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テレビの企画は毎回余る前提でうんざり 食品ロス削減の本質が抜け落ちた議論に16歳が放った一言とは?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

SDGs(持続可能な開発目標)の12番で削減の数値目標が立てられている食品ロス問題が注目されてきた。

一方、マスメディア、特にテレビ局が取り上げるのは、売れ残りを家畜のエサや堆肥にリサイクルする映像や、賞味期限接近食品の90%以上割引などの激安売り、アプリでのお得販売、無償配布などがほとんどだ。「安い!」「企業も消費者もお得でwin-win♪」「いいね!」の繰り返し。うんざりする。何回同じ企画を繰り返せば気が済むのか。

それらの対策が悪いと言っているのではない。日々着実にロスを減らしているのは事実だ。視聴者の興味や関心を惹きつけやすい、シンボリック(象徴的)な活動でもある。だが、それらだけでは到底使いきれないほど発生している食品ロス、東京都民1,400万人が一年間食べていけるだけの量(年間612万トン)発生している食品ロスそのものを減らすことが最優先ではないだろうか。リサイクルやリユースだけで「いいね」してないで、本質であるリデュース(Reduce:廃棄物の発生抑制)も並行して報じ、視聴者に問いかけることが必要ではないか?ということだ。

コロナ禍で雇い止めが80,000人以上も発生する中、日本の雇用者の平均年収411万円(国税庁発表、平成30年度)を上回る、年間468万円分もの食料を、たった1店舗のコンビニが廃棄しているのはおかしくないですか?ということだ(2020年9月、公正取引委員会調査、1店舗あたりの年間平均廃棄額)。

消費期限ではなく、その手前の販売期限で廃棄されるコンビニの食品(コンビニオーナー撮影)
消費期限ではなく、その手前の販売期限で廃棄されるコンビニの食品(コンビニオーナー撮影)

同じコンビニでも、北海道を拠点とするセイコーマートは柔軟な対応でロスを減らしている。セイコーマートの会長、丸谷智保氏は、日本経済新聞の取材で、食品ロス削減の取り組みについて問われ、「減らすのが本質」だと答えている。

「店にならんだ商品の消費期限を延長するとか、そういう取り組みは他のコンビニでもやっているし、セコマでもやっている。サプライチェーンでのフードロス削減は、製造会社としてできる、より本質的な問題解決の方法だ。『エコロジー共同体』として知恵を共有していきたい」(2021年1月20日13:49付、日本経済新聞「丸谷智保会長に聞く 食品ロス削減こそ本質」

リサイクルやリユース(再利用)の事例をテレビで紹介をするのと並行していただけるのはいいが、元を断つこと・減らすことが最もコスト削減・資源節約で、世界の最優先事項であるという本質的な話がすっぽりと抜け落ち、一切報じられない。

立命館アジア太平洋大学学長、出口治明さんの「出口塾」に通ったとき、出口さんに質問した答えの多くは「それはメディアの不勉強」だった。確かに「勉強不足で」という言い訳で、ほとんどのことが済まされる。

食品ロス関連の取材は2008年から受けているが、ほぼ毎回「ロスが出る」「余る」前提の企画がほとんどだ。余らせる以前に、元から断つのが最もコスト削減で環境への負荷も減らせる。13年間、毎回、似たような企画を持ってこられるので辟易している。そこには食品ロス削減において最も優先すべき項目が抜け落ちている。それが、3R(スリーアール)のReduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)だ。

今の食品業界をたとえると、水道の蛇口を開きっぱなしの状態だ。その蛇口を締めるのが先なのに、出しっぱなしの状態のまま、メディアは「水が余っているから破格の値段で安く売りましょう、そうすれば消費者もお得で喜びます」「花壇の水まきに使いましょう」「犬にあげましょう」「家畜のえさにしましょう」みんなお得ですね!win-winですね!いいね!・・・2008年からこれの繰り返し。

1980年代から食品ロスの研究を続けてこられた、京都大学名誉教授の高月紘(ひろし)先生は、「高い月」すなわち「ハイムーン先生」の愛称で、環境系の漫画を描いておられる。そこで、前述のような、リサイクル礼賛を揶揄したのが下の漫画「元栓を閉めた方が早道じゃないのか?」だ。

水道の蛇口を開いて出しっぱなしの水。あふれ出る水を必死でリサイクルしているが、「元栓を閉めた方が早道じゃないのか?」と疑問を呈している人がいる。リデュースの大切さを訴えている(ハイムーン工房のホームページより)
水道の蛇口を開いて出しっぱなしの水。あふれ出る水を必死でリサイクルしているが、「元栓を閉めた方が早道じゃないのか?」と疑問を呈している人がいる。リデュースの大切さを訴えている(ハイムーン工房のホームページより)

環境のキーワード「3R(スリーアール)」の最優先はリデュースだ。環境先進都市の京都市は、3番目のリサイクルは抜かした「2R(にあーる)」を推進している。イタリアへ取材した際も同様で、下の図のうち、上2つが優先されていることがピエモンテ州の行政の書類に明記されていた。

環境配慮の原則である「3R(スリーアール)」。最優先は「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」(情報に基づき、筆者が作成)
環境配慮の原則である「3R(スリーアール)」。最優先は「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」(情報に基づき、筆者が作成)

もう何年も、何回も、同じことをメディアの方にお願いしているが、やはり視聴者のお得情報やわかりやすさに傾いてしまう。それも大事だが、繰り返すように、本質「も」きちんと伝えてほしいということだ。

そんな折、NHK Eテレ 高校講座「第29回 食生活 持続可能な食生活をめざして ~これからの食生活をどうする?~」の中で、レギュラー出演者で16歳の高沢英(たかさわ・はな)さんが、ズバッと本質を突いてくれていた。リサイクルなど、いろんな食品ロス活用事例が紹介される中、「でも、やっぱり、食品ロスを出さないことが一番大事なんですよね!?」と言ってくれたのだ。

NHK高校講座「第29回 食生活 持続可能な食生活をめざして ~これからの食生活をどうする?~」より高沢英さん(筆者が撮影)
NHK高校講座「第29回 食生活 持続可能な食生活をめざして ~これからの食生活をどうする?~」より高沢英さん(筆者が撮影)

この言葉が、台本にあったのか、高沢英さん本人が考えて発言したのかはわからない。いずれにせよ、この言葉に食品ロス削減の本質が詰まっているのは間違いない。もう、この番組、何度でもローテーションして放映して欲しい。お茶を濁すような企画ばかり繰り返している関係者に耳を傾けていただきたい。見かけだけの「減らしてます」アピールに熱心で、SDGsバッジをつけながら、本気で減らそうとしない企業関係者にも。

高沢英さんの発言

「食品ロスを有効活用するための工夫がたくさんあることはわかるけど、でもやっぱり食品ロスを出さないことが一番大事なんですよね!?」

参考:

NHK高校講座「第29回 食生活 持続可能な食生活をめざして ~これからの食生活をどうする?~」

動画 NHK高校講座「第29回 食生活 持続可能な食生活をめざして ~これからの食生活をどうする?~」(持続可能な食生活とは?その2 (4分14秒)の中の、3分42秒から3分51秒くらいにかけて)

「北海道の誇り」「コンビニ顧客満足度5年連続1位」セイコーマートがあの日握ってくれた塩むすび(井出留美、2020.10.9)

年468万円分食品を捨てるコンビニ 公取に改善要請を受けた本部はパフォーマンスでない食品ロス削減を(井出留美、2020.9.3)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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