「定価より高くても売れる」経産省RFID実験にみる消費者ニーズの多様性

経済産業省の実証実験。入荷日や採れたて度によって価格が変動する(筆者撮影)

経済産業省は、生鮮食品の産地で電子タグ(RFID)を貼り付け、鮮度を可視化し、鮮度に応じた価格で販売する実証実験を行った。実施主体の日本総合研究所と、協力事業者の一社である凸版印刷に取材をお願いした。

経済産業省は、電子タグ(以下、RFID)を活用した、食品ロス削減に関する実証実験を、ここ数年、毎年実施している。2021年1月から2月にかけては、ネットスーパーで生鮮食品に電子タグを使った実証実験を行った。実証実験の概要は次の通り。

事業名:経済産業省委託事業「令和2年度 流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業(IoT技術を活用したスーパーマーケットにおける食品ロス削減事業)」

実施期間:2021年1月20日〜2月9日

実施主体(委託事業者):株式会社日本総合研究所

協力事業者:伊藤忠インタラクティブ株式会社、株式会社イトーヨーカ堂、凸版印刷株式会社、三井化学株式会社、大手Sler、全国約20産地

対象商品:青果物・肉・魚等の生鮮品、その他日配品、約3000点(RFID付与点数)

実施内容:産地で対象商品にRFIDを貼り、食品情報追跡システム「foodinfo(フードインフォ)」で管理し、食品のトレーサビリティを確保。青果物は「鮮度予測・可視化システム」と連携し、鮮度予測情報を管理。消費者向けECサイト「eatmate store(イートメイトストア)」で商品を、鮮度(採れたて度)に応じた価格で販売(ダイナミックプライシング)。消費者は「eatmate store」を通じて食品を購入し、購入履歴はスマホアプリ「eatmate(イートメイト)」で確認可能。食品ロス削減への効果を検証する。

イトーヨーカドー ネットスーパーの発送場所(筆者撮影)
イトーヨーカドー ネットスーパーの発送場所(筆者撮影)

この実証実験について、実施主体である株式会社日本総合研究所と、協力事業者の一社である凸版印刷株式会社に取材を2回行った(1回目はイトーヨーカドーネットスーパーの発送場所、2回目はオンライン会議)。その内容についてご紹介したい。

需要に合わせて値付けを変える「ダイナミックプライシング」高鮮度のものは定価より高くなる

「ダイナミックプライシング」というのは、需要にあわせて値付けを変えることを指す。年末年始やゴールデンウィーク、お盆の時期に、航空券やホテルの値段が変わるのもダイナミックプライシングの一例だ。食品の場合、まだほとんど実証実験の段階だが、賞味期限や消費期限が接近するごとに価格を下げていくのが一般的だ。ところが、今回の場、鮮度が高いと、むしろ定価より上げているのだという。

日本総合研究所 和田美野(よしの)氏(以下、和田):今回の実証実験の中身を簡単に説明させていただきます。産地から出荷するとき、コンテナまたは段ボールに1枚、RFIDを貼ってもらいます。たとえばトマトだったら段ボールにまとめて10kg入っていたら、産地では、その段ボール箱に1枚貼ってもらい、消費者に届けるために小分けにするところで商品別RFIDを貼るようにしています。

左が日本総合研究所 和田美野(よしの)氏、右が筆者(撮影:長谷拓海氏)
左が日本総合研究所 和田美野(よしの)氏、右が筆者(撮影:長谷拓海氏)

消費者は鮮度と価格を見ながらちょうどいいものをアプリで選ぶ

対象者の消費者が食材を購入するには、まずeatmate(イートメイト)というアプリを起動して、ストアに移動します。野菜や果物の鮮度や入荷日、価格が書いてあります。左上に「採れたて度」というのがあり、これに応じて価格が変動します。

今回、このアプリを作っているのは伊藤忠インタラクティブです。消費者に、面白さや楽しさを感じながら使ってほしい、ということで、食材を購入した後は、採れたて度を「オノマトペ」に変換して表現しています(オノマトペとは、ものの状態や声を擬声語や擬態語であらわすもの)。たとえば、今日の採れたて度は45%でシャキシャキだよ、とか、パリパリ、シャクシャク、シナシナ、といった具合です。

