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コンビニで「期限迫るおにぎり」最大50%値引き 食品ロス対策への効果と課題

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
経済産業省の実証実験を行っているポプラ鬼子母神店(筆者撮影)

経済産業省は、2020年11月2日から、ファミリーマートやポプラなど、コンビニの一部の店舗で電子タグ(RFID:radio frequency identifier)を使って食品ロスを減らす実証実験を始めている。消費期限が近くなったおにぎりやサンドイッチを対象に、シールなどを貼る作業なく値引き(ダイナミックプライシング)販売し、店頭での作業の効率化をはかり、食品の廃棄を減らす目的だ。

電子タグは、その中にあるデータを、電波を用いて読み取ることができる。現在使われているバーコードのように接触する必要がなく、非接触でデータを読み取ることが可能だ。また、バーコードのように、一つ一つをスキャンして読み取る必要はなく、複数個を一括して読み取ることが可能だ。

実証実験イメージ図(経済産業省公式サイトより)
実証実験イメージ図(経済産業省公式サイトより)

電子タグが食品ロス削減にはたす役割には、たとえば次のようなものがある。

在庫状況の把握にタイムラグがなく、フードサプライチェーンの在庫や欠品状況など、食品の動きが瞬時にタイムリーに遠隔地からも把握できる。

需要に応じた価格調整(ダイナミックプライシング)が自動で可能となる。

万が一の自主回収の際、数十万〜数百万単位で同じロットNo.の製品を回収している現状の数を、ピンポイントで把握し、圧倒的に減らすことができる。

今回、12月に実証実験を実施している、東京都豊島区のポプラ鬼子母神(きしぼじん)店へ取材に伺った。

ポプラ鬼子母神店(筆者撮影)
ポプラ鬼子母神店(筆者撮影)

ポプラでは、以前より、おにぎりなど消費期限の短い食品の期限接近商品を「No Food Loss」というアプリで値引き販売し、食品ロスを減らす取り組みを続けている。このアプリの開発者である、みなとく株式会社の代表取締役社長、沖杉大地さんと、営業担当の小村(こむら)眞央さんに取材対応していただいた。筆者は、インターンをお願いしている、法政大学人間環境学部3年の樋口彩加(さやか)さんと同行した。

おにぎりの棚の電子タグ読み取り機から電波を飛ばす

沖杉大地さん(以下、沖杉):今回の実証実験はファミリーマートさんとポプラさんで行っています。二者の違いは、使うアプリはもちろん、対象商品を置く場所です(筆者注:ファミリーマートで使うアプリはecobuyTM)。ファミリーマートさんは、値引きというよりポイント付与だったので、定番棚で実施しました。ポプラさんは値引きなので、定番棚から特設棚へ移しています。

アプリ「No Food Loss」で値引き販売する特設棚(筆者撮影)
アプリ「No Food Loss」で値引き販売する特設棚(筆者撮影)

沖杉:ここに電子タグが貼ってあります。

サンドイッチに貼られた電子タグ。シールの裏を見せてもらった(筆者撮影)
サンドイッチに貼られた電子タグ。シールの裏を見せてもらった(筆者撮影)

沖杉:おにぎりとサンドイッチの棚の下に、このRFID(電子タグ)を読み取るリーダーが入っています。ここから電波を飛ばしています。

おにぎりとサンドイッチが置かれた棚の下にリーダーが入っており、そこで電子タグを読み取り、電波を飛ばしている(筆者撮影)
おにぎりとサンドイッチが置かれた棚の下にリーダーが入っており、そこで電子タグを読み取り、電波を飛ばしている(筆者撮影)

沖杉:この電子タグは、商品が納品されたときにスタッフさんに貼っていただくようになっています。この電子タグの中に消費期限のデータが入っていて、これを棚に置いた瞬間に、この商品がいつまで消費期限があるというのがデータで(レジに)飛んでくるようになっています。

サンドイッチに貼られた電子タグ。電子レンジにはかけられない(筆者撮影)
サンドイッチに貼られた電子タグ。電子レンジにはかけられない(筆者撮影)

消費期限の切れる5時間前に20%引、2時間前に50%引、電子タグのコストも下がってきている

ーどのくらいの値引率なんですか?

