「てまえどり」すぐ食べるなら手前からとってね!食品ロスを減らすコープこうべと行政の連携

コープこうべが展開した値引き商品を手前からとることを促す告知(コープこうべ提供)

コープこうべは、食品ロス削減のための購買行動を啓発するため、すぐ食べるものなら手前から取る「てまえどり」キャンペーンを実施した。値引き商品や、値引きになる前の、消費期限・賞味期限が接近した食品を積極的に購入することを促す目的である。

てまえどりを啓発するPOP(コープこうべ提供)
てまえどりを啓発するPOP(コープこうべ提供)

「てまえどり」キャンペーン

「てまえどり」キャンペーンの概要は次の通り。

実施期間:2018年10月1日~31日の1ヶ月間

実施店舗:兵庫県神戸市内のコープこうべ34店舗(うち中央区の山手店、西区の桜が丘店の2店舗は重要取組店舗)

コープこうべ山手店(コープこうべ提供)
コープこうべ山手店(コープこうべ提供)

訴求内容:2つの行動の促進アピール

1)値引き商品の積極的な購入 

2)値引きになる前の商品(消費期限や賞味期限が短くなった商品)の優先購入

キャンペーンの実施状況(神戸市を取材した際のプレゼンテーション資料)
キャンペーンの実施状況(神戸市を取材した際のプレゼンテーション資料)

廃棄率は前年比15.7%減

キャンペーンの結果として、キャンペーンを実施した2018年10月と、前年2017年10月とを比較した。

食品の廃棄率は、前年比で15.75%減少した。ただし、「てまえどり」キャンペーンを行っていない店舗でもおおむね同様の傾向だった。

2017年10月の廃棄率と比較して15.75%減少した(コープこうべ提供)
2017年10月の廃棄率と比較して15.75%減少した(コープこうべ提供)

売れる店ほど廃棄が少ない傾向

では、店舗ごとに詳しく見てみると、販売量と廃棄率の関係はどうだろうか。

下記のグラフは、縦軸に販売数量、横軸に廃棄率をとっている。プロットからは、反比例の関係が読み取れる。つまり、販売数量が多い店舗ほど廃棄率が低く、逆に販売数量が少ない店舗ほど廃棄率が高い傾向がわかる。

販売数量(縦軸、供給量)と廃棄率(横軸)の関係(2018年10月、コープこうべ提供)
販売数量(縦軸、供給量)と廃棄率(横軸)の関係(2018年10月、コープこうべ提供)

80%以上がキャンペーンの存在と趣旨を理解

「てまえどり」キャンペーンに気づいた人は、全体の84%にのぼった(山手店85.5%、桜が丘店81.9%)。

また、キャンペーンの趣旨が「『すぐに食べるなら、商品を手前から取ること』を求めていることがわかった」人は、全体の81.9%が理解していた(山手店81.3%、桜が丘店82.6%)。

「てまえどり」キャンペーンの趣旨の理解度(コープこうべ提供)
「てまえどり」キャンペーンの趣旨の理解度(コープこうべ提供)

値引き商品は「以前から購入している」が70%

値引き商品は、「以前から購入している」が69.9%と高く、「機会があれば購入しようと思った」人は19.2%。合わせると88.9%が値引き商品の購入に対し、積極的な姿勢である。

値引き商品を購入しようとする意図があるかどうか(コープこうべ提供)
値引き商品を購入しようとする意図があるかどうか(コープこうべ提供)

期限が近い商品は「以前から購入している」が50%

消費期限や賞味期限など、期限が近づいている商品については「以前から購入している」が49.7%と、およそ半数だった。

期限が近い商品を購入しようとする意図について(コープこうべ提供)
期限が近い商品を購入しようとする意図について(コープこうべ提供)

「てまえどりはよい取り組み」が82%、「新しいものがいい」は9%

「てまえどり」キャンペーンについて、「よい取り組み」と答えた人が全体の81.7%にのぼった。他にも「食品ロスを減らすべき」71.3%、「食べ物を大切にしたい」69.6%、「応援したい」52.2%、「皆がもっと取り組んだらよい」47%など、おおむね好意的な結果となり、「新しいものが良い」は9.1%だった。