ほうれん草の採れたて度79%(筆者撮影)
ほうれん草の採れたて度79%(筆者撮影)

たとえばこのトマト、28日に入荷したものの方が採れたて度70%と高く、26日に入荷したものの採れたて度が53%になっています。消費者は採れたて度と価格を見ながら、自分に合った「ちょどいい」と思われる食材を購入することができます。

ミニトマト。左上に表示された採れたて度や入荷日によって価格が変動しており、消費者が選択する(筆者撮影)
ミニトマト。左上に表示された採れたて度や入荷日によって価格が変動しており、消費者が選択する(筆者撮影)

今回、賞味期限を野菜にも設定しています。一般的な賞味期限とは異なる点には注意が必要です。これは鮮度情報をもとに、おおよそ0%になる日を定めています。もちろん、輸送環境の違いなどによってずれますので、ひとつの目安として設定しています。

購入した食材については、消費者が、アプリに日々消費や廃棄の記録を入力していただけると、自分がどれだけ食べたのか、どれだけ捨てたのかを、数値と購入金額ベースで見ることができます。

説明してくださる和田美野氏(撮影:長谷拓海氏)
説明してくださる和田美野氏(撮影:長谷拓海氏)

鮮度が高いものを定価より上げて売るのも適正価格

和田:今回は、鮮度が高い商品の場合、定価よりも値段が上がるよう設計しています。値引きだけではなく、値上げもしています。鮮度に応じて、値上げ→定価→値引き、と価格を変化させています。対象者のうち、お一人は、いつでも一番新しいものを買っています。鮮度が高いものを、値段を上げて、ちゃんと売る、それも一種の適正価格と考えています。生産者、流通業者、小売、フードチェーンに関わる多くのプレイヤーが、より早く消費者の手もとに届けるために努力しているので、それを当たり前ではなく、しっかりと価値として提供したいと思っています。もちろん、値下げした後に買われる食材も多いです。ただし、鮮度が高く値段の高いものを買うと鮮度が低く値段の安いものを買うの二極化は起きていません。鮮度の高いものから低いものまで、様々なバリエーションで売れています。

ー安ければいい、というのではなく、消費者のニーズもさまざまということですね。

パックごとにRFIDが貼られたミニトマト(筆者撮影)
パックごとにRFIDが貼られたミニトマト(筆者撮影)

トマトはビタミンCやリコピン量も表示 消費者ニーズの多様化

和田:フードテックと呼ばれるフードチェーンにおけるイノベーションのトレンドとして、食材のデータ化、個人のデータ化、食に関わる行動(購買・購入)のデータ化の進展があげられます。今や、マスマーケティングでは対応できないほど消費者のニーズは多様化しています。消費者が自身に併せて、「ちょどいい」と思える食材を選べる状態を作りたいと思って設計したのが今回のサービスです。価格だけではなく、どこまで使っていただけるかというのはありますが、たとえば、トマトではビタミンCやリコピン含有量といったものも、鮮度変化に併せて変化量を表示しています。

トマトはリコピンやビタミンCの量の変化も示している(筆者撮影)
トマトはリコピンやビタミンCの量の変化も示している(筆者撮影)

鮮度が高い商品の値段を標準価格より上げて売って、2日目には標準価格にして、3日目には5%値引きして・・・というように、1つの商品に複数の価格をつけることが実現しています。通常だと、単純に値段が下がると利幅が減っていくだけですが、このようにダイナミックプライシングを使う場合、価格を(標準より)上げることや、販売期限を見直していくことも可能となるということが、今回、見えてきたことの一つです。

手前が凸版印刷株式会社 押谷光人氏(撮影:大田美月氏)
手前が凸版印刷株式会社 押谷光人氏(撮影:大田美月氏)

