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9年目の3.11と新型コロナ対策を機に取り入れたい「ローリングストック法」とは?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

この機会に全国の家庭で取り入れたい「ローリングストック法」

2011年3月11日の東日本大震災から今日で9年が経つ。新型コロナウイルス感染防止対策で、2020年の追悼行事は中止が相次いだ。

不要不急の外出が自粛される中、見直したいのが「ローリングストック法」。3.11以降、注目されるようになってきた備蓄法だ。

意味は、在庫を回して切らさずに使っていくこと。家庭での「ローリングストック法」は、主に食品に対して使われる。非常袋に賞味期限の長い備蓄食品を入れっぱなしにして何年も出さないでいるのではなく、日頃から、食器棚の下などに、普段食べるものを備蓄し、使ったらその分だけ次の買い物で買い足していくような方法を指す。

2011年、東日本大震災の翌月、支援物資の仕分け作業をする筆者(関係者撮影)
2011年、東日本大震災の翌月、支援物資の仕分け作業をする筆者(関係者撮影)

外国籍の方に「ローリングストック」と言うと、たぶん意味が通じないかも?

実は「ローリングストック」をそのまま「Rolling Stock」と英語に訳すと違う意味になってしまう(鉄道や貨物自動車など、輸送するための車両の意)。英語だと、主に事業者で使われる「Stock Rotation」の方が、日本で使われている意味に近い。内閣府は、震災直後は「サイクル保存」という言葉を使っていたが、今は「ローリングストック」に統一したようだ。この言葉をどなたが最初に訳したのかはわからないが、今では和製英語の「ローリングストック法」として、関係者の間で定着している。

別件だが、「食品ロス」のことを「フードロス」と外国籍の方に伝えてしまうと、やはり、日本で使っているのとは違って伝わる可能性が高い。海外の記事などを見ていると、ロスではなくウェイスト(waste)を使っている場合が多いようだ。筆者は、国際機関などが使用している"Food Loss and Waste"を使うように心がけている。

参考:

メディアの方へお願い 「フードロス」より「食品ロス」を使って欲しい理由とは?

自然災害は何十年にいっぺんのことではなくなってしまった

筆者は災害に関する専門家ではないので、気候変動と自然災害の発生との因果関係に詳しくはない。ただ、ここのところ、日本国内でも毎年のように自然災害が発生しているのは事実だ。

いつ、どこで起きるかわからない。

食料品は、日用品とは違って、賞味期限がある。加工食品のパッケージに印字されている賞味期限は、実際には品質が切れる日付ではないが、現状では、多くの家庭内で、賞味期限が来たら処分されてしまっているのが事実だ。事業者の間では、賞味期限の手前に設定されている販売期限や納品期限(3分の1ルール)で処分や返品がなされてしまう。

SDGsの13番のゴールは「気候変動に具体的な対策を」(国連広報センターHP)
SDGsの13番のゴールは「気候変動に具体的な対策を」(国連広報センターHP)

災害食は普段から食べ慣れているものを

家庭では、非常袋に入れっぱなしにするのではなく、普段から目に止まりやすいところに備蓄しておくのがいい。どんな種類の備蓄食がいくつあり、賞味期限がいつ頃なのか、意識にのぼりやすくなる。

また、災害食の専門家が指摘していることとして、「災害時はただでさえ精神不安定になるため、日頃から食べ慣れているものを準備しておくのがよい」ということがある。このことを踏まえても、何年間の間に一度も食べたことがないような食品を備蓄しておくより、普段から食べ慣れているものをすぐ近くに備蓄しておくのがよいと考える。

2016年4月、熊本地震の際、おにぎりを作る支援者たち(越智新氏撮影)
2016年4月、熊本地震の際、おにぎりを作る支援者たち(越智新氏撮影)

液体ミルクも普段から使おう

2019年3月には、民間企業から発売されたばかりの「液体ミルク」を取り上げ、非常時だけでなく普段から使おう、という記事を書いた。これも前述の理由とほぼ重なる。普段から使い慣れておかないと、非常時には、ただでさえいろんなことで大変なのに、一度も使ったことのないものを使えるとは思えない。3.11の後には、海外から支援食として送られていた液体ミルクが、被災地の倉庫で放置されていた。2011年8月のことだ。

参考:

【3.11を前に】国内初の乳児用液体ミルク 被災地取材で考える、災害時だけでなく日常使用を勧める理由

2020年3月10日付の日本経済新聞には、「液体ミルク、販売1年で使用経験率4割 民間調査」という記事が掲載された。発売されて1年で使用経験4割というのは、まあまあ多い方ではないだろうか。

海外の液体ミルク(筆者撮影)
海外の液体ミルク(筆者撮影)

食品だけでなく日用品にも応用可能

関係者の間では、ローリングストック法は食品や水の備蓄方法を指している。

千葉市長の熊谷俊人氏は、ツイッターで「マスクやトイレットペーパーなどを自宅に一定量備蓄していたので品薄にも対応できた」と語り、「ローリングストック法」を勧めている。

もし、各家庭に一定量のマスクやトイレットペーパーの備えがあれば、店への殺到も、もう少し避けられたのではないだろうか。

筆者は、ちょうど2月中旬から3月10日まで渡航していたので、マスクもトイレットペーパーも買いに行くことはなかった。仮に日本にいたとしても、マスクはいつも箱買いして備蓄してあるし、トイレットペーパーも、近所のスーパーでポイントが多くもらえる日に12ロール買うようにしてあるので備蓄は十分にあるから、買いには行かなかったと思う。

ローリングストック法関連サイト

3.11から9年目を迎え、新型コロナウイルス対策のために日用品や衛生用品が必要となったこの機会に、「ローリングストック法」を取り入れてみてはどうだろう。いくつか参考になるサイトを挙げておきたい。農林水産省のサイトには、各企業や団体の公式サイトがリンクされている。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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