沖杉:消費期限の(切れる)5時間前に20%の値引きをスタートします。消費期限の2時間前に50%の値引き。消費期限ぎりぎりまで売ろうということになっています。

実際に買ってみた

実際に、No Food Lossのアプリを使って買ってみた。アプリにログインし、今いる場所のそばで、何が割引になっているかを検索する。ポプラ鬼子母神店では「海賊むすび」というおにぎりが20%割引になっていた(240円から192円へ値引き)。そこでそれを申し込む。

その画面を店員に見せる。取材の前に申し込んでおいた時点では20%引きだったが、すでに消費期限が切れる時間が2時間以内に迫っていたので割引率は50%になっていた。

No Food Lossのアプリ(撮影:樋口彩加さん)
No Food Lossのアプリ(撮影:樋口彩加さん)

こちらを店員の方に見せて、交通系ICで精算した。

画面を見せる筆者(左)とそれを確認する店員さん(右)(撮影:樋口彩加さん)
画面を見せる筆者(左)とそれを確認する店員さん(右)(撮影:樋口彩加さん)

商品を店員さんに差し出してから、おそらく1分ちょっとで精算が済んだので、操作は簡単だった。

沖杉:No Food Lossというアプリはすごくシンプルに作っています。決済を入れていなくて、レジで見せてQRコードを取れば使えるような形にしています。

小村:クレジットではなくて、登録しなくてもいいんです。

沖杉:このアプリで食品ロスのことを多くの人に知ってもらい、よければ買ってもらって、その金額の一部を海外の子どもたちの給食費にすれば、世界のバランスがとれるかなと考えてやっているんです。

コストは以前より下がった 使い捨てタグを使用

ー以前、ローソンさんで電子タグの取材をしたときに、コストが一枚8円から15円かかるとおっしゃっていて。当時(2018年)は2円ぐらいまで下げられる可能性が出てきていて、でも採算を取るには一枚1円まで下げないとということで。

沖杉:今はもう少し下がっていると思います。今、中国製(の電子タグ)もかなり増えてきて、数円でいけるような感じになってきています。

写真の奥が期限接近商品の特設棚(撮影:樋口彩加さん)
写真の奥が期限接近商品の特設棚(撮影:樋口彩加さん)

ー食品ロスの講演で電子タグの話をすると、リユース(再利用)できるのか、それとも使い捨てなのかと聞かれるんですけど、たぶん種類によって違いますよね。おそらく、これは使い捨て?

沖杉:そうですね。基本的には使い捨てです。食品に貼るのであれば使い捨てのほうがいいのかなと。

ー電子レンジにはかけられないですよね。

沖杉:はい。販売するときに、スタッフさんに剥がしていただくようなオペレーションにしています。

ーお客さんの手元にはいかないのですね。

沖杉:はい、いかないようにしています。

ーあと、(電子タグは)水に弱いとか。

沖杉:そうですね。水や塩分に弱いです。ただ、電子タグと、読み取るこの(リーダーの)組み合わせ、種類によって、水に強い、高さや幅に強いなど、いろんな組み合わせができます。

住宅街で初の電子タグ実験

ーポプラさんって結構、店舗が多いと思うんですけど、なぜこの鬼子母神店が選ばれたのですか?

沖杉:(12月の対象店舗として)秋葉原と鬼子母神でやっています。秋葉原は都市型で、どちらかというとサラリーマンが使うんですけど、こっちは住宅街でして、今まで住宅街での実験はあまりなかったかと。なので、比較する意味でもここを選びました。

ーちょっと歩いてみると、ファミマさんやセブンさんも徒歩圏内にありますね。

沖杉:そうですね。ここも24時間やっていますし、ご高齢の方々も使われているので、ラインナップもそういうふうになっているかという感じです。サンドイッチが少なくて、おにぎりと菓子パンが多いです。

高齢者向けに献花が取り揃えられている(筆者撮影)
高齢者向けに献花が取り揃えられている(筆者撮影)

ーお客さんの反応はどうですか?