食品業界の3分の1ルールは販売期限と納品期限で処分

食品業界には、食品ロスを生み出すさまざまな商慣習がある。その一つが「3分の1ルール 」だ。賞味期限や消費期限ギリギリまで販売せず、賞味期限全体の期間の3分の1手前で棚から撤去してしまう。たとえば6ヶ月の賞味期限のものなら、期限が切れる2ヶ月前に撤去する。おおむね日持ちが5日以内とされるものに表示される消費期限のついた弁当やおにぎり、サンドイッチなども、消費期限の切れる1〜3時間手前で撤去される。2012年10月から、農林水産省や食品業界は緩和に動いているが、今でも厳しいルールを課す小売はいる。以前は、このルールのため、年間1,200億円以上のロスが発生していた(流通経済研究所による)。

食品ロスの一因となる食品業界の3分の1ルール(データに基づきYahoo!ニュース編集部制作)
食品ロスの一因となる食品業界の3分の1ルール(データに基づきYahoo!ニュース編集部制作)

―今は、3分の1ルールがあって、販売期限で処分してしまいますけど、今おっしゃったように、ダイナミックプライシングをすることによって、利幅が保てるから、販売期限をギリギリまで延ばすことができる、というイメージでしょうか?

和田:青果物の場合、販売する際に、品質の均一化が重要です。そのため、今の青果物は、1商品1価格で厳密な販売期限を設けて販売しています。5日前と当日入荷の同じ品目が並んでいると、かなり品質に差が出てしまいます。これを同じ価格で売るということは、消費者は当然許容してくれません。

ダイナミックプライシングで商品に多価(複数の価格)をつけられるんだったら、販売期限を延ばして、新しいものは高い価格、鮮度が低いものは価格を落としてあげれば長く売れるので、その分、青果物として販売できる期間は延ばせる可能性があると思います。加工品についての話ですが、3分の1ルールは見直しが進み、2分の1ルールとなってきていますが、早急に見直したらよいのではと思っています。ただし、その際にはダイナミックプライシングの活用も併せて検討していく方が、消費者にとってはうれしいのではないかと思います。

カゴに並べられた野菜(撮影:長谷拓海氏)
カゴに並べられた野菜(撮影:長谷拓海氏)

和田:国内外で既に取組は進んでいますが、AIを活用して最適価格を算出しながら実装していく形になるのではないでしょうか。品目ごとに異なると思いますので、品目やSKUによって変えることが必要になると思われます。

注:SKU=Stock Keeping Unit:ストック・キーピング・ユニット、受発注や在庫管理の際の最小単位。同じアイテムでもグラム数の違いものは別のSKUになる

和田:今回の実証実験においては、モニターの方が、賞味期限に応じて価格が変動していると、価格が安い=賞味期限が短い、という認識があるので、買ったらすぐに食べるようにしたという声も聞かれました。

―それを知らせる仕組みもあるのですね。

和田:はい、消費期限や賞味期限が近づいているのに、消費されていない食品があると、プッシュ通知(アプリが自動的にお知らせする機能)で「期限が迫っている食品があります」というのが出ます。

ほうれん草の豚しゃぶサラダのレシピ(筆者撮影)
ほうれん草の豚しゃぶサラダのレシピ(筆者撮影)

和田:レシピを3パターン載せています。生食パターンと、加熱パターンと、最後は加工です。イチゴだったら、生で食べて、焼いて食べて、ジャムを作る、そんなイメージです。

いちごも鮮度や入荷日に応じて価格が変動する(筆者撮影)
いちごも鮮度や入荷日に応じて価格が変動する(筆者撮影)

「鮮度が高い=良い」価値観だけでは食品ロス削減は進まない

和田:鮮度が高いものがすべてにおいて秀でているわけではないと思っています。豊作もあれば、雪の影響で青果物の到着が遅れる場合もあるわけです。常に鮮度が高い=良いものという価値だけを提供していては、食品ロスの削減は進まないと考えています。トマトの酸味が好きであれば、多少品質が落ちていても、加熱したり、スープにしたり、収穫からちょっと期間が経ったものもいくらでもおいしく食べられますよ、というところを伝えていきたいです。

