Yahoo!ニュース

食材が傷みやすい夏、無駄な廃棄を防ぐために家庭でできるちょっとしたコツ

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
梅干しをご飯全体にまぶして作ったおにぎりとたくあん(写真:イメージマート)

暑い季節は予期しない速さで食材や料理が傷んでしまう。「やっちゃった」と後悔しながら、泣く泣く食材を廃棄する人もいるかもしれない。気候変動の影響で、これからますます暑さが加速することが見込まれる。夏場に家庭で食材を無駄に廃棄しないために、どんなことに注意したらよいだろうか。

野菜などの生鮮食品は適量買う、使う日に買う、買い過ぎない

基本は「必要な分だけ買う」ということ。特に家庭で最も捨てられるのは野菜類だ。農林水産省による食品ロス統計調査(1)では、最も捨てられるのが野菜類で47.7%。兵庫県神戸市による約700世帯対象の食品ロス実態調査でも、家庭で手付かずのまま捨てられる食品のおよそ半分がキュウリやレタス、キャベツなどの生鮮食品だった(2)。ハウス食品グループの調査(3)では、「最近捨ててしまった食品・食材」の1〜5位まで、パン以外はすべて野菜が占めている(4)(キュウリ、キャベツ、もやし、レタスなど)。

家庭菜園でとれたキュウリ(筆者撮影)
家庭菜園でとれたキュウリ(筆者撮影)

野菜は水分含有量が多く、傷みやすいので、必要な分だけを買うこと。たとえばレタスやキャベツなど、丸ごと買ったほうが割安でも、1人暮らしでは使いきれない場合、1/2や1/4にカットしたものを買って使いきるようにしよう。

「もやし」や「ニラ」なども傷みやすく、「もやし」は、真空パックでない場合、放置しておくと、すぐ茶色い汁が出てきたりする。買ってきてすぐ、もやしの袋に穴を開けておく、あるいは電子レンジでチンして密閉容器に移す、湯通しする、など、下処理しておくとよい。でも、それが面倒だったら、使う日に買ってすぐ使いきるのがよいだろう。

市販の野菜保存袋を活用する

以前は、野菜を保存する場合、古新聞を使ったものだった。が、筆者も今はデジタルで全国紙を2紙購読しているので、新聞紙は、買ってこない限り、貯まらない。そこで重宝するのが、何度も繰り返し使うことのできる、市販の野菜保存袋だ。悪くなりがちな野菜の保存期間を延ばすことができる。

各社から発売されている野菜保存袋(筆者撮影)
各社から発売されている野菜保存袋(筆者撮影)

筆者は毎朝、野菜と果物のスムージーを作って飲んでいる。青菜として青梗菜や水菜などを買うので、市販の野菜保存袋「愛菜果(あいさいか)」を使い、さらに米国から取り寄せたオーガニックコットンの食材保存袋を使っている(5)。

オーガニックコットンの野菜保存袋「B-Organic」(筆者撮影)
オーガニックコットンの野菜保存袋「B-Organic」(筆者撮影)

以前、野菜保存袋で青梗菜を1ヶ月間実験したところ、そのまま野菜室で保存した場合と比べて、根っこの水分が保たれ、1ヶ月経っても、使うことができた(6)。数枚葉っぱが黄色くなっていたが、全体に支障はなかった。

買ってきたら、そのまま野菜室に放り込むのではなく、ちょっとひと手間かけるだけで、持ちが違ってくる。特に、買い物に頻繁に行けない人は、家庭の冷蔵庫での保存期間が長くなるので、試してみてほしい。

冷凍野菜やカット野菜を使う

使うときに必要な分だけ、といっても毎日買い物に行ける人ばかりではない。介護や育児、通勤、家から店までが遠いなどの理由で、1度の買い物で食材を多く買う必要がある人もいる。宅配を頼むのも難しい場合もあるだろう。

ただ、そういった方は忙しさ故に、料理の時間を確保することが難しく、その結果、食材を使いきれない場合も多いのではないか。

もしそうであれば、長期保存が可能な冷凍野菜や、料理の手間が省けるカット野菜、あるいは一定料理をあきらめて、市販のお惣菜やデリバリー(出前)などを使うのもよいと思う(7)。

