Yahoo!ニュース

なぜうなぎ屋が土用の丑の日に休業するの?ミシュランガイドに載る炭焼き専門店の大将が語る その理由とは

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

2月3日の節分には恵方巻きの大量廃棄が社会問題となり、国が小売業界に対し「需要に見合った数を販売するように」と通知を出すまでになった。

7月27日は土用の丑の日。7月22日に「土用の丑の日には予約を」と書いた環境省のツイートは削除されうなぎの画像も無断で使用していたとして話題になった。

ニホンウナギは2013年、絶滅危惧種に指定されている。

スーパーの店内に立てられた「うなぎ」ののぼり(筆者撮影)
スーパーの店内に立てられた「うなぎ」ののぼり(筆者撮影)

「作り過ぎない、売り過ぎない、買い過ぎない」が原則

理想的な社会は、適度な数の食べ物を作り、適切な数を売り、消費者は適量を買う、という姿だろう。

トヨタ自動車(株)社長など、多くの経営者がお手本として見習う存在である、塚越寛(つかこし・ひろし)氏。

伊奈食品工業株式会社で日本食物繊維学会の理事会が開催された際の塚越寛氏(左)と筆者(学会関係者撮影)
伊奈食品工業株式会社で日本食物繊維学会の理事会が開催された際の塚越寛氏(左)と筆者(学会関係者撮影)

伊那食品工業株式会社の最高顧問だ。

その塚越寛氏の新著『末広がりのいい会社をつくる』(サンクチュアリ出版、塚越寛著)には、「いい会社」をつくるための一〇箇条の一つとして、

売れるからといってつくり過ぎない、売り過ぎない。

という言葉が挙げられている。

そこから考えると、ニホンウナギは絶滅危惧種であり、恵方巻きに使われる魚(海洋資源)も枯渇しているのに、どう見ても、作り過ぎ・売り過ぎの感がある。

なぜか。

寿司を寿司屋以外の小売店が必要以上に大量に売り、うなぎもうなぎ屋以外が大量に売ってきたからではないか。

専門店にまかせていれば、ここまで大量廃棄や食品ロスになることもなかったろうし、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されることもなかったかもしれない。

大量に廃棄される恵方巻き(日本フードエコロジーセンター提供)
大量に廃棄される恵方巻き(日本フードエコロジーセンター提供)

ミシュランガイドに載る創業昭和35年の炭焼きうなぎ専門店「うな豊」は土用の丑の日に毎年休業

パタゴニアは、参議院選挙の日である7月21日、直営店全店閉店すると発表した。

IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)は、10月8日に発表された特別報告書の中で、早ければ2030年には、産業革命前と比較した地球の平均気温上昇が1.5度に到達し、珊瑚礁の大部分が死滅するというショッキングな見解を示しました。気温上昇を1.5度以内に抑えようという2015年のパリ協定で掲げられた努力目標が、すでに極めて実現困難な現実であることがわかったのです。気候変動の影響を受けるのは、極地や海抜の低い島々などに暮らす一部の人々や動植物であるというのは、もはや過去の幻想であり、今や、ビジネスどころか、「死滅した地球では生命は存続できない」という言葉すら真実味を帯びつつあるように感じます。

こうした状況を鑑みれば、各企業が社外で起きている問題に対しても主体的に行動を起こすことがとても重要になることは明らかです。

パタゴニアは数ある企業のひとつに過ぎず、一社で出来ることは限られています。日本支社としても、他の企業や関係NPO、そしてカスタマーの皆さまと共に、相互に連携、協力をしながら、気候変動問題に対する効果的な対策を実現していくことを強く願っています。

出典:パタゴニア クリーネストライン

日曜日といえば、書き入れ時だ。にもかかわらず、売上より、理念を選んだ姿勢を、意識の高い消費者たちは絶賛した。

それと共通する動きのうなぎ専門店がある。

愛知県名古屋市の「うな豊(とよ)」だ。

「ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版」に掲載されている、昭和35年創業の、炭焼きうなぎ専門店。

うなぎの美味しい店として、飲食店サイトでも選ばれている店だ。

その「うな豊」は、7月27日の土用の丑の日に休業するという。

2019年だけではない。

毎年、土用の丑の日には休業しているそうだ。

「うな豊」の大将は、ブログやツイッターでその思いを語っている。

はたして、土用の丑の日という書き入れ時にわざわざ閉店する、その理由とは?

貴重な資源であるうなぎへの感謝を込めて休業

「うな豊」は、貴重な資源であるうなぎへの感謝を込めて、毎年、土用の丑の日は休業し、うなぎへの供養の気持ちを込めて、近くのお寺へお参りしている。

うなぎはうなぎ屋で食べよう

2019年6月8日、「うな豊」のツイートが大きな注目を浴びた。

「鰻(うなぎ)は鰻(うなぎ)屋で。」

これこそ、うなぎを敬い、資源を大切に、持続可能にしていくキーワードではないだろうか。

「うな豊」の公式ツイートを引用させていただくにあたり、「うな豊」大将とやり取りした際、

「いただきます」

「ごちそうさま」の心を忘れず大切にする為にも鰻のみならず全ての食材に感謝を忘れてはならないと考えております。

出典:うな豊 大将の言葉

という言葉をいただいた。

先日、グルメジャーナリストの東龍さんが、ブッフェで食べ物を残すことについての記事を書いておられた。食べ物に対する感謝の気持ちを忘れない飲食店であれば、食べ物をむげに無駄にするようなことはないだろう。

うなぎ専門店のうなぎ(筆者撮影)
うなぎ専門店のうなぎ(筆者撮影)

うなぎを「いただく」という気持ち

筆者の暮らしている近所のうなぎ専門店は、1998年ごろは、一番お手頃のうな重の値段が、一人前1,500円だった。

2019年現在、同じメニューのうな重は、一人前の値段が2倍になっている。

でも、だからこそ、噛み締めて、味わって、うなぎをいただく姿勢になれるのかもしれない。

うなぎは、その姿のせいもあってか、命を捧げたものを「いただく」という気持ちが自然に湧いてくる。

「食べる」というより、命を「いただく」という気持ち。

本当は、うなぎだけでなく、すべての食べ物は、命からいただいているので、そういう厳粛な気持ちでいただかなくては、バチがあたるだろう。

あまりに安過ぎる食べ物、命を頂いていることまで察せられず、食べ物をモノ扱いする事業者や消費者の態度からは、食べ物に対する敬意や愛情、感謝の心が生まれない。その結果、毎日、絶え間ない食品ロスが生み出されていく。

SDGs(国連広報センターHP)
SDGs(国連広報センターHP)

「誰ひとり取り残さない」という理念を掲げているSDGs(エスディージーズ)の17の目標を、世界中が目指し、2030年までに達成する責任がある。

地球が1つだけでは足りなくなりそうという、資源の枯渇が差し迫ったこの時代に、自社の売上だけを追求して平気な態度の企業は、時代遅れどころか、「化石」と言われかねない。

日曜日に直営店全店休業したパタゴニアや、毎年、土用の丑の日に閉店するうな豊のように、自社・自店の売上にとっては不利であっても、社会にとって、地球資源にとって、何が重要なのかということを真摯に考え、実践し、社会に示す組織こそが、賞賛されるべきだ。

わたしたち消費者には、権利だけでなく、義務もある。善き企業や店を選ぶ目をしっかりと持ちたい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事