―コープこうべさんが一般消費者向けに実験をやっていて。お豆腐の作りたてのものと、もう期限が切れますというものとで、ブラインドテストをやったそうなんです。半分の人は、味の区別がつかない。むしろ、期限が切れますという方ほど味がいいと答えた消費者がいたと、講演でお話しされていました。

消費者は価格差の根拠を示せば納得する

和田:今回のモニターは、低価格であればあるほどいいといった、経済性重視の消費者は意図的に選んでいません。価格や品質など、バランスを見ながら買う方を選んでいます。この方たちは、(値段の)理由がわかれば高価格から低価格まで様々な商品を買ってくださいます。今回の青果物の採れたて度は、彼ら・彼女らにとっては食材を購入する際の1つの選択肢になると思っています。入荷日が早くて鮮度が低い、入荷日が直近で鮮度が高い、だから価格に差があるということは、分かりやすく食材をパッと選べるとおっしゃっていました。

―そうなんですね。

和田:消費者の方は、なぜ値段が下がっているのか、なぜ値段が上がっているのか、という根拠がほしいのだと感じました。

―小売だと、オーケーストアさんがオネストカード、なぜこういう値付けなのか、なぜなのかという説明をPOPにつけたりしますけど、そういうイメージですか。

和田:それと似ていますかね。ちゃんと伝えれば、ちゃんと買ってくれると思います。

奥が和田美野氏、手前右が押谷光人氏(撮影:大田美月氏)
奥が和田美野氏、手前右が押谷光人氏(撮影:大田美月氏)

食品ロス削減は「すごく気持ちがよかった」

―今回のモニターインタビューの中で、印象的な答えや意外なものはありました?

和田:食品ロス削減のサービスであることは特にお伝えせずに参加いただいていたのですが、「食品への意識が変わりました」という声が聞かれました。「もともと廃棄する食材があるのはストレスだったので、このアプリを使うことによって、そういう廃棄がなかったので、すごい気持ちがよかった」とおっしゃっていました。「冷蔵庫の中がいつもスッキリしていて、すごく気持ちよかった」という声も聞かれました。

別の方では、「食品ロスに関する意識が高まり、節約できるし、一石二鳥だ」と、「食品ロス」という言葉を使っている方もおられました。夫婦で食材の情報を共有できたのがよかったとか、アプリができたらアカウントを2つ発行して、冷蔵庫を夫婦共同で管理したい、などおっしゃられていました。共働きでご夫婦ともに料理をされる方だったので、今晩使おうと思っていた食材が既に使われていて、みたいなこともあったようです。

真面目な方は、加工食品の賞味期限に応じて、パントリー(食品庫)を並べ替えているそうなんです。賞味期限の短いのを前に持ってきて、先のものを後ろに置くとか。それでも、「やっぱり(無駄にするのは)野菜なんです」とおっしゃっていました。今回のアプリ上では、賞味期限が短いものから順に並べ替えもできるので、使い忘れをなくすことができて、冷蔵庫の野菜室もすっきりした感があってうれしかった、みたいな言い方はされていました。

―物理的に食品ロスがなくなるというのと同時に、「気持ちよかった」という、精神的なメリットや満足感みたいな言葉もけっこう聞かれたんですか?

和田:そうですね。今回、モニターの方には経済的なメリットはあまりなかったんです。全く捨てないということはないですが、もともとそれほど廃棄も多くなく、捨てちゃった食材の金額が増えた、減ったということは、実証の前後ではありませんでした。ですので、どちらかというと、そういう精神面、快適に生活できていると感じられたところに関してのメリットが大きかったのではではないでしょうか。

RFIDが貼られたいちごや肉、みかん、パンなど(撮影:大田美月氏)
RFIDが貼られたいちごや肉、みかん、パンなど(撮影:大田美月氏)

