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飲食店・コンビニ動画 ITリテラシーの無さ?人手不足?低時給?バイトテロが今後も繰り返される理由とは

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

飲食店やコンビニエンスストアのアルバイトが食品を不適切に扱う動画をアップし、大手回転寿司チェーンでは、民事での法的措置へと動いている。

一連の事件がなぜ立て続けに起こるのか、理由を解明しようとする記事も発信されている。

理由として挙げられているのは、ITリテラシーの無さ、慢性的な人手不足、アルバイトの時給の低さ、など・・・。

おそらく、どれも背景にあるだろう。

筆者は「命に関わる食べ物への真摯さと敬意の無さ」ひいては「ビジネスを大きくし過ぎたこと」が根本にあると考える。つまり、店舗数や労働時間数、売り上げ目標などを大きくし過ぎたことによる人手不足、人が「質より量」にならざるを得ないことで教育をしても行き届かないことなどである。バイトテロが起きているのが、食関係の中でも、店舗数と営業時間数の多いコンビニや飲食店などの企業に特化しているためである。

食品メーカーの製造工場で同じことをやったら・・・

筆者が勤めていた食品メーカーはじめ、どのメーカーの製造工場でも、良心的な食品メーカーは、食品の衛生さや安全性を守るために、なみなみならぬ努力を続けている。

食べ物に触れる場に入るためには、髪の毛混入を防止するネットをかぶり、白衣を着け、アクセサリーの類だけでなく、クリップや金属類など混入してはならないものを全て取り外し、爪の奥まで手洗いをしっかりとし、エアーシャワーを浴びてから入る。

製造ラインには金属探知機や赤外線のセンサーが付けられ、食べたら危険なものが決して入らないよう、細心の配慮がなされる。

2000年に発生した食中毒事件を機に、このような食品衛生や安全性に対する仕組みは、より強固なものとなった。

それでも、100%、異物混入を防ぐことはできない。

全国へ出荷しているメーカーであれば、万が一、健康に被害を及ぼすものが入ったら、倒産するリスクもある。

食品に携わる仕事は、命に関わるのだ。

たくさんの製品を出荷している会社であれば、多くの人の命や健康に危害を及ぼすことになってしまう。

まさか、床に落とした食材を使うだの、口に入れるだの、そんなことをすることは、食品メーカーの工場では考え難い。万一、そんなことがあったとすれば、その人物は、少なくとも食品関係で働くことは一切できなくなるだろう。

ほとんどの企業では、仕事に就く時点で、食品を扱う仕事での注意事項についてきちんと同意をするし、仕事に就いてからも教育を受ける。

ちなみに、多くの製造工場で働いているのは正社員だけではない。

食への愛情や敬意のある個人経営の店では起こり得ない

2019年1月に取材して書いた広島の捨てないパン屋、ブーランジェリー・ドリアンや、何度も記事で紹介している京都の飲食店、佰食屋(ひゃくしょくや)では、前述のようなことは決して起こらないであろう。

経営者の理念が、食べ物への愛情や敬意に満ちたものであるし、彼らは、自分たちのビジネスを、身の丈に合わないほど急激に拡大することをしていないからだ。慢性的な人手不足は起こらない。そこで働く人たちを低賃金で使い捨てするような扱いもしていない。

ITリテラシーの低さが、今回のようなバイトテロを起こす要因でもある。だが、その店の食品を食べる消費者としては、食品をごみ箱に捨てたり床に落としたり、口の中に入れて出したり、そういう行為をされていれば、インターネット上にアップされていようがいまいが関係なく気持ち悪い。そんな店のものは食べたくない。たとえITリテラシーが欠如していたとしても、食べ物が命に関わるものであると認識し、食べ物に対する敬意があれば、そんな行為はしないだろう。

食べ物への真摯さと敬意に欠けている社会

今後もどこかでバイトテロは起きるだろう。

何しろ、捨てることが前提、捨てるコストも織り込み済みで、食べ物を毎日ごみにして、食のビジネスを回している会社が生き残れる日本社会なのだから。食に対する愛情や敬意などのへったくれもない。

