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恵方巻 大手コンビニ社員の内部告発も 全国107店調査 2024年の結果はどうだったのか

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
2024年2月3日23:30、大手コンビニの恵方巻。88本残っていた(筆者撮影)

2019年から毎年実施している恵方巻の売れ残り調査を実施した。今回で6回目となる。節分当日の夜、売れ残っている恵方巻の数量を数えて食品ロスの実態を把握するものだ。詳細は次の通り。

調査概要

実施日時:2024年2月3日(土)夜21時〜2月4日(日)0時30分

実施地域:関東・中部・関西エリア、7都府県

対象店舗:大手コンビニエンスストア107店舗

調査者:筆者および10〜60代の12名ボランティア(高校生・大学生含む)

調査内容:商品棚に残っている恵方巻の本数(+可能な場合、商品名と金額も)

目的:限られた時間のみ販売する恵方巻の食品ロスの実態を把握するため

「恵方巻だけを対象にするのはおかしい」という論調の意見を目にすることがある(1)が、これまで何度も恵方巻の食品ロスに関する取材を受けてきた株式会社日本フードエコロジーセンター(2)の高橋巧一社長は「恵方巻以外の季節商品、たとえばクリスマスケーキやうなぎに関しては、恵方巻ほど突出して目立つ廃棄はなく、単体で分析しやすいのは恵方巻のみ」と語っている。

日本フードエコロジーセンターに納入された、巻いていない恵方巻(高橋巧一社長提供写真)
日本フードエコロジーセンターに納入された、巻いていない恵方巻(高橋巧一社長提供写真)

日本フードエコロジーセンターは、コンビニに食品を納入する企業やスーパー、百貨店など、事業者からの食品ロスを受け入れ、豚の飼料にリサイクルしている企業だ。高橋社長より入手した、恵方巻などを含めた食品ロスを納入している3企業からの搬入量について、2021年から2024年までのデータを見てみた。2月3日の節分当日にピークが突出しているのがわかる。(ただし2021年は、暦の上で節分が2月2日だったため、2月2日にもピークが見られる)

日本フードエコロジーセンターに納入された食品ロス量の推移(A社・B社・C社、2021年〜2024年)日本フードエコロジーセンター制作グラフ
日本フードエコロジーセンターに納入された食品ロス量の推移(A社・B社・C社、2021年〜2024年)日本フードエコロジーセンター制作グラフ

2024年の調査結果

調査した107店舗のうち、6店舗に関しては21:30ごろに廃棄作業を始めており、すでに恵方巻を廃棄してしまい、見かけ上「0(ゼロ)」になって売り切っているかのように見える恐れがあるため、残念ながら調査対象から除いた。

残りの101店舗で売れ残っていた恵方巻については次の通りだった。

合計:101店舗
売れ残り本数:1750本
1店舗あたりの平均売れ残り本数:17本
完売店舗:24店舗(調査対象店舗のうち23%が完売)

101店舗のうち、25店舗に関しては、商品名と金額を明確に把握できた。これら25店舗に関する売れ残り合計金額と売れ残り合計本数は次の通り。

セブン-イレブン・ジャパン12店舗 売れ残り金額188,006円、売れ残り本数289本

ファミリーマート8店舗 売れ残り金額95,860円、売れ残り本数138本

ローソン5店舗 売れ残り金額34,200円、売れ残り本数45本

1店舗あたりの売れ残り金額と本数をグラフに示すと下記の通りになる。

101店舗中、25店舗に関する平均売れ残り金額(株式会社office 3.11調査店舗に関して、筆者制作)
101店舗中、25店舗に関する平均売れ残り金額(株式会社office 3.11調査店舗に関して、筆者制作)

101店舗中、25店舗に関する平均売れ残り本数(株式会社office 3.11調査店舗に関して、筆者制作)
101店舗中、25店舗に関する平均売れ残り本数(株式会社office 3.11調査店舗に関して、筆者制作)

これだけ見ると、セブン-イレブンが最も多く、2番目がファミリーマート、3番目がローソンということになる。この傾向は2023年も同じだった(4)。

全国では7億〜8億円以上の恵方巻のロスが発生

ここから全国のコンビニ店舗数55,713店舗でも同じように売れ残りが発生していたと仮定すると、全国では7億881万6,442円の恵方巻の食品ロスが発生していたことになる。

調査した101店舗の売れ残り本数に、大手コンビニ3社の恵方巻平均金額を掛け算すると、8億8,423万6,784円となった。全国では7億円から8億円、あるいはそれ以上の食品ロスが発生していたと推察される。

リサイクルセンターへの納入量は

日本フードエコロジーセンターに納入された恵方巻の量を見ると、節分当日で比較すると、2023年より若干減っているように見える。

2月1日から2月4日までの4日間の納入量に関して、2021年・2022年・2023年・2024年の4年間について、3企業からの合計納入量をグラフにしてみた。2024年は、2023年より減少傾向にある。