食品ロス削減では「見える化し、意識を高めること」が重要

和田:今回は、廃棄したものを自分で入力しないといけないので、廃棄登録が面倒だからという理由と、廃棄すること自体がストレスだからという両方の理由で、できるだけ捨てないようにしようという行動が強くなって、結果として食べ物を大事にする意識がすごく強くなったというような方もおられました。見える化するということは、意識を高めることに一役かってくれることがより明確になりました。

買い物の時の意識も変わったみたいです。今までは、賞味期限が1日でも長いものを買おうと思っていたが、安いのがあればそっちを買ってもよいと思った、とか、牛乳も商品棚の奥のものを買っていたが、その日に使うものであれば、価格差がちゃんとあるのであれば、期限が迫っているものでもいいだろう、といった感じです。

店舗で購入する場合、牛乳は特に商品棚の奥から取られやすい(撮影:大田美月氏)
店舗で購入する場合、牛乳は特に商品棚の奥から取られやすい(撮影:大田美月氏)

和田:今までは、スーパーで豆腐を買うときも、賞味期限が長いものをわざわざ選んでいたけど、今回は、賞味期限と連動して価格が変動するので、使いきる自信があったら安い方を選ぶ思考に変わったという声もありました。食材をどう使うか、計画的に想像して買うようになり、廃棄しないように気をつけられるようになった、安く買いたい気持ちもあるので、バランスを考えて買い物をするようになった、と。実験では、長持ちさせたい葉物野菜や果物は鮮度の高いものを選んでいたという意見もありました。

個人的には、賞味期限の長さが違うのなら価格差をつけてほしい、というのが、ごくシンプルな消費者の希望なのかなと思っています。

定価より価格が高くても全製品、鮮度の高いものを選ぶ消費者も

和田:徹底して、品質のいいものを買う方も1名おられたので面白かったですね。リアル店舗で買い物にいくときは、品質だけを気にして、見切り品は絶対に買わないとのことでした。

―その方のプロフィール、差し支えない範囲で、どんな暮らし方をしている方なのか、教えていただけますか?

和田:40代女性で、共働きの方です。焼きそばとかベーコンも、ダイナミックプライシングをしているので、日にちの経過とともに値段は落ちていくんですが、やっぱり、一番新しいものを買っていらっしゃいます。

RFIDが貼られた焼きそばやベーコン、シャケ、ヨーグルトや乳飲料など(撮影:長谷拓海氏)
RFIDが貼られた焼きそばやベーコン、シャケ、ヨーグルトや乳飲料など(撮影:長谷拓海氏)

和田:モニターの方々、新鮮なうちに食べたいとか、捨てたくないという気持ちは強いので、その気持ちがより意識できるようになったようです。冷蔵庫の野菜室では、先に買ったものを前にして、後に買ったものを後ろに入れるみたいな構造にはなっていないので、いつ、どれを買ったのかがよくわからなくて、普通に使っていたら、ふとした瞬間に、少し前に買った野菜が出てきたりして、といったことは消費者の方にとってはストレスだったようです。

食品ロスは測れば減る

徳島県のデータによれば、家で捨てる食品の量を測るという行動をとるだけで、23%も食品ロスが減ったという。今回も、測って記録し、見える化することで減ったという人もいたそうだ。

―もともと廃棄が少ないのは、こういう調査に協力してくださる方は意識が高いからではないでしょうか。わりとちゃんとやっている人。ぐうたらな人は、モニターに参加しようとならないから、バイアス(偏り)がかかっている、というのはないですか?

和田:たぶん、意識はされている方だろうなと思いますが、食品ロスへの関心度は今回のモニターを選ぶ際にはあえて考慮していません。

井出さんが(見える化や計量が食品ロス削減のコツと)おっしゃってた通りで、エクセルに記録するとなったから、廃棄が減りましたとおっしゃっている方がいて。自分がこんなにちゃんと減らせるんだと思ったので、今後は少なくとも冷蔵庫にメモは書いておこうと思ったそうです。

