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"こどもの本"総選挙が他のランキング企画と決定的に違う点

飯田一史ライター
第4回小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙 公式サイト トップページより

 2018年から2年に1度の頻度で開催されている「小学生がえらぶ!“こどもの本総選挙”」の第4回の結果が発表され、第1位はヨシタケシンスケのデビュー作『りんごかもしれない』(2013年)となった。
 発売から10年経っても変わらぬ同作への熱い支持がうかがえ、「児童書は一度売れてロングセラーになると強い」という印象を抱く人も多いだろうし、それ自体は間違っていない。しかし「“こどもの本”総選挙」とほかの賞やランキング企画との違いを踏まえて、この結果を捉え直してみたい。

■こどもの本総選挙の特徴

 絵本や児童書を対象にした賞やランキングはいくつも存在するが、こどもの本総選挙の特徴はなんだろうか?

1.新刊・既刊を問わない

2.読者である小学生自身が投票して決める

 の2点である。ではこれによってどんなことがわかるのか?

■新刊・既刊を問わないからこそ、新しくランクインしたタイトルの勢いの凄さがわかる

 まず1の「新刊・既刊を問わない」からだが、ほかの多くの賞やランキングはその年度に発売された新刊を対象にしている。そうした新刊を対象にした賞・ランキングは、新作をフィーチャーすることで、ロングセラーが強い児童書市場の中で次の有望な作品・作家をピックアップして応援しようという意図があると思われる。

 一方でその年(または年度)に刊行された新刊だけを対象にすると、新刊・既刊を合わせて見たなかでの人気や勢いはわからない。

 こどもの本総選挙は新刊・既刊を問わないため、上位に同じような顔ぶれが並びやすいものの、逆に新顔で入ってきたタイトルはロングセラーと並ぶくらいの強さ・勢いがあると言える。今回(第4回)で言えば、ベスト10のうち

第3位『大ピンチずかん』(2022年スタート)

第6位『パンどろぼう』(2020年スタート)

第8位『ドラゴン最強王図鑑』(最強王図鑑シリーズは2015年スタートだが2022年にNintendo Switchでゲーム化、2024年1月からTVアニメ化)

第10位『100かいだてのいえ』(2008年刊のロングセラーだが2023年に新刊『ぬまの100かいだてのいえ』が出て書店でも既刊含めて改めて人気が再燃)

 の4作が初のランクインを果たしたが、たしかにこの2年以内での盛り上がりを感じるタイトルばかりだ。

■小学生の「今」の気持ちがわかる

 次に2の「読者である小学生自身が投票して決める」だが、これも重要なポイントだ。児童文学の関係者が児童文学の歴史を踏まえて選ぶ賞にももちろん価値はあるし、書店員が選ぶ賞は保護者の感覚に近く、それはそれでやはりやる意味がある。

 しかし子ども自身がただ「読んだ」だけでなく(「朝の読書で読まれた本」や「学校読書調査」の結果がこれにあたる)、わざわざ「投票」して選ぶ、というのは、これはその瞬間、その時期の小学生の「好き」の度合いが強いタイトルが上位を選出するのに非常に良いしくみだ。

 もちろん、絵本や児童書にくわしい大人であればベスト10に入っている作品はだいたい知っているだろうし、タイトルの並びにあまり新味を感じないかもしれない。

 だが当事者である子どもにとっては新刊・既刊など関係なく、ほとんどの本・シリーズが「今」「初めて」出会うものであり、新鮮なおもしろさを感じているからこそ投票するのである。

 子育てをしたり、日々子どもと接したりしている方ならばおわかりだろうが、子どもひとりひとりの興味関心の移るスピードは速いことが多いし、消えていく流行りものも少なくない。

 そんななかで「今」「この時代」に小学生が自ら「好き!」という気持ちを表明するために投票した本が並んでいるという事実に目を向けてもらいたい。こどもの本総選挙の上位作品は、経年の累計の部数競争で上から順番に並べたものではない。この企画で測定されているのは、小学生の「今」の気持ちなのだ。

 2018年の第1回こどもの本総選挙で『りんごかもしれない』に投票した小学生は今回第4回では投票資格を全員失っている。投票資格を持った小学生は毎回(2年ごと)に3分の1ずつ入れ替わる。「2024年に『りんごかもしれない』が第1位」の意味するところは、「同じ読者が同じ熱量で8年間支持し続けた結果」ではない。これを踏まえてランキングを捉えなければいけない。

 8年もトップ10に君臨し続けている『りんごかもしれない』や『あるかしら書店』『ざんねんないきもの事典』『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』は、小学生の心を、この8年ずっと“新たに”捉え続けてきた作品なのだ。

 そう考えると、小学生の保護者はもちろん、子どもの本に興味がある大人、携わっている人々も「はいはい、この本知ってる知ってる」という普段の感覚をリセットし、2年に1度はランキング上位作品とまた「今」新規に出会い直す、新鮮な気持ちで読み返すのに良い機会になっているのではないだろうか?

■今後も2年に1度のお祭りを続けるために

 以上が私が考える「“こどもの本”総選挙」の独自の特徴と良いところだ。

 小学生にとっては「好きなものに投票し、その結果を知る」というワクワクする体験を2年に1度得られる貴重な機会になり、また、出版・教育・子ども向け各種商品・サービスの従事者にとっては「今」の小学生の好きな本を知る機会になり、長く続けば続くほどに重要な経年データが得られる場にもなっている。

 小学生に限らず、これが中高生にまで同様の趣向の企画が広がれば、より貴重かつ重要なイベントになることは間違いない……のだが、NPO法人こどもの本総選挙事務局は手弁当で運営され、このイベントは個人・法人の寄付で成り立っている。現状では小学生部門だけでも毎回大変な苦労のもと運営されているようなので、この記事を読んで興味をもたれた方は、応援も少し検討してみていただきたい。

ライター

出版社にてカルチャー誌や小説の編集者を経験した後、独立。マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について取材&調査してわかりやすく解説・分析。単著に『いま、子どもの本が売れる理由』『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』『ウェブ小説の衝撃』など。構成を担当した本に石黒浩『アンドロイドは人間になれるか』、藤田和日郎『読者ハ読ムナ』、福原慶匡『アニメプロデューサーになろう!』、中野信子『サイコパス』他。青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒、グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。息子4歳、猫2匹 ichiiida@gmail.com

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