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賢い飲食店ほど「○食限定」にする理由とは

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
美味しかった香川県のぶっかけうどん(筆者撮影)

2019年8月のお盆は、台風が日本列島を直撃したこともあり、全国の交通機関の窓口は、予定変更を行う人などでごったがえした。

お盆や年末年始、ゴールデンウィークなど、長期休暇の期間は、飲食店にとって、書き入れどきだ。ここぞとばかり、お盆休み返上で、稼げるだけ稼ごうというお店も多いかもしれない。

だが、賢い飲食店ほど「○食限定」や「売り切れごめん」など、提供する数に上限を設けている。

それはなぜなのだろう?

キャパシティ(許容量)を超えた数の料理は味が落ち、サービスの質も下がる

筆者は、お盆期間中に、四国を訪問した。金刀比羅宮、通称「こんぴらさん」の奥社まで、1368段の階段を登ったり、うどんを食べたりした。

香川県には、これまで食の講演で4回、呼んで頂いたことがある。その時に味わった美味しいうどんを、今回も食べたいと思っていた。

だが、すこし残念なことがあった。

お店の名誉のために店名は書かないが、2018年10月に食べたときに感銘を受けた味とは、全然違っていた店があった。

レジが壊れてしまい、それを直そうとして店員がかかりきりになり、行列する客が放置され、お詫びもない店があった。

どちらも、何十人の行列。もしかしたら、100人近くが並んでいたかもしれない。

お客は空腹時に待たされてストレスがたまるし、従業員も、殺到する客をこなすだけで精一杯の様子だった。そうなると、サービスどころの騒ぎではない。

筆者も、冷たいうどんを頼んだら、従業員が間違えて、アツアツのうどんを持ってきた。たぶん、大量の客をこなしきれず、ハプニングも生じて、混乱していたのだろう。テーブルの前のお客さんが「作り直してもらったら?」と気を使ってくださった。でも、処分するのももったいないし、アツアツ・・・というより、もうその時にはぬるくなっていたうどんを食べた。

こちらは酸味がきいていてとても美味しかった!「冷やしうどん」(筆者撮影)
こちらは酸味がきいていてとても美味しかった!「冷やしうどん」(筆者撮影)

いさぎよい、昼前に「完売御礼」の店

そうかと思えば、車で行かないと行けない不便な場所にもかかわらず、当日用意した手打ちうどんがすべてなくなってしまい、「完売御礼」の札を、お昼前の午前11時台に早々と掲げたお店もあった。

もちろん、はるばる駆けつけたわけだから、「完売」は、がっかりはする。でも、「じゃあ、今度来たときにまた食べよう」と、次のチャンスを楽しみにする。

お店としても、いつも提供している美味しい味を保つことができる。

従業員も疲弊しない。

サービスの質も保つことができる。

滞在中に、無制限に大量の顧客を受け入れている店と、制限している店との両方を体験した。

無制限に受け入れることで、お店としては、お盆の書き入れどきにたくさんの売り上げを得られたかもしれない。

でも、お客の中には、「期待していたほど美味しくない」とか、「サービスが行き届いていない」と思ってしまった人もいるかもしれない。

期待はずれの体験をしたら、もう、その店には行かないし、誰にも勧めないだろう。

需要と供給の齟齬(そご)が生じれば生じるほど、食品ロスも出てしまう。

その食品は、元はと言えば、生き物の命が捧げられたものだ。

香川県を走る電車の風景(筆者撮影)
香川県を走る電車の風景(筆者撮影)

「○食限定」「売り切れごめん」で従業員も働き続けやすくなる

今回は、体験したのがたまたま四国だっただけで、全国どこでも同じようなことは起こっているだろう。

飲食店で働く人たちの精神状態を良いものに保つのは、とても大切だ。

従業員のストレスや不平不満は、お客が敏感に感じ取る。

「100食限定」にしている京都の佰食屋(ひゃくしょくや)は、障害のある方や、ひとり親の方、家族の介護や育児をする方も働き続けることができている。

京都・佰食屋の国産牛ステーキ丼(筆者撮影)
京都・佰食屋の国産牛ステーキ丼(筆者撮影)

土用の丑の日に、毎年、うなぎへの感謝を込めて休業し、近くの神社へ供養に出向いているうな豊(とよ)のような、志の高いうなぎ専門店もある。

お盆や長期休暇などの書き入れどきであっても、許容の限界を設けた方が、味やサービスの質を保つことができて、評判のいい店になると思う。

働くのは、疲弊するためではない。生きていくための糧とやり甲斐を得て、幸せを感じるためである。

前述の佰食屋を経営する中村朱美さんは、

私が幸せと思うのは、ここで働いてよかったと私に言ってくれること。それが一番幸せを感じるのです。

出典:50食しか売ってはいけない!働き方のフランチャイズ目指し 売上増や機会損失からの脱却と従業員の幸せ

と取材で語っていた。

売り上げを失う(=機会損失)を恐れる企業の姿勢については、

あるのが当たり前じゃなくて、このものに価値があると思える幸せを企業が提供することも「あり」なんじゃないかなと思います。

ものがないほうがものを大切にするし、ないほうがそのものに対する愛情も湧くし、皆さんが残したりしなくなるのにな、と。機会損失という考えは間違っているよなといつも思うのです。

出典:中村朱美さんの言葉

とも話していた。

飲食店が、働く人にとっても客にとっても、幸せを感じられる場であってほしい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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