日本フードエコロジーセンターに2月1日から4日まで納入された食品ロス量(2021-2024、高橋巧一社長よりのデータに基づき筆者制作)
日本フードエコロジーセンターに2月1日から4日まで納入された食品ロス量(2021-2024、高橋巧一社長よりのデータに基づき筆者制作)

参考までに、節分当日の曜日は次の通り。

2024年 土曜日

2023年 金曜日

2022年 木曜日

2021年 火曜日

上のグラフでは2022年が最も多い。が、この値も、食品ロス削減推進法の法律施行前の2019年のデータと比べると、減っている(3)。2019年から2023年にかけてのグラフは下記の通り。

日本フードエコロジーセンターに節分当日に納入された食品ロス量(2019-2023、高橋巧一社長よりのデータに基づき筆者制作)
日本フードエコロジーセンターに節分当日に納入された食品ロス量(2019-2023、高橋巧一社長よりのデータに基づき筆者制作)

現場では…

だが、細かく見ていくと、決して手放しでは喜べない。たとえば筆者が調べたうち、あるファミリーマートでは、23:30過ぎの時点で商品棚に88本の恵方巻が残っていた。

2024年2月3日23:30、あるファミリーマートの恵方巻。数えたら88本残っていた(筆者撮影)
2024年2月3日23:30、あるファミリーマートの恵方巻。数えたら88本残っていた(筆者撮影)

300円の割引シールが貼ってあるものの、これだけの量がコンビニの狭い棚に載っていると、ぎっしり詰まりすぎて、ほとんど手を出さない。30分の時間差で見てみたのだが、数はほとんど変わらなかった。

ちなみに大手コンビニ3社の2024年恵方巻1本あたりの平均価格(税込金額)は次の通り。

セブン-イレブン 951円
ファミリーマート 893円
ローソン 903円

セブン-イレブン・ジャパンの社員からの情報によれば、2024年1月9日付で永松社長から次のようなメッセージが出されたという。

残念ながら年末予約は前年比95%という結果でした。
恵方巻で取り返していただきたいと思います。

企業は総じて「対前年比何%増」と目標を立てる。必ず、前の年よりも多くなるとする。だが、人口は減少傾向にあり、多く目標を立てても増やすのは難しい。コンビニ問題に詳しいある弁護士は「強欲」というキーワードで大手コンビニを評した。これだけ売り上げが上がっているにもかかわらず、「もっと、もっと」と求めるから、廃棄が多くなる。いろんな人が過剰労働をせざるを得なくなる。

この社員からは、各商品に関する廃棄率の生データを送ってもらった。品目によって異なるが、20%近く出ているものもある。実際、報道された記事やX(旧Twitter)上では、大量に売れ残っていたという声や写真が散見されており、このデータと整合性がある。

ファミリーマートのある店舗では、節分の日の午前中から、鬼などの着ぐるみを着た2人組が店頭に立ち、2種類の価格帯の恵方巻を並べて屋外で販売していた。今年の節分は比較的、天気がよかったので、店外に消費期限の短い恵方巻を並べて長時間出しておいて大丈夫かなと心配になった。

ファミリーマートの前で着ぐるみを着て店頭販売する人々(筆者撮影)
ファミリーマートの前で着ぐるみを着て店頭販売する人々(筆者撮影)

ローソンに関して、実際にアルバイトをしている学生に聞いたところ、営業時間が24時間ではなく限られた時間で営業している場合、夜21:30に廃棄作業を始めるという。今回の調査では、2月3日夜間から2月4日0:30にかけておこなったため、すでに廃棄されている可能性が高いとのことで、前述の通り、調査した店舗から除くことにした。

大手コンビニオーナーの生の声

大手コンビニのあるオーナーによれば、恵方巻に関しては、2月2日の夜から3日の午後にかけて、1便、2便、3便と3回配達されてくる。店舗によってそのタイミングは異なる。このオーナーの場合、売り残したくないので、3便(2月3日の午後14時から16時にかけて届く)に関しては、まったく発注していないとのこと。3便で頼んだ恵方巻に関しては、消費期限が節分の翌日2月4日の昼過ぎまであるので、実際には2月4日まで販売できることになる。だが、売り切ることを考えるとリスクが高い。

また、ほかの大手コンビニ社員によれば、本部から「恵方巻の予約を取れ」という圧がすごい、という。このような依頼が2023年12月からあったとのことだった。前年に売れた恵方巻の本数の1.5倍を発注するようにという指示により、自爆営業があったそうだ(自爆営業とは、従業員が自己負担で商品を購入することにより売上を上げることをいう)。この社員からは、詳細なデータを送ってもらったが、「見る人が見れば数値だけですぐにわかってしまう」ということで、絶対にバレないようにしてほしいとのご希望から、データに関してはここでは控えておく。「世間で(恵方巻の廃棄が)騒がれるまでは、どこの店舗でも恵方巻だけで100から数百の廃棄を当たり前のように出していた」とのことを教えていただいた。

2024年2月3日23時台の大手コンビニエンスストア(筆者撮影)
2024年2月3日23時台の大手コンビニエンスストア(筆者撮影)

