彼は一度に世界を相手にして戦うだろう」。

 トランプ氏自身、自分以上に暴れ馬なボルトン氏に手を焼いていたのかもしれない。

 もっとも、そんな超タカ派で有名なボルトン氏を政権に入れたのはトランプ氏にも計算があったからだ。自分は柔軟な交渉姿勢を見せながらも、背後には強硬な好戦的姿勢を見せるボルトンを置くという「良い警官、悪い警官」戦術を駆使した外交戦略で、北朝鮮を非核化させようという狙いがトランプ氏にはあった。

 しかし、そんな外交戦術は金氏には通用しないことがわかったのだろう。トランプ氏は、3回目の米朝会談の際には、リビア方式を主張したボルトン氏の存在を煙たがっていた金氏に気を使ったのか、彼を会談の席にはつかせなかった。金氏との“お友達関係”を優先させたのだ。

 北朝鮮だけではない。来年の大統領選挙を前に、外交政策の点で成果を上げていないトランプ氏としては、イランやアフガニスタンとも“お友達”になって成果を上げなければならないと焦っている。しかし、ボルトン氏は彼らと“お友達”になることには強く反対してきた。黙って心の中で反対しているだけならまだいいが、それを口にするボルトン氏に、トランプ氏は辟易していたのだろう。

似た者同士の2人

 政治系シンクタンクであるブルッキングス研究所の外交専門家が話している。

「トランプ氏は“イエスマン”を欲しているのです。自分がやりたいことを否定するような人は、政権には入れたくないんです」

 問題は、ボルトン氏もトランプ氏同様、周囲の声に耳を貸さずに自分がやりたりことを押し通すタイプだったということだ。結局のところ、2人は似た者同士だったのだ。

 

 しかし、似た者同士は考えを同じくしている時は強く団結するが、異なれば激しく衝突する。トランプ氏が対北朝鮮で強硬姿勢を見せていた時は良かったかもしれないが、「非核化は急がない」と軟化路線を取り始めてからは衝突も避けられなくなったと思われる。また、似た者同士であっても、トランプ政権ではあくまでボスはトランプ氏。ボルトン氏が駆逐されるのは時間の問題だったのだ。

 2人はケミストリー、つまり、気が合わなかったことも指摘されている。ボルトン氏はトランプ氏とゴルフをすることもなかった。何事につけ直感を重視しているトランプ氏であるから、ケミストリーは大事なのかもしれない。

敵対国は喜んでいる

 超タカ派のボルトン氏が去ったことを、アメリカのメディアはどう受け止めているのか。

 USA Today紙の論説文は「トランプにクビにされるまで、少なくともボルトンは戦争を始めなかった。我々はそのことを喜ぶべきだ」という見出しを銘打っている。

 確かに、武力行使も辞さない構えを見せていたボルトン氏が政権から去ったことで戦争が引き起こされる可能性は激減した。しかし、同時に、ボルトン去りし状況を北朝鮮やロシア、中国などアメリカの敵対国たちは喜んで見ているという声もある。

 特に、北朝鮮は喜んでいるかもしれない。非核化の兆候を見せていない北朝鮮は、実質的に、核保有国として認められているのと何ら変わりない状況があるからだ。

 そして、次の大統領補佐官はトランプ氏の考えとは矛盾する考えをメディアで唱えないような“お友達”が任命されることになるだろう。トランプ氏からの信頼が厚いポンペオ国務長官が、かつてのヘンリー・キッシンジャー氏のように、大統領補佐官を兼任するという憶測も出ているし、現在ポンペオ国務長官とともに仕事をしているビーガン米国務省北朝鮮政策特別代表が任命されるのではないかという声も上がっている。

 トランプ氏は、早速、年内に米朝会談を行う意欲を見せているが、ボルトン駆逐後の“お友達内閣”が北朝鮮の非核化にどう対処していくかお手並み拝見と行きたいところだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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