「てまえどり」キャンペーンの印象・感想(オレンジが全体、青が山手店、緑が桜ヶ丘店。その他2.6%と無回答4.3%は筆者により表示省略、コープこうべ)
「てまえどり」キャンペーンの印象・感想(オレンジが全体、青が山手店、緑が桜ヶ丘店。その他2.6%と無回答4.3%は筆者により表示省略、コープこうべ)

来店者アンケートでも好評

コープこうべの来店者アンケートでも、次のような評価が得られた(文章は原文のまま)。

  • 久々の良い取り組みと思われる。
  • 企業側だけでは推進されないので、神戸市(行政側)のリーダーシップが後押しになると思う。県政との連携も必要。
  • まだ食べられる食品が大量に廃棄されている現状はテレビで見て知っておりますし、誠に罰当たりなことであると思い、胸が痛みます。健康と命を支えてくれる食品にもっともっと感謝して、大切に扱ってゆきたいと思います。
  • 「リサイクルされるからよい」という考え方もありますが、環境への負荷を考えると、微力ながら「手前から」を心がけています。
  • 商品を後ろから取る行為は、どちらかというとみっともなく感じる。
  • 戦中戦後の食料のない時代を過ごした世代ですから、現在の物があふれているのや、食べ物をすぐ大量に捨てているのがおそろしく思います。少しでも捨てるの減るように協力します。
  • 育ち盛りの男の子3人の母です。日頃から値引き商品は購入していましたが、今回の取り組みは趣旨がわかりやすく、値引き商品も増え、とても助かります。これからも続けてください!
  • 以前から食品ロスについては心を痛めていました。こども食堂などへの提供もすすめてほしいです。
  • 一般的に「品切れは機会の損失であり、悪である」という考え方が小売業の世界にあります。本当に食品ロスをなくしたいなら、売る側も買う川も「品切れのない生活」を捨てて「売れたら今日はおしまい」を容認する覚悟が必要だと思いますが、特に小売側はできそうですか?
  • 私達が意識するのも大切ですが、店頭に並ぶ商品の量が多すぎるのではないかと。むしろ欠品にしてよい社会にしてはと思う今日このごろです。
  • 小売業者が販売額を少しでも増やすための過剰生産が根底にあるとすれば、まずそれを制限すべく商慣習を変えるべきです(年月はかかるがやるべき)。
  • 個人で努力するのは当然だと思うし、よい取り組みだと思うが、企業や外食産業がもっと取り組まなければ食品ロスは減らないと思う。社会全体に機運が高まればよいと思う。
  • 一人ひとりが現状の状況を「もったいないこと」と認識する必要があるのではないでしょうか。売れ残ったたくさんの食品がどのように処分されてしまうのか、より多くの人々が知るために、見学会、報告会、専門家による講演会などが開かれるとよいのではないかと思います。
コープこうべ 桜が丘店(コープこうべ提供)
コープこうべ 桜が丘店(コープこうべ提供)

「てまえどり」キャンペーンについて関係者のお話

このキャンペーンを実施している最中に、神戸市役所に伺い、神戸市とコープこうべのご担当者の皆さんにお話を伺った。

コープこうべの益尾大祐さん(奥・右、当時のご所属)と井野健太郎さん(奥・左)(筆者撮影)
コープこうべの益尾大祐さん(奥・右、当時のご所属)と井野健太郎さん(奥・左)(筆者撮影)

神戸市は、コープこうべとの共同キャンペーンを決めた時「市民を巻き込んだ取り組み方が、とても神戸らしい」という意見を受けたそうだ。

神戸市環境局職員4名の皆様(奥)(筆者撮影)
神戸市環境局職員4名の皆様(奥)(筆者撮影)

コープ(生協)、中でもコープこうべは、その歴史は全国の中でも長い。1921年(大正10年)、コープこうべの前身となる「神戸購買組合」と「灘購買組合」が設立されている。