結論および関係者へのメッセージ

大手コンビニ各社は「うちの会社は恵方巻の予約販売をやっています」とアピールしている。実際、2024年1月24日には、ある大手コンビニ本部から加盟店あてに文書が出され「予約活動を中心とした販売の強化をお願いしたい」と書かれている。

だが、予約販売を推奨している農林水産省をはじめ、世間の人々は、この「予約販売」を、顧客が必要な分だけ予約する「予約販売」だけだと勘違いしているのではないだろうか。

実際の大手コンビニでは、「予約」はこれだけではない。たとえばある大手コンビニでは「特別発注(特発)」といって、節分の前年、12月の初めごろから、加盟店が「2月の何日に恵方巻が何本、ミニが何本・・・」という具合に、前年の売れ数や曜日などを考慮し、予測し、オーナーもしくは店長の勘も含めて、適当に「20本」「50本」「80本」などと発注するものがある。ある大手コンビニオーナーなどは、今年、恵方巻を1000 本近くも仕入れていたそうだ。

2024年2月3日22:30過ぎ、大手コンビニエンスストアの恵方巻(筆者撮影)
2024年2月3日22:30過ぎ、大手コンビニエンスストアの恵方巻(筆者撮影)

大手コンビニ各社は、「うちはSDGsをやっている」「フードドライブを実施している」「規格外野菜を活用してスムージーや弁当を売っている」と口々にサステナビリティをアピールする。だが、余らせたものを活用する以前に、店で膨大に発生するロスを減らしたらどうなのか。環境配慮の「3R」で最優先なのは「リデュース」であって、廃棄の発生を減らすことである。いくらパフォーマンスをやっても、ウォッシュ(見せかけ)だということは、わかる人にはバレている。店内調理していて数を調整しやすいスーパーと違って、コンビニは、恵方巻のロスを減らしにくいということを自覚しなければならない(5)。

2024年2月3日21時台、大手コンビニエンスストア(関係者撮影)
2024年2月3日21時台、大手コンビニエンスストア(関係者撮影)

今年は恵方巻の割引を50円から300円程度で実施しており、その心意気はよかったが、実際には買う人は少なかった。今回の調査中、夜間のコンビニでは多くの若者を目にした。何を買っているかも観察してみたが、キャラクターつきのおにぎりや、スイーツ、スナック菓子などが多かったようだ。恵方巻を買っている現場には一度も出合わなかった(スーパーでは出合った)。

とにかく、当日の過剰販売はやめること。

捨てても本部が損をしないコンビニ会計をやめること。

省庁は、「予約販売をしましょう」と呼びかけるのはいいが、今年も新聞社の取材に対し「恵方巻の廃棄数は把握できない」と答えたとのこと。昨年も同じように答えていたそうだが、本気で把握したかったら職員が2月3日の夜にコンビニをまわってみたらどうなのか。

あるマスメディアの記者は「セブンとトヨタは叩けない」と言っていた。食品業界紙の中には、あたかもコンビニが恵方巻の食品ロスを減らして頑張っています、という趣旨をアピールしている記事もあったが、本当に現場を見にいったのか(6)。企業に媚を売るような記事を書いてないで、事実を把握してから書いていただきたい。

寿司に使われている海苔もご飯も海産物も卵も、貴重な食資源である。その大切な資源を捨てないでほしい。

なお、今回、スーパーは対象に含めていないが、複数店舗を夜間にまわってみた。中には不自然なほど短時間に商品棚が空っぽになっている企業があった(2月3日23時台の30分間に空になっていた)。スーパーは、基本的に「廃棄は悪、売変(売価変更)で売り切る」姿勢だと認識してはいるが、今年に関しては案外、売れ残りが多く見られたことも指摘しておきたい。

今回の調査に協力してくださった10代から60代のみなさま、調査のみならず、データをとりまとめてくれた意識の高い高校生に感謝申し上げたい。

調査に協力してくださったみなさま(五十音順、敬称略)

石橋俊伸

石橋三智子

岩田和音

金城さくら

河野豊

小坂井美星

酒井茜音

坂巻達也

鴫原世紀子

福田慎

丸山日奈子

森永理子

参考資料

1)“フードロス”“自腹買取”の象徴「恵方巻」に変化の兆し…コンビニ店員が「恵方巻だけを悪者にしても“廃棄問題”は解決しない」と語る理由(中川淳一郎、デイリー新潮、2024/2/4)

2)株式会社日本フードエコロジーセンター

3)2023年も売れ残りを防げなかった恵方巻は本当に福を呼ぶのか(井出留美、朝日新聞SDGsACTION!、2023/3/14)

4)恵方巻、89社が予約販売に応じた2023年、45店舗の調査結果はどうだったのか(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2023/2/9)

5)コンビニ恵方巻「大量廃棄」問題の解決が難しい事情(井出留美、ダイヤモンドオンライン、2017/2/3)

6)ファミリーマート、恵方巻の予約が前年越え 予約施策の強化で食品ロス削減にも貢献(食品新聞、2024/2/3)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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