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「賞味期限切れ」でも飲食可能な備蓄は使い尽くす 農林水産省の継続的な取り組み

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
備蓄を受け取るバラエティクラブのお二人と農林水産省の石田大喜氏(右)(筆者撮影)

2022年1月19日、農林水産省が、これまで保管していた備蓄食品の一部を提供し、フードバンク活動をおこなうNPO法人「バラエティクラブ」がそれらを受け取った。

今回、農林水産省が提供した備蓄食品は次の通り。

缶詰(果物)24缶入り×4箱  賞味期限:2021年9月3日

缶詰(ウィンナー)24缶入り×2箱 賞味期限:2021年9月27日

防災備蓄食 梅干し(1袋6粒)50袋入り×1箱 賞味期限:2021年12月

カロリーメイト(2本入り)60個入り×10箱  賞味期限:2022年2月10日

やわらか美食ごはん(五目、わかめ、ひじき)25食入り×40箱 賞味期限:2022年3月

太字で示したように、缶詰(果物・ウィンナー)は4ヶ月程度、梅干しは1ヶ月程度、賞味期限が過ぎている。だが、賞味期限は「おいしさのめやす」であり、直射日光や高温高湿の場所を避け、適切に保管されていたものであれば、過ぎても十分に飲食可能な場合が多い。

保管していた備蓄食品を運ぶ農林水産省の職員の方々(2022/1/19、筆者撮影)
保管していた備蓄食品を運ぶ農林水産省の職員の方々(2022/1/19、筆者撮影)

2019年12月から農林水産省が始め、現在ではほとんどの府省庁が寄付

かつて、府省庁が備蓄している飲食品は、税金を使って購入した「国の財産」とみなされ、無償提供などができない規則になっていた。

2019年5月に食品ロス削減推進法が成立、同年10月に施行され、2020年に基本方針が定められた。この中で、国や地方は、災害時用備蓄食料の有効活用に努めることが明記された。

そして2019年12月、農林水産省が、府省庁で初めて、保管していた備蓄食料の提供をおこなった。

2020年12月には、農林水産省が、賞味期限が2ヶ月過ぎた缶詰(果物)の備蓄食料の提供をおこなった。

現在では、農林水産省の公式サイトに「国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト」が設置され、以下の府省庁が提供できる備蓄食料がリスト化され、掲載されている。提供を希望する団体は、このサイトを見て申請する仕組みだ。

内閣官房、内閣法制局、復興庁、内閣府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省

農林水産省の「国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト」(筆者がスクリーンショット)
農林水産省の「国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト」(筆者がスクリーンショット)

省庁が率先して「賞味期限切れ」を徹底活用する意義とは?

2019年12月と2020年12月、福島県から農林水産省まで、車で備蓄食料を受け取りに来たNPO法人FUKUSHIMAいのちの水の代表理事、坪井永人さんは、国の取り組みの意義について、次のように語っていた。

(コロナ禍で)私が東京へ行くことを、メンバーが止めました。うちの会の後ろに、毎月2,000人から3,000人の子どもがいるんです。外部の人間は事務所に入れないように、今回のコロナに対処しています。ものすごく気を遣っています。

それでも私はあえて来たんです。それはなぜかというと、農水省が(国が)備蓄品を放出するということがすごく重要だからです。各企業はそれぞれ(食品の寄付を)やっていますけども、国がやることによって、それ(寄付)が本当にいいことなんだ、正しいことなんだと、日本の企業全体が思うようになる

農林水産省から提供された備蓄食品を受け取り、帰路についたバラエティクラブの車両(農林水産省本館南口玄関駐車場にて、筆者撮影)
農林水産省から提供された備蓄食品を受け取り、帰路についたバラエティクラブの車両(農林水産省本館南口玄関駐車場にて、筆者撮影)

賞味期限切れ食品の活用は世界で進みつつある

日持ちが5日以内の食品に表示される「消費期限」と異なり、「賞味期限」はおいしさのめやすに過ぎない。消費者庁の賞味期限愛称コンテストで最優秀賞に選ばれたのは「おいしいめやす」だった。

消費期限と賞味期限との違い(イメージ)(消費者庁の情報を基にYahoo!JAPAN制作)
消費期限と賞味期限との違い(イメージ)(消費者庁の情報を基にYahoo!JAPAN制作)

英国では、コロナ禍で少なくなった食品を最大限に活用するため、非営利組織のWRAP(ラップ)が、2020年、賞味期限が過ぎても使うことができる食品とその目安を示すガイドラインを発表した。WRAPは、英国の食品基準庁(Food Standards Agency)、環境食料農村地域省(Defra:Department for Environment, Food & Rural Affairs)と共に、Surplus food redistribution labelling guidance(余剰食品を再分配する際の表示ガイダンス)を2017年に発表しており、2020年4月にこれを改訂したのだ。

参考:

巣ごもり消費で疑問「賞味期限切れは捨てた方がいい?」英では賞味期限過ぎても捨てないガイドラインを推奨(井出留美、2020/4/27)

デンマークでは、賞味期限表示の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能」の旨、表示を入れた企業もある。食品ロス削減アプリ「Too Good To Go」と活動家が音頭をとり、食糧庁のお墨付きをとった上で、キャンペーンを進めていった。デンマークでは、これらの取り組みを含めたさまざまな取り組みにより、5年間で25%の食品ロスを削減している。

デンマークの牛乳のパッケージの側面を使って賞味期限の意味を説明している(Too Good To Go提供)
デンマークの牛乳のパッケージの側面を使って賞味期限の意味を説明している(Too Good To Go提供)

中学校の家庭科で履修する、賞味期限と消費期限との違い。頭でわかっていても、実生活となると、賞味期限が過ぎたものを拒否してしまう場合も多い。

前述の農林水産省のポータルサイトには、賞味期限について、次の記述がある。

賞味期限は、食べられなくなる期限ではなく、おいしく食べることができる期限であり、定められた方法により保存した場合に、期待される全ての品質の保持が十分に可能であると認められる期限です。このため、賞味期限が近づいている場合や、賞味期限を過ぎたものを提供しようとする場合には、例えば、安心して食べきる目安となる期限の情報提供を行うなど、円滑な提供に向けて配慮します。

備蓄食品の活用をはじめとして、日常の食生活の場でも、賞味期限がおいしさのめやすであることの認識が広まり、実生活で活かされるよう、今後とも、活動を続けていきたい。

農林水産省はじめ、府省庁の備蓄食品が、今後とも活用され続け、十分に食べられる飲食品や農畜水産物の廃棄ができる限り少なくなることを願っている。

関連情報

国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト(農林水産省)

災害備蓄食料の活用(竹谷とし子氏、2021/4/22)

政府の災害備蓄食品をフードバンク等に提供することになった経緯について(竹谷とし子氏、2021/5/2)

「賞味期限切れ」60〜90日後でも安全なら提供 消費者庁、備蓄活用で食品ロス削減と困窮者支援へ(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/7/14)

賞味期限切れ備蓄はすぐ捨てないで!内閣官房はじめ20府省庁が賞味期限切れ含めた災害用備蓄食品の寄付(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/7/10)

「おいしいめやす」農林水産省に続き、消費者庁も賞味期限過ぎた備蓄食を寄付(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/4/8)

「賞味期限切れ」備蓄食料を農水省が寄付 国として初の試み、その意義とは?(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/12/21)

農林水産省初の試み、賞味期限が迫った備蓄食品を捨てずに寄付、食品ロス削減に繋げる(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/12/26)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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