「想像してごらん、食品ロスのない世界を」コロナの時代の食品ロス(米国編vol.4)世界レポ(64)

カナダでのG7サミットで米トランプ大統領に冷たい視線を投げかける独メルケル首相(写真:ロイター/アフロ)

米国のピュー・リサーチ・センターが、2020年6月10日から8月3日にかけて、米国を除く13カ国の13,273人を対象に実施した調査によると、世界各国による新型コロナウイルス感染症対策のうち、米国の対策を評価していると答えた人はわずか15%と最低だった(1)。

コロナ対策の各国評価(出典:Pew Research Center、2020/9/15)
コロナ対策の各国評価(出典:Pew Research Center、2020/9/15)

また、米国の国勢調査によると、2020年7月21日までのある時点で、米国人の約3,000万人が食べるものを十分に持っていなかったと回答している。食料を求めてフードバンクの行列に並んだある女性は、「夫が解雇されて3ヶ月間になります。失業給付金がカットされて苦労しています。教会やフードバンクの配給がなかったら、子どもたちは飢えていたでしょう」と語った。食料援助団体のネットワークである「フィーディング・アメリカ」は、米国で食料不安が悪化すると予測している(2)。

上記の調査から数ヶ月後の11月中旬になっても、約2,600万人が食べるものを十分に持っていないと回答している。食料品を万引きする人も現れた。「ワシントン・ポスト」によると、食料品店での万引きは、パンデミックの発生した春から増加傾向で、万引きされるのは、パン、パスタ、粉ミルクなどの食品だという(3)。粉ミルクというのがせつない。食べるものにさえ困った、追いつめられた人々の姿がそこに見える。

世界一豊かなはずの米国で、21世紀のいま、食料危機が起こっている

ニューヨーク大学のマリオン・ネスレ(Marion Nestle)名誉教授は、米国の公共ラジオ放送NPRのインタビューで次のように語っている(4)。

食料は政治的だ。コロナの感染拡大はその典型的な例。トランプ大統領が国防生産法を発動したことで、食肉加工工場の従業員は突然エッセンシャル・ワーカー(必要不可欠な労働者)と呼ばれるようになり、パンデミックの真っ只中でも働かざるをえなくなった。

ところが、彼らは給料が安く、病気休暇や福利厚生もないことが多い。世界最大の食肉加工業者であるJBSの工場は、米国とブラジルで集団感染の発生源となり、従業員の6万人近くが感染した。世界でもっとも重要な問題は、すべて何らかの形で食料に関係している。コロナのパンデミックは、その完璧な例だと思う。

2021年3月時点でも、カリフォルニア州のある食肉加工工場では、従業員の半分に当たる約800人がコロナの陽性反応を示しているという。通常であれば、コロナ感染者の濃厚接触者は10日間の自主隔離が必要だが、PCR検査で陰性なら隔離期間なしで職場に復帰させていたというのだ(5)。

コロナ下で低所得者向けの食料援助プログラム「SNAP(スナップ)」の需要が高まっている。米国ではコロナ以前の2019年でも、9人に1人がSNAPを利用していた。SNAPの給付金は受給者によって異なるが、2019年度のSNAP給付金は平均で月129ドル(約13,800円)だ。

注)三菱UFJ銀行の2020年の年間平均為替相場(TTM)USD1=JPY106.82で計算(以下、同様)

2020年3月のパンデミックで、連邦政府の緊急対策の一環として「ファミリーズ・ファースト法」が可決され、SNAPの最大給付額が一時的に40%ほど増額されたが、それでもまだ国の食料安全保障のニーズを満たすことができていない(6)。

「ニューヨーク・タイムズ」はさらに辛辣だ(7)。

米国の食料政策の弱点は、コロナ以前から専門家には明らかだった。コロナがそれを世界に暴露してしまった。災害対応、国家安全保障、経済政策、公衆衛生、農業など、米国政府の最高レベルでは、包括的な方法で食料政策を担当している役人は一人もいない。優先順位が間違っているだけではなく、食料は国の政策上の優先事項にすらなっていない。米国では、人が自分の身体を動かすためのエネルギーよりも、車やトラックを動かすエネルギーが優先されている。

米国農務省はコロナ下に160億ドル(約1兆7千億円)の緊急援助を農家に提供したが、余剰になっていた農作物、乳製品、肉類を購入して困窮する人たちに配給するためは30億ドル(約3,200億円)しか使わなかった。コロナ以前に1,200万人以上を雇用していた外食産業はロックダウンで閉鎖されたが救済措置はなかった。

注)米国農務省HPには、2020年には余剰農産物の購入と配送にかけた費用は約40億ドルとある(8)。

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食品ロス対策や省資源化について、日本の報道は「食料が余る前提」の表面的な内容に偏っています。SDGs世界ランキング上位を占める北欧や欧州はどのような取り組みを行っているのか。食品ロス問題を全国的に広め数々の賞を受賞した筆者が、国際組織から入手する情報を含め、日本メディアが報じない「ここでしか知ることのできない食品ロス問題最新動向」を提供します。

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奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。Champions12.3メンバー。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』他。食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/第一回食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。

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