お店と消費者との双方向のやりとりがあり、かつ、消費者の意識が高いことが知られている。筆者も食品メーカー勤務時代、お客様対応業務を5年間兼務していた際、兵庫県の消費者の方から「コープこうべさんはこんな対応をしてくれた」との声を伺ったことがあった。

2020年4月7日には、新型コロナウイルス感染症防止対策として、開店後の30分間は、65歳以上の方、障害のある方、妊婦の方に限定するという取り組みも発表した。

今回の「てまえどり」は、スーパーだけでなく、行政(神戸市)と一緒にやることで、社会的意義が伝えられたとのこと。キャンペーンのご担当者の皆さんは「具体的な提案ができたと思う」とおっしゃっていた。

取材させていただいた神戸市とコープこうべの皆さん(筆者撮影)
取材させていただいた神戸市とコープこうべの皆さん(筆者撮影)

神戸市外国語大学の辻田創さんの感想

神戸市外国語大学を数ヶ月休学し、東京で食品ロスを減らすための活動をしていた辻田創さんに、このキャンペーンの感想を伺った。

辻田創さん(辻田創さん提供)
辻田創さん(辻田創さん提供)

神戸市は私の大学があり大好きな都市のひとつなのでこのような動きがあると大変嬉しく感じる。本質的な食品ロス削減には持続可能性と取り組みの拡大の観点から、食品ロスを削減するための取り組みだけでなく、小売店の売り上げを高める必要もあるから、食品ロス削減による小売店側のメリットを提示するべきである。そして、消費者の購買行動に対する啓発ではなく、食品ロス削減の上での小売店の利益向上を目的に持ってきたとき、消費者の購買行動を啓発する以外にも手段は考えられる。

まず、商品を仕入れる段階で需要予測することで廃棄になる商品量を予測し仕入れと廃棄コストを削減することができる。人工衛星から未来の天候を予想し、それによって変化する消費者行動をデータから導き出し、仕入れの段階で特定の商品仕入れを増減させることは可能だろう。昨今の技術発展が著しい社会ではビッグデータ分析により将来の需要予測が可能になり、他産業では導入実装により供給の最適化がされている。

次に、売れ残りの商品にポイントの付加価値をつけることにより意図的に特定の商品の購買を促進することが取り組みの一つとして考えられる。昨年秋からコンビニエンスストアではポイント還元という形で消費者の購買行動を啓発している。値引きと両立してポイント還元(もしくは増倍)をするには店舗には負担であるから各店舗の抱える消費者の傾向によって判断すべきであるが、インセンティブを値引きだけでなく新たな形でも試験的に導入すべきであると考える。

啓発活動の効果が出し切られた次に必要なステップは、仕入れ時に需要予測をするなど、いかに店舗が商品の買いすぎを減らすか、という点。賞味期限が迫った商品の購入がポイント獲得につながるなど、店舗が利益を得られる範囲でどういったインセンティブを消費者に与えるか、という点。そして誰が啓発し拡大させるか、という点である。

私たちが生活する地球にとっても実行する店舗にとっても購買する消費者にとってもwin-winの関係になるようブラッシュアップする必要がある。CSRという言葉が企業のIRや会計書にはよく記載され、生活でも目にする機会が目にする機会が増えたように感じるが、企業広告としてではなく、公的利益(公益)を実現することを念頭に置いての施策でなければならない。まさに、言うは易く行うは難しではあるが、大学生として企業を見つめたときに、ただ「環境に配慮している」と言って広告をうっている企業が多いと感じる。公益という考え方は環境問題解決と企業や行政といった組織の持続可能な共存を考える時に、根本に置くべきである。もちろん食品ロス以外の環境活動を考える際にも同様である。

廃棄率をさらに低下させる取り組みは試行錯誤したうえで見つかると思う。最終的には、効果が出た出なかった、売り上げが上がった下がったの01ではなく取り組みを続けることが重要であるから、この動きがSDGsウォッシュで終わらない社会にしていきたい。