沖杉:鬼子母神ではまだあまり使われていないのですが、秋葉原では一日200個ぐらい、おにぎりとサンドイッチだけで食品ロスが出るんですね。そのうち、20%ぐらい(40個ぐらい)がこのアプリで使われ始めてきたところです。秋葉原の方は、夜10時ぐらいになると、これ(特設棚)に入りきらないぐらい、おにぎりとサンドイッチが出るんです。

ーすごいですね。店員さんの声は?定番棚からこちらの特設棚に移してくる手間はどうなんでしょう?

沖杉:もともと(食品を)廃棄するときに、棚からピックアップして(下げて)バックヤード(裏の倉庫)に持ってくる動線は変わらないので、そんなに負担になっていないです。納品時にあのシール(電子タグ)を貼るのと、シールもバックヤードで印刷しているので、それが慣れるまで大変。

あとポプラさんって、いろんな会社からおにぎりを仕入れているので、1日に消費期限だけで6回あるんですね。棚から下げるタイミングも6回あって。

ーじゃあ、通常業務に加えて、この実証実験が入ったんですね。

沖杉:はい。ただ、今まで出ていた食品ロスが、値引きすることで売れるのであれば、それがプラスマイナスゼロ、むしろ+になっていくと、ポプラさんも期待している感じです。

ーコンビニのアルバイトの方に取材したことがあって、大学院生とかベトナムからの留学生とかいらっしゃったんですけど、ここのお店で働いている方の特徴は?

沖杉:結構、年配の方が多いです。若い方は一人くらい。シールを貼られている方も60代か70代ぐらい。

ーじゃあ、定年されてからという感じですね。

沖杉:そうですね。

SDGsのポスターが街のお店に貼られていた(筆者撮影)
SDGsのポスターが街のお店に貼られていた(筆者撮影)

アプリ「No Food Loss」でポプラの食品ロスが10〜15万から3万削減

ーポプラさんやセイコーマートさんは、臨機応変で柔軟に対応されていますね。

沖杉:ポプラさんは、今、全部で120店舗ぐらいに導入いただいています。もともと食品ロスが1店舗あたり10万から15万でていたと思うんですけど、それが3万円とか解決できるようになってきました。100%は解決できていないんですけど、今まで捨てていたものが3万円でも利益になればいいですし。

今後の課題

電子タグに今後の課題はあるのだろうか。

沖杉:RFIDに関しては、ほとんどミスや読み間違いや消費期限間違いというのは、99.9%なくて動いています。

ーすごいですね。

沖杉:あとは、いかにお客さまにわかりやすく伝えるか、スタッフの方に伝えるか、というところです。

ーここ(特設棚)で売れ残っちゃったら店員さんが買う…というのはない?

沖杉:基本的にはしていないと思います。この店だとご高齢の方が多いので、スマホを持っていない方もいらっしゃるみたいで。そこは次の課題で、誰でも使える仕組みを考えないといけないと思います。

ーローソンさんがおっしゃっていた電子タグの課題が2つあって、1つはさっきのコストの問題。もう1つは誰が貼るのかという問題。コストは解決しつつあるということで、もう一つの貼ることに関しては、自動でラインで貼れるような仕組みはある、と。

沖杉:そうですね。まだクリアしないといけない課題はあって、貼った後に不純物が入っていないかの検査を通すとき、そこで電子タグが引っかかったりするみたいです。じゃあ、そのあとで貼ると、ラインが・・・などいろいろあるみたいで。そこは今後の課題です。

以上

経済産業省は2017年4月に「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を発表した。食品ロスの削減や効率化による人手不足解消を目指し、2025年までに、セブン-イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズの大手コンビニ5社で、すべての商品に電子タグをつけることを目指している。今後の動きに期待したい。

謝辞

みなとく株式会社の沖杉大地さん、小村眞央さん、株式会社ポプラの皆さま、法政大学の樋口彩加さんに感謝申し上げます。

参考情報

経済産業省 コンビニ電子タグ1000億枚宣言は実現可能か プロジェクトトップランナーのローソンに聞く

スーパー・コンビニの食品ロス削減の秘策!値引シールもシール貼りも不要「ダイナミックプライシング」とは

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RFIDとは(DENSO)

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令和2年度 流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業

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実証実験概要  令和2年10月 経済産業省 消費・流通政策課

鬼子母神堂(筆者撮影)
鬼子母神堂(筆者撮影)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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