2019年4月24日付朝日新聞朝刊は、コンビニの店主が24時間営業の見直しを求め、本部がこれを一方的に拒んで店主に不利益を与えた場合、公正取引委員会は独占禁止法の適用対象とする方向で検討に入ったと報じた。
この記事に、オーサーコメントを書いたところ、多くの反響を頂いている。
2009年セブン-イレブン・ジャパンに対する公正取引委員会の「見切り販売禁止」に対する排除措置命令
2009年6月22日、公正取引委員会は、セブン-イレブン・ジャパンに対し、見切り販売を禁止したことに対する排除措置命令を出した。
株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対する排除措置命令について(2009年6月22日 公正取引委員会)
コンビニ会計という不思議な会計システムでは、見切り販売するより食品を廃棄したほうが本部の取り分が多くなる。
廃棄分は、実際はオーナーが8割以上負担しているが、原価に含ませないことになっている。

したがって、見かけ上の儲け(粗利)は大きくなり、本部:オーナーの取り分のうち、本部の取り分は多くなる。
見切りしたほうが、オーナーは赤字にならず、廃棄した時より取り分が増える。が、逆に、本部の取り分は少なくなる。

コンビニ本部は「見切り禁止はしていないが積極的に推奨もしていない」
セブン-イレブン・ジャパン本部など、複数の大手コンビニ本部に見切り販売について取材をすると、「見切りを禁止はしていない。でも積極的に推奨していない」という答えが返ってくる。
参考:
加盟店に対し「見切り禁止」とは言わない別の表現で見切りをやめるよう言われている
一方、加盟店主(オーナー)に取材すると、「見切り禁止」とは言わない、別の表現で、見切り販売をしないように言われているケースを複数聞く。
事例1「見切りしたら、ドミナント出店する店舗の経営は許可しない」
何度か伺ったのは、見切りをしたら、今ある店舗に加えてもう1店舗(複数店舗)の経営は許可しませんよ、ということだ。
オーナーX:セブンは、シールを貼る(見切りをする)と、バーゲンハンター(筆者注:見切り狙いの客のこと)が来るので、と言うけど、バーゲンハンターも、お客さんではあるから、変な言い方されるな、と思うんですけど。バーゲンハンターでも、お客さんは、お客さん。10円でも20円でも、お金を落としていってくださるお客さんになるので。
ドミナント(集中出店。近隣にもう1店舗出すこと)の話が(社員から)あったときに、(もう1店舗)やろうかな、と言ったら、当時の社員が、「全力で、オーナーさんができるように応援はしますけど、その代わり、しばらくはシールを貼らないでください」と、はっきり言われたんです。
シールを貼っている人(見切りする人)には(もう1店舗の経営は)やらせない、ということでしょう?結局。

事例2「2号店やりたい。過去に見切りして契約更新できなかったと聞き・・・」
別のお店では、契約更新して2号店をやりたいので、見切りはできないとのことだった。
そのオーナーさんは、過去に契約更新できなかったオーナーの話を聞いて、ビビって(怖くて)できないと話した。無言の圧力というのだろうか。こういうパターンは、別の地域でも伺った。
オーナーZ:みんな、値下げはしたいと思うんです。したくないお店はないと思うんです。でも、できないんです。。。
15年契約だけど、15年どころか、一生働けると思ってセブン-イレブン選んだんで。
じゃあ、2店舗目をやりたい・・・2号店をやりたいっていう気持ちがあるんです。ってなると、(見切り)できないんです。
オーナーV:契約更新で、本部がどう出るかという問題もあるし、実際(見切りをして)突っ込まれたお店もあるし。(見切りするのは)もうちょっと、様子見ておいたほうがいいと思う。

事例3、売上の悪い店は「支援」(廃棄補填)を入れるので見切りはさせない
別の店では、日販(1日あたりの販売金額)が平均を下回っており、本部が廃棄金額を「支援」しているため、シールは貼らないように、と言われているとのことだった。
オーナーP:シールを貼る(見切りをする)と、まずいわけですね?
オーナーQ:まだ、支援が入っているので、そうです。
オーナーP:支援が入っている・・・
オーナーQ:ゆくゆくは貼りたいな(見切りしたいな)と思っているんですけれども。
オーナーR:日々の廃棄(食品)は、売価で、だいたい2万~3万円ですか?
オーナーQ:そうです。売価で、だいたい(1日に)2万~3万円ぐらいです。少ないときは、1万3,000円に収まるんですけれども、多いときは3万、下手したら、4万円ぐらいまでいくときもあります。
この店では、多い月には(売価で)120万円を上回る廃棄食品を出さざるを得なかった、とのことだった。

見切りすると「契約に影響出ますよ」は優越的地位の濫用ではないのか
もう1店舗経営したくても、見切りしたらさせない。過去に、見切りしたから契約更新できなかったオーナーがいるらしいから、契約解除が怖くて見切りできない。「契約に影響が出ますよ」と言われたオーナーもいる。
このような結果、全国で、デイリー食品(弁当など)の見切り販売をしているコンビニは、1%程度に過ぎない(映画「コンビニの秘密」による)。
これは、2009年6月22日の、公正取引委員会の排除措置命令で「違反行為」としていることに相当するのではないだろうか。
セブン-イレブン・ジャパンの取引上の地位は加盟者(注2)に対して優越している
ところ,セブン-イレブン・ジャパンは,加盟店(注3)で廃棄された商品の原価相当 額の全額が加盟者の負担となる仕組み(注4)の下で,推奨商品(注5)のうちデイリー商 品(注6)に係る見切り販売(注7)(以下「見切り販売」という。)を行おうとし,又は 行っている加盟者に対し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせ,もって,加盟者 が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担 を軽減する機会を失わせている。
「契約更新」は、オーナーにとっての命綱だ。更新できなければ、生活が成り立たなくなってしまう。そして、そのカギを握っているのが、大手コンビニ本部だ。
見切り禁止は独占禁止法に抵触する行為なのに、直截(ちょくせつ)的な表現をせず、間接的な表現で、契約を切ることをにおわせるのは、優越的地位の濫用ではないのだろうか。