2019年6月から電撃文庫で刊行され、TVアニメが2021年春から放送されている二丸修一『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』(通称『おさまけ』)は2010年代後半以降のラブコメブームを象徴する一作である。

■市場動向を記す年報で特筆されるほどの新鋭ヒット作だった

『2019年版出版指標年報』(出版科学研究所)は2018年の文庫ラノベ市場が前年比12.6%減となり「非常に厳しい」と形容。「かつてラノベに親しんだ層が単行本、文庫本ともにコア層となっており、若い新規読者の開拓が課題だ」と記し(119頁)、『2020年版出版指標年報』では、2019年はアニメ化作品のヒットが少なく、刊行点数も大幅減少、市場のマイナスに拍車がかかったが、新シリーズのヒットが待たれるなかで登場したのが3巻までで25万部に達した本作だったと書く(122頁)。

もっとも、本作は突然変異的に現れたわけではない。

「異世界もののライトノベルが一大勢力となっていると言われて久しいが、ここ2~3年は青春もの・ラブコメといったジャンルがしっかりと人気を獲得していっている」(「ライトノベルBESTランキングまとめ2019年版」、『このライトノベルがすごい!2020』宝島社、82頁)という流れがあってのことだ。

これは「小説家になろう」とは別の動きと理解すべきではない。

2018年12月から連載され書籍版が19年6月から刊行されている佐伯さん『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』をはじめ、なろうでも現代日本を舞台にしたラブコメは盛り上がりを見せている。

2010年代初頭にはなろうと文庫ラノベの流行には乖離があったが、後半以降は接近している。10年代半ばまでは異世界転生・転移と戦記ファンタジーが席巻していたが、後半以降はラブコメが群となって盛り返してきた。

読者がファンタジーに食傷気味になったこと、2000年代~10年代前半のラブコメラノベを読んだ世代が書き手に回ってきたことが理由だろう。

もっとも、10年代後半以降、アニメは制作コストを海外販売とスマホゲーム化によってリクープするビジネスモデルになった。外販にもスマホ向けRPGやSLG制作にもファンタジーより向かないラブコメ原作アニメが20年代もさかんに作られ続けるのかは不透明だ。

10年代後半以降のラブコメブームは、10年代前半までのようにアニメ化によって拡大するのか、それとも映像化にそれほど頼らず草の根的に続くのか/収束するのかは現段階では不確定だ。

本作などのラブコメラノベのアニメがビジネス的に成果を出せるかによって、20年代におけるこのジャンルの趨勢は大きく変わるだろう。

■「負けない」とは

『おさまけ』は内容的にはどういうものか。

本作1巻では、元・天才子役だが、今は同じエンタメ同好会に所属する友人の哲彦とともに「バカス」(バカとカス)扱いされている主人公・丸が、クラスメイトで小説家の白草に告白するが玉砕。丸の幼なじみで、告白されたが振った黒羽とともに、白草に復讐を企てる、という筋立てだ。

復讐と言っても文化祭でぎゃふんと言わせたいといったものである。

白草に自分を振ったことを後悔させるため、丸は白草と付き合っているタレントで、やはり同じ高校に通う先輩の阿部を上回るパフォーマンスを文化祭で披露するべく、母が共演中に死亡したという自身の過去のトラウマと向き合う。

タイトルはある種の「引っかけ」だ。

2巻までに登場するヒロインはみな幼なじみである。

また、4巻で「勝ちはしない。でも負けない」という表現があるように、いわゆる本妻が確定しないハーレム状態に持ち込めばどのヒロインも勝ちはしなくても負けにはならない。

10年代後半以降、人物やキャラクターに対して「○○しか勝たん」「優勝」という言葉がさかんに用いられているが、だからこそ「負けない」ことをヒロインたちが意識しているラブコメ、とでも言おうか。

「あいつに勝ったら俺と付き合え」的展開は70年代の『愛と誠』をはじめ、少年マンガなどで頻出する展開ではあるが、本作も恋愛に関しても勝ち負けで世界を認識しており、誰かより優れているから自分が選ばれる、という価値観が根底にある(もっとも、殺伐としてはおらず、ほかのヒロインをいかにして出し抜いて丸の気を惹くかという程度の修羅場が描かれるものの)。

ともあれ、タイトルで「負けない」としているとおり、丸は複数ヒロインから言い寄られるが誰も選ばない。ほぼ1巻につき一人ずつヒロインが増え(3巻以降は必ずしも幼なじみではない)、主人公は鈍感ぶりを発揮するという古式ゆかしいハーレムラブコメである。

かつてのラブコメとの違いと言えば、主人公が登場時点こそ「平凡な高校生」風な導入だが実際には明らかにハイスペックなキャラクターであること、ヒロイン側から「おさかの」――「幼馴染彼女」であり「押さえておきたい彼女」――という“キープ”で良い(といっても「2番目でもいい」というものとは違う)ことを積極的に提示することだろうか。

役者である丸を中心に「演技」つまり「見た目と内心の不一致」を前提にしながら「演じることで何かを手に入れる」、演じることで役になり、役と本人を一致させていくという物語でもある。これが『弱キャラ友崎くん』や『オーバーロード』などと近似した主題を扱っていることは言うまでもない。

時代が移り変わろうとも、小説が内面の心理描写を得意とすることは不変である。時代に即応しながらこの特徴を活かす恋愛ドラマが、これからも求められ続ける。