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「水」を燃やすために1兆円  食品ロス・生ごみ処理に多額の税金が費やされる日本

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

2023年3月30日、環境省は、2021年度のごみ(一般廃棄物)の処理費を「2兆1,499億円」と発表した(1)。

首都圏で、食品事業者から食品廃棄物や食品ロスを受け取り、飼料化している、株式会社日本フードエコロジーセンター(2)の高橋巧一社長は、毎年発生している、この2兆円を超える費用のうち、40%は食べ物由来ではないかと推察している。

なぜなら、日本の自治体の可燃ごみのうち、およそ40〜50%を生ごみが占めるからだ。

たとえば、人口50万人以上の自治体の中で、2020年度の1人1日あたりのごみ排出量が全国で最も少なかった京都市を見てみると、燃やすごみのうち、40.2%が生ごみ(厨芥類)となっている(3)。人口10万人以上50万人未満の自治体のうち、2020年度の1人1日あたりのごみ排出量が全国で2番目に少ない東京都日野市は、公式サイトで「可燃ごみ・・・その半分が生ごみです」と伝えている(3‘)。仮に可燃ごみの半分が生ごみとすると、単純計算で税金1兆円以上がその処理に費やされていることになる。

「燃やすごみ」の組成(京都市生ごみデータ、令和2年度より)
「燃やすごみ」の組成(京都市生ごみデータ、令和2年度より)

食品ごみ(生ごみ)の重さの80%以上が「水」だ。水は燃えにくい。燃えにくいものを、わざわざ膨大なエネルギーとコストをかけて燃やしている。その費用は、われわれが働いて納めた税金である。

筆者は、2017年7月に、廃棄物削減に関する講演(4)を依頼されたのをきっかけに、生ごみを分別し、家庭用生ごみ処理機で乾燥させることを始めた。家庭用生ごみ処理機は、全国の60%以上の自治体で、市民への助成金制度を設けている(5)。筆者もその制度を利用して、インターネット通販で購入した「パリパリキューブ」(シマ株式会社)の半額助成を受けた(途中から、バージョンアップした機種の「パリパリキュー」に変更)(6)。使う電力に関しては、100%再生可能エネルギーのハチドリ電力(7)を使っている。

2023年2月現在で、1,400回使用した。減らすことができた重量は累計370kgで、平均減少率は69.4%。体重60kgの成人6人分の重さを減らすことができた。

筆者のデータを基にYahoo!JAPAN制作
筆者のデータを基にYahoo!JAPAN制作

筆者のデータを基にYahoo!JAPAN制作
筆者のデータを基にYahoo!JAPAN制作

生ごみは、乾かせば、70%以上、その重さを減らすことができることがわかった。

乾燥させた生ごみは、当初はそのまま捨てていたが、今はコンポストにしている。乾燥させないで、そのままLFCコンポスト(8)に入れることもある。

長野県の川上村や南牧村は、自治体が生ごみ回収をおこなっていない。徳島県の上勝町は、町民自身が生ごみ処理をおこない、ごみ回収車もないので町民がごみ集積センターまで持ってくる。これらの自治体は、1人1日あたりのごみ排出量が少ない(1)。

環境省のデータを基にYahoo!JAPAN制作
環境省のデータを基にYahoo!JAPAN制作

人口が50万人以上の自治体のうち、1人1日あたりのごみ排出量が少ない東京都八王子市や京都市、愛媛県松山市なども、全国トップクラスの少なさだ(1)。

環境省のデータを基にYahoo!JAPAN制作
環境省のデータを基にYahoo!JAPAN制作

日銀は、国債の発行残高の半分以上を持つ。その額は、約582兆円。1万円札で積み上げれば5,820キロ、富士山の高さの1,500倍に及ぶ(9)。2023年2月10日、財務省は、普通国債の発行残高が2022年12月末で1,005兆7,772億円になったと発表した(10)。

これだけ借金まみれの状態で、なぜ日本は「水」を燃やすために1兆円以上の税金を使い続けるのだろう。たとえば韓国は、政府が生ごみのリサイクルを義務化し、「ごみ」ではなく「資源」として活用している。すでにリサイクル率は97%を超えている(11)(12)。

さらに、日本は温室効果ガスの排出量が世界第5位だ。1位の中国、2位の米国、3位のインド、4位のロシアに次いで、第5位。

世界の森林率で、日本は先進諸国の中ではフィンランド、スウェーデンに次いで3位。68%が森林だ(13)。それだけ二酸化炭素を吸収してくれる環境にありながら、温室効果ガスの排出量が世界第5位というのが不思議でならない。それも、燃えにくい生ごみまで含めて、ごみの80%近くを燃やしているのも一因だろう。

税金の無駄な支出をなくし、温室効果ガスの排出を減らすために、今からできること。それは、一人ひとりが、食品ロスを含めた生ごみを減らし、生ごみの水分を減らすことだ。「分ければ資源 混ぜればごみ」という。「雨垂れ石を穿つ」という言葉もある。少しずつの一滴が、やがては大河になるはずだ。

参考資料

1)「生ごみ出しません袋」「燃やすしかないごみ」年間2兆円超のごみ処理減らす全国の自治体 少ない1位は?

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20230410-00344980

2)株式会社日本フードエコロジーセンター

https://japan-fec.co.jp

3)京都市の生ごみデータ

http://sukkiri-kyoto.com/data

3’)ごみの行方を知っていますか?(処理場の周辺の住民の皆さまに感謝の気持ちを)東京都日野市

https://www.city.hino.lg.jp/kurashi/gomi/cleancenter/1002981.html

4)平成29年 埼玉県川口市クリーン推進員感謝状贈呈式及び委嘱式交付式における800名への講演(埼玉県川口市主催、於:川口総合文化センターリリア音楽ホール)

5)家庭用電気式生ごみ処理機を購入する際は助成金制度をチェック(シマ株式会社、2022年5月現在のデータ)

https://www.parisparis.jp/assistance/

6)生ごみ減量乾燥機 パリパリキュー(シマ株式会社)

https://www.parisparis.jp/

7)ハチドリ電力

https://hachidori-denryoku.jp

8)LFCコンポスト

https://lfc-compost.jp

9)<卓上四季>「異次元」が残したもの(北海道新聞朝刊全道一面、2023.4.8)

10)普通国債が初の1000兆円台 22年末、金利上昇にリスク(日本経済新聞、2023.2.10)

11)『ごみゼロへの挑戦 ゼロウェイスト最前線』(山谷修作、丸善出版)

12)「生ごみ出しません袋」「燃やすしかないごみ」年間2兆1,290億円のごみ処理減らす自治体の取り組み

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20220530-00297777

13)世界の森林率ランキング(世界経済のネタ帳、2020)

https://ecodb.net/ranking/wb_frstzs.html

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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