大変な時に、「自炊しなければ」という義務感にかられる必要はない。下手に野菜を買い込み、使いきれないくらいなら、保存期間の長い冷凍野菜を使うのもいいし、予算が許すのであれば、デパ地下や飲食店の出来合いの料理に助けてもらうのもよいだろう。

買いだめするなら常温保存可能な食品をローリングストック法で

最近では、コロナ禍で外に出られなくなった経験から、食材を買いだめする人もいる。知人も、コロナ禍の真っ最中に、大人数の家族のために買った食材がたくさんあり、そろそろ賞味期限が近づいてきてしまったと話していた。コロナを抜きにしても、毎年起こる自然災害に備えて備蓄をする人も多い。その場合、生鮮食品ではなく、常温保存できる食材を買うのをおすすめしたい。

たとえば、レトルト食品やパックごはん、缶詰類、パスタやそうめんなどの乾麺類。特に缶詰は3年間の賞味期限がある。缶それ自体の品質保証期限が3年間だから「3年」としているが、真空調理してあるので、直射日光や高温高湿の場所を避けて保管すれば、もっと長く保管できる。最近では、パン・アキモトが、5年間保存できるパンの缶詰を開発し、販売を始めた。江崎グリコは5年間保存でき、あたためなくても食べられるレトルトカレーを製造している。

備蓄品の例。パン・アキモトのパンの缶詰やさばの缶詰、パックご飯、レトルト食品、ドライフルーツやナッツなど(筆者撮影)
備蓄品の例。パン・アキモトのパンの缶詰やさばの缶詰、パックご飯、レトルト食品、ドライフルーツやナッツなど(筆者撮影)

長期保存できるからといって、買って貯めたままでは、日に日に賞味期限が近づいてくる。常温保存可能な備蓄食品は、「買っては使い、使った分だけ買い足す」ローリングストック法がおすすめだ(8)。

たとえば今日が大雨で買い物に行けない場合、家族3人分のレトルトカレーとパックご飯を使ってカレーライスをつくる。次の買い物の時、使った分だけを買い足す・・・という方法である。これなら、食材の在庫が「循環」していくので、賞味期限も意識するし、長らくほったらかしにして、いつのまにか期限を切らしてしまうことが少なくなる。

調理した料理は早く食べきり、お酢や塩、梅干しを上手に活用する

夏場は、調理した料理はできるだけすぐに食べきる。食べきれない場合は冷蔵庫で保管し、翌日までには食べきるようにしよう。また、弁当やおにぎりを持って出かける場合、梅干しを使うとよい。できれば梅干しは刻んだものをご飯全体に混ぜて使うと効果がよくなる(9)。

梅干しをご飯全体にまぶす
梅干しをご飯全体にまぶす写真:イメージマート

昔は、砂糖や塩が天然の保存料だった。今は健康志向で、ジャムの糖分も少なくなったし、梅干しの塩分も控えめになった。

梅干しの代わりに、ご飯に酢を混ぜて、寿司めしにしてもよい。酢に含まれる酢酸は殺菌効果や除菌効果があるので、食べ物を傷みにくくしてくれる。

ご飯と酢飯の殺菌効果(株式会社エフシージー総合研究所調査)
ご飯と酢飯の殺菌効果(株式会社エフシージー総合研究所調査)

筆者が2年近く滞在したフィリピンには「アドボ」という料理がある。イカや魚、肉などを、酢と醤油で煮込むものだ。これも常夏のフィリピンの知恵だろう。ちなみにフィリピンの「キニラウ」というのは、魚の刺身をお酢でしめて、野菜と混ぜたマリネだ(10)。さっぱりとした白身魚で作るととても美味しく、日本人好みだと思う。

夏は、食欲をそそるカレーを作ることも多いだろう。ネット上の情報では「冷蔵で2-3日はOK」と書いてあるが、作った翌日までには食べきったほうがよいと思う。筆者は、玉ねぎの皮や野菜のかたい部分など、捨てないで、密閉用保存袋に入れて冷凍している。

玉ねぎの皮や野菜の硬い部分をとっておいて、一週間分ぐらいたまったら深鍋に移して水を入れて煮出し、ベジブロスをつくる(筆者撮影)
玉ねぎの皮や野菜の硬い部分をとっておいて、一週間分ぐらいたまったら深鍋に移して水を入れて煮出し、ベジブロスをつくる(筆者撮影)