取材を終えて

神戸市とコープこうべに取材させて頂いて、また、キャンペーンの報告書を共有頂いて、「コープこうべらしい」取り組みだと感じた。全国の生協はどこも意識が高い消費者が多いが、中でも最も歴史の長いコープこうべならではの取り組みだと思う。これに追随して、他の小売でも同様の取り組みが始まっているのが頼もしい。

「値引き食品は70%が積極的に購入し、値引きしていない期限接近食品は50%が積極的に購入している」という結果だった。これは今回の調査対象とは別の意見だが、手前から取ることを勧めると、必ず出てくるのは「同じ値段ならより新しいものを求めるのは消費者として当然のこと」という主張だ。逆に、「値引きしてあれば期限接近商品を選ぶ」という意見も、他のアンケート調査結果で出ている。

食品ロス削減推進法に関しては、政府の基本方針案に対し、パブリックコメントが募集され、2020年2月19日に開催された第3回食品ロス削減推進会議で、その一部が発表されていた。

226件集まった意見の中には、

一律に「手前取り、見切り品等の活用」をしない消費者を責めるようなやり方は避けるべき。

出典:食品ロス削減推進法の基本方針(案)に対するパブリックコメント

という意見があった。

これに対する委員会からの回答は「いただいた御意見も踏まえ、消費者への普及啓発等の取組を進めていく考えです。」というものだった。

今回の神戸市とコープこうべが行った「てまえどり」は、「すぐ食べるなら手前からとってね」というもので、一律に強制しているものではない。筆者自身も、講演で「できるだけ手前からとりましょう」と言ったときに、一人暮らしの70代女性が「あたしゃ前から(牛乳)取ってたら腐らせちゃうんだよ!」と怒られたことがあった。今回の「てまえどり」のように、「すぐ食べるものなら」という枕詞(まくらことば)をつけることで、消費者には、よりスムーズに、手前から取るという行為を受け入れてもらえるのではないだろうか。

現状だと、手前に残すことが消費者にとって「他人ごと」になっているからこそ、奥から取る行為につながっている。消費者が奥から取ってしまった場合、それを処理するコストは、事業者が負担するだけではなく、われわれ消費者が市区町村に納めた税金も使われる(たとえば東京都世田谷区の場合、事業系一般廃棄物の処理費用は1kgあたり57円)ということを知れば、なんでもかんでも後ろから引っ張り出す行為は少しでも減るのではないだろうか。

神戸市とコープこうべのこの取り組みが継続していき、社会全体に広まることを願っている。

参考資料

商品棚「てまえどり」で食品ロス削減に向けたキャンペーンを実施(消費者庁資料)

商品棚「てまえどり」で食品ロス削減 コープこうべがキャンペーン開始(ひょうご経済+)

コープこうべの歴史

協同組合の歴史

スーパーの食品「奥から取るのは悪いのかな?」今日食べるあんパンでも明日以降の賞味期限のを取りますか?

コンビニスーパー売れ残り廃棄に税金使われるのに「事業ごみは事業者負担で税金0」の誤解は企業に好都合?

第3回食品ロス削減推進会議 2020年2月19日 (消費者庁)

「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」(素案) パブリックコメント結果の概要 (消費者庁)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン(株)青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で食料廃棄に憤りを覚え、誕生日を冠した(株)office3.11設立。日本初のフードバンクの広報を委託され、PRアワードグランプリソーシャルコミュニケーション部門最優秀賞へと導いた。『食品ロスをなくしたら1か月5,000円の得』『賞味期限のウソ』。食品ロス問題を全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして2018年、第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018受賞

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気候変動が深刻化し、SDGs(持続可能な開発目標)が注目されていますが、対応に悩む企業も多いです。著者は企業広報に14年半、NPO広報に3年従事の後、執筆や講演を通して食品ロス問題を全国に広め、数々の賞を受賞しました。SDGsが掲げる17目標のうち、貧困や飢餓、水・衛生、生産・消費など、多くの課題に関わる食品ロスの視点から、国内外の事例を紹介し、コスト削減や働き方改革も見据え、何から取り組むべきか考えます。

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