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ドラマ『北の国から』脚本家、倉本聰さんの先見性 30年以上前に食料廃棄と食品ロスの問題を指摘していた

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
ドラマ『北の国から』ロケ地(北海道)(ペイレスイメージズ/アフロ)

1981年からフジテレビ系列で放送されていたテレビドラマ『北の国から』。放送開始から40年近く経つ今も、観た人の心の中に、その風景や人々の会話を残している。その『北の国から』の脚本家である倉本聰さんと、富良野自然塾季刊誌の企画で対談させて頂いた。

拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)の編集を担当して下さった編集長から依頼があったとメールが届いた。富良野自然塾の副塾長である林原博光さんが拙著を読み、それを倉本さんにお話しされて、連絡を下さったとのこと。

『北の国から』は、もちろん観ていた。大学4年で就職を決めてから、乗ったこともないツーリング用の自転車を引っさげて、一人で北海道を1ヶ月間、1,800km走った。『北の国から』の視聴者には憧れの地であるドラマのロケ地、麓郷(ろくごう)へも行った。富良野駅には当時、シュラフ(寝袋)で泊まれる「ツーリングトレイン」と呼ばれる車両があり、そこに寝泊まりした。1ヶ月廻った中でも、緑が広がる美瑛(びえい)の景色がお気に入りだった。

大学4年時、北海道を自転車で1ヶ月間、一人で1800km走った。知床峠で(撮影:通りすがりの人)
大学4年時、北海道を自転車で1ヶ月間、一人で1800km走った。知床峠で(撮影:通りすがりの人)

1981年〜1982年に放映された第4話で生産調整の問題を指摘

対談に備えて、改めて、『北の国から』を観てみた。第4話で、黒板純(吉岡秀隆)と蛍(中嶋朋子)が通う分校の涼子先生(原田美枝子)が、「生産調整って知ってる?」と、生徒たちに問いかけるシーンがある。

涼子先生は、生徒たちから一通り意見を聞いて、次のように語る。

せっかく食べられるものをよ。

わざわざ苦労して作ったのに、捨てちゃう。

もったいないね。

出典:『北の国から』第4話 純と蛍が通う分校の涼子先生のセリフ

純と蛍と、その父親である五郎(田中邦衛)は、生産調整で出荷できない、食紅を混ぜられた牛乳で、バターを作る(第12話)。

1995年に放映された「'95 秘密」で規格外の人参の廃棄を指摘

1995年に放映された『北の国から'95秘密』では、純が小沼シュウ(宮沢りえ)を家に連れてくる。五郎は、食事を準備するので食材を調達しようと、純を連れて、車で出かける。

てっきりスーパーへ行くと思った純だが、着いた所は、にんじん畑。規格外の人参が畑に放置されており、それを拾う五郎を、純がたしなめるが、五郎はやめない。

家に帰ってきて料理を食べながら、五郎は語る。

まだ食えるものを捨てる方が、よっぽどおかしいと思いません?

出典:『北の国から '95秘密』黒板五郎のセリフ

シュウも同意見で、五郎と意気投合する。

人参の廃棄は倉本聰さんの実体験だった

富良野自然塾の対談集である書籍を読むと、この人参のシーンは、倉本聰さんの実体験であることがわかる。

僕がここで暮らすようになって、30年以上経つんですが、初めて来た時が丁度、人参の収穫期だったんですね。ところがその人参が、収穫の終わった畑に山ほど捨てられていて、ちょっと仰天したんですよ。後で聞くと、4割がた捨てられちゃうと。それでなお且つ農地が足りないって、森を伐っちゃう・・・何故だろうっていうところから、この問題に入っていったんですね。

出典:書籍『富良野自然塾 倉本聰対談集 愚者の質問』(倉本聰・林原博光、日本経済新聞社)

カビてしまった人参(筆者撮影)
カビてしまった人参(筆者撮影)

使える家電が廃棄、まだ履ける靴も捨てる・・・

この他にも、まだ使えそうな冷蔵庫などの家電がたくさん捨てられている「山部(やまべ)山麓デパート」も登場する。

第23話では、五郎が純と蛍に買ってくれた運動靴を、新品を買ってくれたおじさんの言うままに捨てたものの、後で純と蛍が拾いに行くシーンがある。

このように、まだ食べられるもの、まだ使えるものを捨ててしまうことへの疑問や問いかけが、至るところに詰まっている。

倉本聰氏(右)と筆者(左)(撮影:富良野自然塾)
倉本聰氏(右)と筆者(左)(撮影:富良野自然塾)