一週間ほどでたまったら、深鍋に移し、1リットル程度の水を入れて1時間ほど煮出し、ベジブロス(野菜だし)を作る(11)。そのだしで、玄米カレーを作っている。週末に作るので、土曜日に作ったら土曜日の夕食と日曜日の夕食に食べている。材料は、合挽肉とナス、パプリカ、青とうがらし、トマトなど、夏野菜で、そのときにあるものでOK。二食分作って、粗熱がとれて冷めたら冷蔵庫に入れておく。

干す、マリネ液に漬ける

キュウリを干す、というのは、料理家の有元葉子さんの本で学んだ(12)。斜め輪切りにし、ざるに並べて、陽なたに干しておくと、半日ぐらいで水分がいい具合に抜けて、カサが減る(13)。それを塩揉みして、カレーの付け合わせにしてそのまま食べてもいいし、ごま油や醤油、酢などに漬けてもおいしい一品になる。生より、噛みごたえが出て、噛んでいると満足感がある。

キュウリを斜め輪切りにし、ざるに広げて陽なたに置いておく。水分が抜けたところで塩揉みし、ごま油や醤油、酢に漬けるとおいしい一品に(筆者撮影)
キュウリを斜め輪切りにし、ざるに広げて陽なたに置いておく。水分が抜けたところで塩揉みし、ごま油や醤油、酢に漬けるとおいしい一品に(筆者撮影)

冒頭で述べた通り、ハウス食品グループの調査によれば、「家庭で捨てる食材」の1位がキュウリだ。ぜひ、キュウリを干す、というのを試してほしい。有元葉子さんは、キーマカレーにも干しキュウリを使っている。

ちょうどラジオ局のJ-Waveで「ごみを減らす」テーマで放送していたので、キュウリを干すことについてメッセージを送ったら、読んでいただいた(2023年7月2日10:32a.m. J-Wave 「ACROSS THE SKY」)。ナビゲーターの小川紗良(さら)さんは「私もやってますよ、干し野菜、大好きです。買って、まず干す。そうすると、保存も利きます。キュウリを1日ぐらい干して塩水漬けにすると、食感は、たくあんみたいな感じ。ほどよく塩味がして、さっと食べられる一品になります」という趣旨を語っておられた。

酢を使ったマリネ液に漬けるのもよい。

以上、夏場に食材や料理を傷ませないコツについて、少しだけ紹介した。何かお役に立てたらうれしく思う。

参考情報

1)食品ロス統計調査(農林水産省、平成26年度)

2)食品ロスの実態を調査 兵庫県神戸市(大津、月刊廃棄物、2018/2/1)

3)カレーでおいしく減らそう うちの食品ロス(ハウス食品グループ)

4)日本と世界でこんなに違う!「捨てられる食品」トップ10(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/2/16)

5)米・オーガニックコットンの野菜保存袋 B-Organicを1ヶ月試してみた:SDGs世界レポ(23)(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/6/7)

6)野菜保存袋ってどのくらい持つの?3社3種類の袋に1ヶ月間チンゲンサイ(青梗菜)を保存して比較してみた(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/12/4)

7)家庭の野菜の食品ロスをなくし食費を安くする10ヶ条(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/4/23)

8)65%「賞味期限切れ経験ある」備蓄の廃棄を防ぐには?#あれから私は(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/3/6)

9)自宅で作って夏場に持ち歩く弁当やおにぎりのご飯を傷まないようにする秘訣とは?(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/7/30)

10)フィリピン料理(フィリピン政府観光省)

11)「野菜の過剰除去を減らす」「ベジブロス(野菜出汁)に」「野菜を育てるコンポスト(堆肥)たいひに」食品ロス問題に詳しい「井出留美」さんオススメの家庭で出来る食品ロスが減る方法(NHKまちかど情報室 今朝の商品 2021/2/1)

12)きゅうりを干しておいしいの?干すと生より歯ごたえあっておいしい!お酒のつまみや夏休みの自由研究にも(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/7/21)

13)食品ロスの伝道師として(井出留美、野菜情報、独立行政法人農畜産業振興機構、2022/6)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事