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「廃棄1時間前に入ってきたパン捨てた」賞味期限・消費期限の手前の販売期限を柔軟にし食品ロスを最小限に

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

自然災害は100%防げない

2017年7月5日の九州北部豪雨から2年、2018年7月6日の西日本豪雨から1年が経つ。

そして2019年6月末から7月にかけて、九州地方で記録的な豪雨となっている。

2010年以降、異常気象がデフォルト(基本)のようになり、毎年のように自然災害が訪れる。

「防災」「減災」はできる。でも、自然災害を完璧に防ぐことは困難だ。

2011年9月6日、ところにより雨(局地的豪雨)の写真(日本気象協会提供)
2011年9月6日、ところにより雨(局地的豪雨)の写真(日本気象協会提供)

食品が不足する非常時だからこそ「販売期限」を柔軟にできないか?

2018年7月の西日本豪雨では、被災地のコンビニオーナーさんから、「販売期限の1時間前にトラックが着くので、ほとんど売る時間なく捨てなければならなかった」という声を聞いた。

道路が寸断されたため、普段通りの時間にトラックが着かない。どう頑張っても遅れてしまう。

消費期限の手前に設定されている「販売期限」の直前にトラックが着くため、納品されて棚に並べても、すぐに撤去の時間が来てしまい、泣く泣く捨てたという。

コンビニの店舗では、販売期限で棚から撤去された食品のことを「廃棄」と呼ばれることが多い。取材したオーナーも「廃棄の1時間前に入ってきたパンを捨てた」と答えていた。

西日本豪雨の被災地のオーナーが捨てた食品(オーナー提供、筆者が白黒加工)
西日本豪雨の被災地のオーナーが捨てた食品(オーナー提供、筆者が白黒加工)

消費者にとって、期限表示は、日持ちが5日以内の弁当などにつけられる「消費期限」、もしくは美味しさの目安である「賞味期限」しか関係がない。

でも、食品業界の関係者にとっては、その手前に「販売期限」がある。販売期限で商品棚から撤去し、返品もしくは廃棄してしまう。

食品業界の商慣習「3分の1ルール」。流通経済研究所の調べによれば年間1200億円以上がロスとなっていた。その手前の納品期限も、日本は先進諸国よりずっと厳しい(流通経済研究所調べに基づき筆者作成)
食品業界の商慣習「3分の1ルール」。流通経済研究所の調べによれば年間1200億円以上がロスとなっていた。その手前の納品期限も、日本は先進諸国よりずっと厳しい(流通経済研究所調べに基づき筆者作成)

自然災害時に交通網が乱れるのは必至だ。食品が不足する自然災害時、消費期限は守るにしても、せめて業界の商慣習に過ぎない「販売期限」は柔軟にとらえ、限られた食品を有効に活用できないものだろうか。

カツ丼のご飯は塩むすびに、幕の内弁当はおかず一品足りなくてもいいじゃないか

2018年9月には、震度7を記録した北海道地震が発生した。

このとき、同じコンビニエンスストアでも対応が分かれた。

北海道に拠点を置くセイコーマートは、カツ丼にするはずだったご飯を塩むすびにし、より多くの顧客にご飯が行き渡るような臨機応変な対応を見せた。

一方、大手コンビニでは、幕の内弁当のおかずのうち、たった一品が製造できないから「規格外」という理由で、ベンダー(納品者)の出荷を受け付けなかった。

「そばはあるんですが、ネギがない。弁当の素材はあるんですが、漬物がない。そうすると『ざるそば』や『幕の内弁当』という商品は作ることができないんです」。大手コンビニチェーンの道内店舗に弁当類を供給する会社の幹部は目いっぱいに涙をためながら、苦しい胸の内を吐露した。「食材はいっぱいある。でも、チェーンの規格に合わない商品は出せない。この苦しいとき、地域の役に立てない。非常に切ない」

出典:2018年9月12日付 北海道新聞

自然災害は、いつ、どこででも起こり得る。起こるのが普通と考え、臨機応変に対応できないものだろうか。

販売期限で廃棄する弁当類(コンビニオーナー提供、筆者が白黒加工)
販売期限で廃棄する弁当類(コンビニオーナー提供、筆者が白黒加工)

家庭では「ローリングストック法」を

家庭では、「ローリングストック法」を活用したい。

ローリングストック法とは、レトルトご飯など、まとめて買っておく常備食を、使っては買い足し、使っては買い足すを繰り返す方法のこと。

非常袋に入れっぱなしよりも、食材の賞味期限や在庫の種類・数が認識しやすく、東日本大震災以降、注目されるようになった。

豪雨や地震などで外に行けないとき、家の中だけで食事作りが完結できる。

日本気象協会は、2010年以降、異常気象が常態化していると取材で語っている。

東日本の夏(6月~8月)の平均気温の平年差(日本気象協会提供)
東日本の夏(6月~8月)の平均気温の平年差(日本気象協会提供)

食品事業者も消費者も、自然災害は起きるという前提に立つ必要がある。自然災害時に不足しがちな食料品を、杓子定規な規則や商慣習で食品ロスにすることなく、できる限り有効活用していきたい。

(「ローリングストック法」については新著『「食品ロス」をなくしたら1ヶ月5,000円の得!』のp108-109を参考にした)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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