まだ食べられるものを大量に理不尽に捨てることのおかしさ

対談は1時間強と伺っていたが、お会いした時刻から2時間くらい、お話しさせて頂いた。その中で、倉本さんが私に対して、どのような社会を目指しているのか、とお聞きになった。うろ覚えだが、筆者の答えは「まだ食べられるものを捨てない社会」だったと思う。

『’95 秘密』で五郎さんが語ったように、まだ食べられるものを捨てる方が、よっぽどおかしいと思う。筆者の実体験は、3.11の東日本大震災の支援活動だった。食料が不足する中持って来た支援食料に対し、平等という原則を盾にして、「メーカーが違うから配らない」とか、「数名分(避難所の人数に)足りないから配らない」など、理不尽に、大量に捨てられることに対し、おかしいのではないか、と感じた。

『北の国から』が始まる一年前に京都市と京都大学が食品ロスの調査を開始

『北の国から』が始まった1981年の一年前の1980年、京都市と京都大学は、ごみ細組成調査を始めている。

京都アカデミーフォーラム in丸の内で京都市長が発表、ごみ細組成調査(京都市・京都大学)についてはp6に掲載

家庭菜園でできた野菜すら家庭ごみに・・・

現在、京都大学で、このごみ細素性調査を続けている、浅利美鈴准教授は、2018年5月31日に開催された、廃棄物資源循環学会主催のSDGsのセミナーで、賞味期限・消費期限前の、まだ食べられる食べ物が相当量捨てられている現状を指摘した。

2018年5月31日、廃棄物資源循環学会主催のSDGsセミナーで発表する京都大学の浅利美鈴准教授(筆者撮影)
2018年5月31日、廃棄物資源循環学会主催のSDGsセミナーで発表する京都大学の浅利美鈴准教授(筆者撮影)

スーパーで売られる野菜には「使い切り」サイズで便利、と書かれたものがある。ブロッコリーにもそのシールが貼られていたが、それすら、使われずに、丸ごと捨てられていたという。

2018年5月31日、廃棄物資源循環学会主催のSDGsセミナーで発表する京都大学の浅利美鈴准教授(筆者撮影)
2018年5月31日、廃棄物資源循環学会主催のSDGsセミナーで発表する京都大学の浅利美鈴准教授(筆者撮影)

浅利先生によれば、最近は、家庭菜園で作ったと思われる、形がゆがんだような野菜も、家庭ごみに入っているという。そのまま土に埋めると、イノシシが掘り起こして食べるなど、獣害に合う可能性があるから、だそうだ。

2018年5月31日、廃棄物資源循環学会主催のSDGsセミナーで京都大学の浅利美鈴准教授が発表した、家庭菜園で作ったのに捨てられた野菜の写真(筆者撮影)
2018年5月31日、廃棄物資源循環学会主催のSDGsセミナーで京都大学の浅利美鈴准教授が発表した、家庭菜園で作ったのに捨てられた野菜の写真(筆者撮影)

規格外で畑で捨てられる野菜は日本の「食品ロス」にはカウントされていない

大量に収穫されてしまって捨てられる野菜や、規格外のため畑に放置される野菜は、定期的に発表されている日本の「食品ロス」量にはカウントされない。一部企業は、こうした規格外の農産物を流通ルートに乗せて販売しているが、全体で見ると、まだまだ少ない。

まだ十分に食べられるのに、畑で捨てられる規格外の農産物。「加工して利用すれば・・・」という声も聞くが、収穫するにも労働力が要る。食品衛生に留意し、保健所の指示に見合う基準レベルに加工して事業化するには、数百万単位の加工設備が必要だ。

食料がそんなに無駄にされながら、一方で食糧危機って言われて要る。北海道は、日本の食料自給率の中で優れていて、200%近いって言われるんですが。

出典:書籍『富良野自然塾 倉本聰対談集 愚者の質問』(倉本聰・林原博光、日本経済新聞社)より倉本聰さんの言葉

今回、対談させて頂き、30年以上前にこの問題を現場で体験し、倉本聰さんの実体験に基づき、ドラマを通して指摘されていたことに気づいた。30年以上が経ち、食料廃棄の問題は、解決されるどころか、ますます深刻になっている。要因の一つに、「農」と「食」が乖離し、食が工業化していることが挙げられる。

食品ロス問題は、規格外農産物の廃棄だけでなく、食品業界の商慣習や消費者の購買行動などにも要因がある。解決への道は遠い。でも、少しずつでも社会は変わると信じて、「食べられるものを捨てないで当たり前に食べる社会」を作るための活動を、命ある限り、続けていきたいと思う。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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