食品ロスをゼロにしろとは言わない。ビジネス上、出てしまうものも必ずあるから。でも、どう考えても理不尽なほど食べられるものをごみとして出し続け、税金を使っているのは、やっぱりおかしいだろう。(食品メーカー以外は産業廃棄物でなく「事業系一般廃棄物」として廃棄でき、事業者も払うが我々が納めた税金も投入される

大人がこういう態度なのだから、大人に近い子ども(学生)も推して知るべしだろう。

企業の、特に食に関わる仕事は目の届く範囲におさめなければ危険

「ビジネスを大きくし過ぎたこと」が根本にあると考える、と冒頭で述べた。

ビジネスの規模を大きくしても、その経営を持続し得るだけの人材があればいいだろう。

食のビジネスでは、きちんとした人材を雇用しないと、命に関わるリスクを負う。

今回のようなバイトテロが起きた企業を見てみると、大手コンビニ3社(各社とも国内だけで13,000店舗以上)、大手回転寿司チェーン3社(各社とも400店舗以上)、カラオケ経営(400店舗以上)、中華料理系ファミリーレストラン(国内300店舗以上)、ピザチェーン(国内500店舗以上)など、店舗数がどこも300を超えている。

共通するのは、店舗数の多さに加えて、労働時間の長さだ。

回転寿司チェーン店は、今回の事件に際し、教育をしてきたにもかかわらず、起きてしまったことへの無念さを訴えている。

店舗数も労働時間も増やし、それを保とうとすれば、いくら企業が懸命に努力しようとも、そのような行為をする人物を防ごうとしても入らざるを得ないのではないだろうか。

とはいえ、上記の企業が店舗数や営業時間を減らす選択を取ることは考えづらい。

となれば、バイトテロは、店舗数が大きく、かつ、店舗労働時間の長い企業、特にコンビニや飲食系で起こらざるを得ないかもしれない。

それでも「命に関わる食べ物への真摯さと敬意」を持ち、「身の丈に合ったビジネス」を運営している企業は、日本の中にたくさんある。

全国88店舗でしっかりした教育をしていると推察される喫茶ルノアール、企業理念の一つは「適正利潤の追求」

株式会社銀座ルノアールは、東京都・神奈川県・埼玉県・熊本県で、合わせて88店舗の飲食店を経営している。

店内にはwifi環境やコンセントがあり、少し長く居ると、注文された飲み物以外に日本茶を出してくれる。筆者は東京都23区内の数十の店舗を訪問したことがある。

ここで感心するのが、注文した後、電話やお手洗いなどで席を外した場合、決して顧客不在のまま食べ物や飲み物を置きっぱなしにしていかないことだ。筆者がこれまで訪問したのは20種類前後の店舗だけで、全店舗は訪問できていない。が、「不在時に黙って注文した飲み物や食べ物を置きっぱなしにしていかない」という対応は、これまでのところ、各店舗共通だった。客が見えるところにいる場合は、「お客様、こちら、置いて行ってよろしいでしょうか」と声をかけてくれる。最初は、特定の店舗だけかと思っていたら、どの店舗に行っても同じ対応だった。わざわざ座るのを待ってから提供してくれたこともあった。

ルノアールはアルバイトを雇用しているし、他と比べて時給がものすごく高額というわけでもない(飲み物の値段も地域・店舗によって変えており、銀座などでは高く、そうでないところは低めに設定されている)。でも、アルバイトも含めて、教育がしっかりしているのを感じる。

株式会社銀座ルノアールの経営理念は、社会貢献、人材教育、そして適正利潤の追求だ。企業の公式サイトには「適正利潤をもって会社の永続的発展を目指し、当社に関わる人々を幸福にし、社会貢献の目的を達成する」とある。教育が行き届いているであろうことに加えて、企業の経営理念もしっかりしていることが、接客態度に出ているのだろう。「食べ物への真摯さと敬意」を持ち、「身の丈に合ったビジネス」を運営している企業の一つではないだろうか。

「もっと、もっと」と貪る(むさぼる)ことのない「適正な利潤」。そこで働く人にとっても、企業全体にとっても、重要なことだと強く思う。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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