寺離れ お坊さんの社会貢献 お寺に「ある」と社会に「ない」を繋げ社会課題を解決するおてらおやつクラブ

奈良県・安養寺でプレゼンテーションする住職の松島靖朗(せいろう)さん(筆者撮影)

2018年9月20日付の産経新聞に、『檀家の「お寺離れ」どう対応?お坊さんたちが緊急シンポ』と題した記事が掲載されていた。檀家の寺離れは近年進んでおり、この現状について議論するのが目的で、2018年8月23日、東京都港区で「お寺の今後を考えるサミット」と題して開催されたそうだ。このイベントについて、筆者は知らなかったし、ちょうど出張中だったため、たとえ知っても参加はできなかったが、「お寺が社会にできること」については、ここ数年考えてきた。

2011年の東日本大震災発生後に議論された「宗教界が環境に対して何ができるか」

筆者は高校時代の古文の教科書を通し、京都・奈良への憧れを持ち、17歳の時、奈良の大学へ進学することを決めた。大学は一つしか受験しなかったが、運よく合格し、4年間を奈良で過ごした。その間、ガイドブックに掲載されているお寺を、しらみつぶしに訪問していった。奈良はお寺が県内に点在しており、一日や二日で全てを廻るのは難しい。交通アクセスも都会のように便利ではない。その点、奈良に住み拠点があれば、廻りやすい。

大学卒業と同時に奈良を離れたが、意外なことに、東日本大震災の翌年の2012年、お寺に関係するところから、シンポジウムへの登壇依頼をいただいた。それが、2012年11月10日、奈良県天理市で開催された第三回 宗教と環境シンポジウムである。ここで、大阪大学の稲場圭信(けいしん)准教授(現 教授)にお会いした。稲場圭信先生は、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)としての宗教に関する研究を進めており、東日本大震災をはじめ、災害の直後から被災地に足を運んでおられる。2018年4月には、共著者とともに「地域における寺院の社会貢献 : 熊本県宇城市豊野町の光照寺の防災・復興活動を事例に」という論文を発表された。

2012年11月10日、奈良県天理市で開催された第三回「宗教と環境シンポジウム」(主催者撮影)
2012年11月10日、奈良県天理市で開催された第三回「宗教と環境シンポジウム」(主催者撮影)

このシンポジウムを機に、お寺をはじめとした宗教界が、自然災害や社会環境に対して何ができるのか、という視点を持つようになった。

お寺のお供え物が食品ロスに?必要な子どもたちへ寄付

2014年、インターネット寺院の彼岸寺(ひがんじ)が、お寺のお供え物の食べ物が、放置されて傷んでしまう前に、それを必要とする子どもたちへ寄付する取り組みを始めたと聞いた。余っている食べ物を、必要なところへ、というコンセプトだ。筆者が広報を務めていたセカンドハーベスト・ジャパンのスタッフが、スタッフ会議で教えてくれた。これはいい、と思い、全国から依頼される食品ロスの講演で毎回紹介するようになった。当時、使っていたパワーポイント資料が下記のものである。

彼岸寺が始めた「おてらおやつクラブ」(筆者作成のパワーポイント資料)
彼岸寺が始めた「おてらおやつクラブ」(筆者作成のパワーポイント資料)

「おてらおやつクラブ」創始者の松島靖朗さん

その後も、毎回、講演のたびにお話をしていた。ある時、地方の新聞に、おてらおやつクラブの創始者である、奈良県・安養寺(あんようじ)の住職、松島靖朗(せいろう)さんが、人物紹介のコーナーに顔写真入りで掲載されているのを見つけた。思い切って、お寺の電話番号を調べて電話した。電話口に出たのは松島さん本人だった。「井出留美さんですね」とフルネームをすぐに言われて驚いた。筆者がどこかの講演で紹介しているのを人づてに聞き、知っていたという。

