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100円購入でたったの5円ポイント、しかもカード会員だけって「倫理的」?コンビニオーナー3名が語る

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

最大手のコンビニエンスストアは、廃棄食品削減の取り組みとして、自社ポイントカードを持つ客のみの特典として、おにぎりや弁当、サンドウィッチなど、販売期限の接近した商品を購入した場合に5%のポイント付与する「エシカルプロジェクト」を5月から全国に拡大、と発表した(2020年3月20日付読売新聞東京版朝刊10面、3月23日付日刊工業新聞36面、4月22日付日本食糧新聞など)。

「倫理的な」?プロジェクト

プロジェクトの名前になっている「エシカル(ethical)」とは「倫理的な」という意味だ。英語圏では、社会や環境に配慮していることを指しても表現されるようになってきている。

消費期限が近づいた商品には、従業員が対象を示すシールを貼る。(中略)英語で「倫理的な」という意味を持つ「エシカルプロジェクト」と名付けた。

出典:2020年3月20日付 読売新聞東京版朝刊10面

スーパーやデパ地下では20%引や30%引、半額は当たり前

たとえばスーパーマーケットやデパ地下(百貨店の地下食料品売り場)では、期限が接近した商品は、値引き(見切り)販売していることが多い。買いに来た顧客全員が、この恩恵を受けることができる。

あるスーパーの経営陣は「廃棄は悪。売変(売価変更)してでも売り切ること」と言い切る。

今回の「エシカル」プロジェクトは、自社のポイントカードを持っている人にしか恩恵がない。あるオーナーは「全顧客のうち、ポイントカードを持っているのは2割」と語る。しかも100円買ったら5円のポイント。たとえば100円のおにぎりが5円引きというイメージ。ポイントカードを持たない客には何のメリットがない。これを「倫理的」と呼べるのだろうか。顧客全員に恩恵がないから値引きよりメリットが薄い。

オーナーたちは、どのような思いでこの「エシカル」プロジェクトに取り組んでいるのだろうか。全国のオーナーPさん・Qさん・Rさんの3名に、ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)の上で話を伺った。3名の店舗の地域は東日本と西日本にまたがり、それぞれ別々の都道府県である。

オーナーPさん「エシカルプロジェクトで減った平均廃棄金額は5%」

まずはオーナーPさん。

今回、「エシカルプロジェクト」なるものを全国に拡大する前に、2019年秋以降、北海道や四国で実験を行っている。2020年3月20日付の読売新聞によれば、「店舗の利益が増える効果も確認できた」とのこと。

売れ残った商品をそのまま捨てる食品ロスを減らすために、利用客にポイントをプラスする実質値引きを検討し、昨秋以降、北海道や四国地方などで実験を行ってきた。値引きして売り切れば、店舗の利益が増える効果も確認できたという。

出典:読売新聞 2020年3月20日付 東京版朝刊10面

しかし、Pさんによれば、実験を行った北海道の店舗平均廃棄額は27,000円/日。そのうちの1,606円が廃棄されただけとのこと。つまり、廃棄金額全体のうち、5%が減っただけに過ぎない。Pさんの店舗でも「エシカルプロジェクト実施前後で廃棄金額は変わらない」とPさんは語る。

Pさんが入手した資料には「エシカルPJ(プロジェクト)成功の大前提は自社カード」の文字が載る。買い物の際、自社のポイントカードを利用した率が高い方が、「エシカル成立数が高い」とのこと。「エシカル成立」って…何が成立したんだろう。

オーナーQさん「エシカルプロジェクトより見切り販売した方が客も店も得」

次にオーナーQさん。Qさんは、「見切り販売の方が、客も店もお互いに得」と語る。

エシカルポイントより見切り販売を推奨した方がお客様に得です。食品ロスも減るし、加盟店は利益が増えます。これこそが本来の商売だと思います。

出典:加盟店オーナー談

すでに「エシカルプロジェクト」の実験を先行してやっているオーナーさんからは、「(対象品に)シールを貼ることで期限が迫っているとわかってしまい、どうせ同じものを買うなら新しいものを買おうという目印になっている」と聞いているそうだ。確かに、スーパーやデパ地下の値引きは20%引き、30%引きや、時には半額が当たり前。「100円で5円ポイント」と言われても、さほどお得感は感じられない。