―神戸市でやった実証実験だと、1週目よりも2週目、2週目よりも3週目が減る、という結果が出ているんですよね。だから今回も、モニター1日の中で、変化が・・・

和田:あるかもしれないな、とは思います。今回の実証実験で思ったのは、じゃがいもの皮はものすごく厚く切っているかもしれない人や、ニンジンのへたの部分は絶対切り落とすとか、本人は「(過剰に)捨てている」とは一切思っていないので、そこ(過剰除去)までアプローチできないと、家庭からの食品ロスは、本当の意味で削減させていくのは難しいのかなと思いました。

企業側としては、食品ロスをできるだけ簡便に見える化できるサービスを提供してくことで家庭の食品ロスを減らせると思われます。もちろん自社における食品ロスの削減に取り組むことは必要と思いますが、消費者がより手軽に食品ロスを減らすことができるサービスを提供していくことが必要ではないかと考えています。

課題はRFID一枚あたりのコストと貼る手間

2018年にローソンに取材させていただいた際、RFIDの1枚あたりのコストは8円から15円で、これが1枚1円にならないと採算があわないとおっしゃっていた。その後、2円程度まで下げられるという話を聞いたが、実際のところどうなのだろう。

―経産省の方が、(RFID)1枚1円くらいのコストにならないと、なかなか普及にまで至らないということなんですけど、今の時点で、1枚あたり、いくらぐらいまで・・・?

今回の実証実験で使われたRFID(撮影:大田美月氏)
今回の実証実験で使われたRFID(撮影:大田美月氏)

凸版印刷株式会社 押谷光人氏(以下、押谷):5円くらいです。大手のスーパーが動くくらいの規模感で、仕組みからやらないと、なかなか難しいですね。

和田:RFIDは、入出荷や在庫管理を効率化するので使われていますけど、今回のような鮮度管理では、必ずしもRFIDが必要かというと、そうではありません。QRコードでもやれないことはありません。

押谷:この、QRコードとRFIDとをつなぐ方が、合理的なんです。

りんごに貼られたRFID(撮影:大田美月氏)
りんごに貼られたRFID(撮影:大田美月氏)

―加工食品だと、技術的に自動的に(RFIDを)貼ることができると聞いたんですけど、青果だと、全部、手貼り?

和田:今回は手貼りです。技術的には包装材にRFID自体を印字することも可能ではあるとは思います。将来的にはRFIDだけではなく、フィルムがデバイスとつながることは、見えていない将来ではないのではないかと思います。

今回は機械による自動RFID貼りではなく、手で貼っていった(撮影:長谷拓海氏)
今回は機械による自動RFID貼りではなく、手で貼っていった(撮影:長谷拓海氏)

押谷:QRコードをそれぞれの青果品種に最適なタイミングで発行し、現場で随時RFIDと紐づけ、青果包材にシールもしくはダイレクト印刷で情報搭載していくといった、合理的でかつ負担の少ない仕組み・方法を今後探っていくというイメージです

―前にローソンさんに電子タグの取材をしたとき、加工食品だと自主回収の時、バーコード管理だから、ものすごい量を回収しなければいけないんだけど、電子タグだったら、対象がすごく減る、と。(RFIDの)扱いやすさからいくと、生鮮より、加工食品の方が使い勝手がいいような気がして。

和田:おっしゃる通りだと思います。加工食品は消費期限、賞味期限があるので、それがJAN(JANコード、どの事業者のどの商品かを表す、世界共通の識別番号)と紐づいていたら、いろいろやれることは増えると思います。

押谷:実際に、各企業さんはやっていますよね。社内の実証とか。

ゆでうどんやトマトの袋に貼られたRFID(筆者撮影)
ゆでうどんやトマトの袋に貼られたRFID(筆者撮影)

RFIDのコストは小売・流通・生産で按分?

―1枚5円は誰が負担をするんですか?