奈良・安養寺の入り口(筆者撮影)
奈良・安養寺の入り口(筆者撮影)

そこで2016年5月、筆者の母校の奈良女子大学で講演する折に、松島さんに会いに行った。

松島さんが「おてらおやつクラブ」を始めたきっかけは、2013年に大阪で発生した、母子餓死事件だった。28歳の母親が、3歳の子どもに対し、メッセージを書き残し、アパートで2人で亡くなっていた。

2013年、大阪での母子餓死事件で、28歳の母親が書き残していたメッセージ(松島靖朗さん作成のパワーポイントより)
2013年、大阪での母子餓死事件で、28歳の母親が書き残していたメッセージ(松島靖朗さん作成のパワーポイントより)

ちょうど父親になったばかりの松島さんには、それがショックだった。

「何ができるか?」と考えた結果が「おてらおやつクラブ」だった。

2016年5月、奈良・安養寺でおてらおやつクラブについて筆者に説明する松島靖朗さん(筆者撮影)
2016年5月、奈良・安養寺でおてらおやつクラブについて筆者に説明する松島靖朗さん(筆者撮影)

お寺には、お供え物などの食べ物がある。お供えは、果物、地のもの(地元のもの)、旬のものなど。それらが、意外なほど多く、だめになってしまうという。

2016年5月、おてらおやつクラブの仕組みについて説明する松島靖朗さんとパワポ(筆者撮影)
2016年5月、おてらおやつクラブの仕組みについて説明する松島靖朗さんとパワポ(筆者撮影)

お寺から

「おそなえ」を

「おさがり」として

「おすそわけ」

出典:おてらおやつクラブのコンセプト

2017年5月には奈良・東大寺で「おてらおやつクラブ活動報告会」開催

2017年5月24日には、奈良・東大寺で「おてらおやつクラブ活動報告会」が開催され、筆者も登壇した。

報告会の会場となった東大寺ミュージアム(筆者撮影)
報告会の会場となった東大寺ミュージアム(筆者撮影)

2017年8月には「おてらおやつクラブ」がNPO法人化され、筆者は監事として参加することになった。

2017年5月、おてらおやつクラブ活動報告会(主催者撮影)
2017年5月、おてらおやつクラブ活動報告会(主催者撮影)

おてらおやつクラブの参加寺院は2018年9月21日現在、47都道府県、951寺院にものぼる。

宗派を超えての活動である。

おてらおやつクラブ NPO法人 役員メンバー(関係者撮影)
おてらおやつクラブ NPO法人 役員メンバー(関係者撮影)

お寺の社会貢献のキーワードは「食」と「災害」と「貧困」では

おてらおやつクラブの活動や、大阪大学の稲場圭信教授の活動を、2010年代に入ってから拝見してくると、全国に約78,000あるお寺のできる社会貢献のキーワードは、「食」と「災害」と「貧困」ではないかと考える。

お寺には、食べ物とスペースがある。それは、災害時や貧困に陥った時、命をつなぐ上でまず必要になるものだ。

2016年5月、松島靖朗さん(左)と筆者(自動シャッターで松島さん撮影)
2016年5月、松島靖朗さん(左)と筆者(自動シャッターで松島さん撮影)

米国で50年以上の歴史を持つフードバンクは、もともと、教会から始まった。米国内に多くある教会は、今では、経済的に困窮する人たちが、支援を受ける場にもなっている。

また、日本では、東日本大震災の時、お寺の広いお堂が解放され、避難所となったケースがあった。

お寺の社会貢献活動に対し、「それは宗教家のやることではない」という批判もあると聞いている。だが、時代は変わり、社会のニーズにお寺が応えていくことも必要。だからこそ、冒頭のようなシンポジウムやお寺の地域貢献に関する事例報告会などが開催され、アマゾンジャパンで「お坊さん便」のようなサービスが始まり、社会に受け入れられてきているのではないだろうか。