Qさんは「本気で食品ロスを減らすには見切り販売しかない。見切りは本部の利益が減るので、本部が加盟店にやって欲しくないのはわかるが、加盟店の利益を考えたら見切り販売を指導すべきだ」と語る。

店舗指導者が配ったという資料をQさんから見せてもらった。

「エシカルPJ(プロジェクト)」の考え方は「食品ロスの削減」。販売期限が切れる5時間前(チルド弁当やブリトー、惣菜、スイーツは9時間前)に、税抜き価格でカードポイント5%を付与する。対象は、自社PB(プライベートブランド)のデイリー品(消費期限表示、日持ちの短い食品)で、おにぎりなどの米飯、調理パン、麺類、デリカテッセン、スイーツ、パン・ペストリーなど。

資料には、ある加盟店での実験結果の数値を元に「エシカル効果が弱い」「エシカル効果が高い」などの表現が並んでいる。

オーナーRさん「エシカルで売ればいいから発注増やせと指導される」

そしてオーナーRさん。本部からは「エシカルで売ればいいから発注を増やしましょう」という指導がされている、と語る。

Rさんは、「3R(スリーアール)のうち、最優先はリデュース(廃棄物の発生抑制)なのに、その考え方がない」と語る。

確かに、この企業は、新型コロナ感染症(COVID-19)対策として、自社のPB(プライベートブランド)缶詰43万個を寄贈している。その行為は3Rのうちの「リユース」(再利用)としてよい行動に位置づけられる。だが、環境配慮の原則の3Rで最も優先されるのは、Rさんの指摘する通り「リデュース」だ。ごみや食品ロスを出さないことが、リユースよりリサイクルよりも優先される。なぜならそれがコストを抑制し、環境負荷を減らし、資源を守ることにつながるからだ。世界の原則も食品リサイクル法も3Rにのっとっている。

表面的に良いと見える寄付行為だけを称賛し、食品ロスの多さを追及しない人やメディアがいるが、3Rの本当の意味を理解していないといえる。

Rさんは、「外向けに、食品ロス削減を見せかけて、とりあえずロス削減を全国に展開したと言っているだけ。経営陣はSDGsのバッジを外すべきだ」と言い、「見切り販売に勝るものはない」と話した。オーナーRさんは、ほとんど廃棄を出しておらず、売り切りを心がけている。

筆者が税理士に依頼して11店舗のコンビニの損益計算書を分析したところ、見切りすることで加盟店には年間400万円以上の利益が増える。一方、本部は見切り販売により実入りが減る。

「見切り販売はしたほうが儲かる」 コンビニ11店の損益計算書を分析

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)のバッジ(筆者撮影)
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)のバッジ(筆者撮影)

真の「エシカル消費」とは

ここで再度「エシカル」の意味を問いたい。

「エシカル消費」は2011年に発生した東日本大震災以降、注目を浴びてきた。「人と社会、地球環境のことを考慮して作られたものを購入または消費すること」である。

一般社団法人エシカル協会は、公式サイトで

「エシカル」とは、根底には一般的な定義が流れているものの、特に「人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動」のことを指します。例えば、「地域の活性化や雇用なども含む、人や地球環境、社会に配慮した消費やサービス」のことを「エシカル消費」と言います。

出典:一般社団法人エシカル協会

と語っている。

「サステナブル・ジャーニー」の公式サイトには、エシカル消費の意味の一つとして「自然環境を損なわない」と書かれている。

株式会社大和総研の河口真理子氏が廃棄物資源循環学会誌に投稿した2つの「市場」が動かすエシカル消費とはには、

世界の消費市場は温室効果ガスの 6割を排出し,水資源の 8 割を消費し,児童労働・強制労働の75 % が消費財のサプライチェーンで起きていると される。また,家庭からの生活ごみは毎年 22 億 ton が 排出され,水質汚濁の2 割が繊維の染色による汚染であり,熱帯林破壊の3 分の2 は農地転用のためである。 消費者は企業のサプライチェーンを通じて資源収奪,環境破壊,人権侵害に加担しているのである。こうしたサプライチェーンで起きている問題が明るみに出るにつれ, 加担したくないという消費者の声が高まり企業行動に変革を促している。