和田:小売・流通業者・生産者それぞれがメリットを感じて「導入する」という形を取らない限り、5円はまだ高いです。分配しないと厳しいと思っています。

押谷:5円の分配は想定しがたいと思うんです。1円の分配はすぐ想定できるんです。それで、経産省さんが1円という数字を出してきているので。

和田:それで負担しあえる可能性があるのではないかと思います。3者が入っていれば、単純計算で0.3円の負担となりますので。今回の面白いところは、レタス業者さんが、自分のレタスが、いつ運ばれ、いつ入荷され、いつ食べられたかを見られるんです。

―それはいいですよね。

カゴに入ったレタスやバナナ(筆者撮影)
カゴに入ったレタスやバナナ(筆者撮影)

和田:流通業者さんは、物流の効率化という意味がありますし、小売さんだったらロスになるはずだったものがロスにならない時代がきたら・・・3者それぞれのメリットが見えてきたら分担しようと思えるはずです。

今回は、生産者側のプラットフォームとつながっていないですが、生産者側で、栽培の履歴や農地の状況を取ったりするモニタリングは進んでいるので、そういう情報と流通が連携されていけば、これまではとは全然違った情報を流通や販売の段階で活用することができるようになると思います。

今回はあくまで鮮度を予測し、可視化して、それをもとに鮮度に応じて、食品に含まれるビタミン量など、栄養素の量も相関するので、それも一緒に出しているのですが、「この土地はビタミンCの多いものが採れる」など、そこは将来的にはそのような情報もデータとして管理されていくと思っています。実際に、もうアメリカでは、データ化に向けた動き、土壌の違いをデータ化しようというのも出てきているので、より精度も上がるし、より面白くなっていくと思います。

逆に、消費者側だと、個人のパーソナルデータをデータ化していったとき、「あなたはDNA的にはこれを食べたほうがいいですね」みたいな、楽しい未来が見えるかもしれないと思っています。

イトーヨーカ堂さんも食品ロスにすごく関心が高い企業さんで、今回、われわれからご提案させていただいて、「そういう取り組みだったら協力しましょう」ということで、思い描いていたものを形にするのを手伝っていただいています。

取材後記

「食品ロス削減=安売り」のようなメディアの取り上げ方も多い。定価で売ることができないのは余るほど作り、売っているからであり、安売りだけが唯一のロス削減ではないし、本質的な問題解決ではないと、ともどかしい思いを抱えていた。そんな中、鮮度が落ちたものを安く売るだけでなく、むしろ鮮度が高いものを定価より高く売るという試みには目が開かされた。しかも、毎回、定価より高いものを選ぶ消費者もいるということも、値段の安さだけが消費者の選択基準ではないということに確信を持てた。

2018年から取材している電子タグ(RFID)は、フードサプライチェーンに導入するためのハードルが徐々に下がってきているように見える一方、コストや貼るためのマンパワーに課題が残されていることもわかった。引き続き、電子タグの活用による食品ロス削減の問題を追っていきたい。

謝辞

今回、取材を受けてくださった和田さん、押谷さんはじめ、取材を受け入れてくださった株式会社セブン&アイHLDGS.と株式会社イトーヨーカ堂のみなさまに感謝申し上げます。なお、取材には、下記、大学生インターンの同行もご快諾いただきました。

上智大学総合グローバル学部3年 大田美月(みづき)さん 

一橋大学経済学部3年 長谷拓海さん

参考情報

経済産業省 コンビニ電子タグ1000億枚宣言は実現可能か プロジェクトトップランナーのローソンに聞く(2018年6月5日、井出留美)

「コンビニ全製品に電子タグ」の実証実験 食品ロスも削減(2018年4月18日 、井出留美)

スーパー・コンビニの食品ロス削減の秘策!値引シールもシール貼りも不要「ダイナミックプライシング」とは(2018年10月24日、井出留美)

食品ロス削減できるダイナミックプライシング(期限接近で自動値引)実証実験中ツルハドラッグへ行ってみた(2019年2月22日、井出留美)

「手ぶらで買い物可能」生体認証と電子タグ(RFID)による無人販売の実証実験、東京大手町へ行ってみた(2019年3月14日、井出留美)

コンビニで「期限迫るおにぎり」最大50%値引き 食品ロス対策への効果と課題(2020年12月23日、井出留美)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。Champions12.3メンバー。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』他。食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/第一回食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。

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