出典:河口真理子著『2つの「市場」が動かすエシカル消費とは』(廃棄物資源循環学会誌)

とある。企業活動により、地球環境の悪化や、社会的・倫理的に許されない児童労働や強制労働につながっているなら、そのような企業の製品やサービスを購入したくない、という消費者が選ぶ姿勢が「エシカル消費」なのである。

「エシカル」とは、自社の利益だけを考える姿勢では決してなく、他者を慮ること、目先のことだけでなく地球規模で環境や社会のことに思いを馳せる姿勢を指すことがわかる。

コンビニ1店舗あたりの食品ロス平均量は、年間4.1トン、530万円分に相当する(ドキュメンタリー映画『コンビニの秘密』2017年より)。これだけ大量に食品を廃棄し、環境に負荷をかける企業が実施する「100円で5円ポイント付与」が、はたして「エシカル」(倫理的)な取り組みと言えるのだろうか。

消費期限の手前に設定された販売期限が切れて廃棄される食品(コンビニオーナー提供)
消費期限の手前に設定された販売期限が切れて廃棄される食品(コンビニオーナー提供)

元コンビニ社員は「およそ倫理観とか正義感とか(ない)」

以前、最大手コンビニエンスストア本部に勤めていた社員の方が、ドキュメンタリー映画『コンビニの秘密』に出演されている。その中で、「およそ倫理観だとか正義感だとか(本部にない)。こんなことでいいんだろうか、と思う人間は(本部を)辞めてしまう。私も会社を追われる立場となった」と語っている。

このコンビニは、以前より、公式サイトで「エコ物流」を謳っている。1994年から継続しており、「地域ごとに推奨した廃棄物処理業者が、その地域の店舗から排出される廃棄物を一括して収集し、適正処理とリサイクルを効率的に行うもの」と書かれている。廃棄物を適切に処理し、リサイクルすることは、わざわざ「エコ」と謳わずとも、どの企業も廃棄物処理法に基づき当たり前に行っていることだ。もっともらしいイメージの「エコ」などとつけてアピールしたりしない。

このコンビニ本部を取材した際には「適正な廃棄物処理業者を加盟店に紹介すること」だと話していた。しかし、全国の加盟店オーナー10数名に「エコ物流」について知っているかを聞いたところ、全員が「エコ物流?何それ?」と、把握していなかった。

「エコ」や「エシカル」など、イメージのいい言葉を使っているものの、本来の言葉とはかけ離れた現状になっているなら、その言葉に失礼だし、本当の意味を理解している外国籍の方に笑われると思う。

「ethical(エシカル)」を米国のYahoo!で検索すると、一緒に出てくるのは、definition(定義)やprinciples(原理)、theories(理論)といった語句だ。もっと本質的な事柄に使われる。

米国のYahoo!の検索窓にethical(倫理的)を入力した結果(筆者撮影)
米国のYahoo!の検索窓にethical(倫理的)を入力した結果(筆者撮影)

いち民間企業の「100円に5円のポイント付与」キャンペーンに「倫理的な」などという言葉は、一般的には使わない。独占的なことではなく、広く社会や地球環境のためになることに使われることが多い。

小池百合子都知事は、2018年に開催された食品ロスのイベントで「人間の愛や道徳を含めてエシカル」と語っている。

「エシカル消費」という考え方がある(筆者注釈:エシカルとは倫理的な、という意味)。人間の愛や道徳と言うのをひっくるめて「エシカル」な消費、買い物の仕方というのを、東京都では、消費生活の柱に据えている。

出典:東京都が食品ロスもったいないフェスタ、小池都知事とFAO事務所長登壇、NTTドコモやフードバンク出展

2020年5月6日から20日までの期間限定でドキュメンタリー映画『コンビニの秘密』視聴可能

前述の社員の方が登場するドキュメンタリー映画『コンビニの秘密』(39分)は、5月6日から5月20日まで、無料で視聴することができる。日頃コンビニを利用する人はぜひ観て欲しい。

簡単で便利な生活を享受する裏側で、誰かの命や健康が犠牲になっている。コンビニで売れ残って捨てられる食品の処分費用は、コンビニがそれを払うだけではない。私たちも税金で間接的に払っているのだ。

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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