食品ロス「月刻みで減」の裏事情 日付抜けばOK、ではない

ペットボトルの賞味期限表示。年月日表示(右)と年月表示(左)(筆者撮影)

2018年7月2日付、西日本新聞の記事『飲料ロス削減の切り札? 「○年△月」にシフトする賞味期限表示 壁は昔ながらの”商慣習”』がYahoo!トピックスに「食品ロス なぜ月刻みで減」というタイトルで掲載されている。賞味期限表示の、年月日表示を年月表示にすることで食品ロスが減る、という内容だ。

日付を抜くことで食品業界の商慣習「日付後退品」を回避できる

確かに、記事にある通り、食品業界には日付後退品のルールがある。メーカーなどが、前の日に納品した商品の賞味期限より、当日、納品しようと持ってきた商品の賞味期限が、1日たりとも古いものは許されない、というものだ。消費期限のように、日持ちが5日以内のものならともかく、ペットボトルのような1年以上の賞味期間があるものにまでそれが適用されている。となると、その1日違いを出さないために、トラックが日にち単位で動くことになる。車両もガソリンもドライバーも、その分だけ、余計に動くことになる。労働力や資源、時間の無駄遣いで、効率的ではない。

そもそも日本の法律では、3ヶ月以上の日持ちがある食品は、賞味期限の日付を省略してよいことになっている。だから、ペットボトル飲料の賞味期限表示のうち、日付は抜いていいのだ。

ペットボトルのキャップ部分に表示された賞味期限表示。右のような年月日表示から、左の年月表示へと移行しつつある(筆者撮影)
ペットボトルのキャップ部分に表示された賞味期限表示。右のような年月日表示から、左の年月表示へと移行しつつある(筆者撮影)

なぜメーカーは日付まで印字するの?

では、なぜメーカーは日付まで印字するのだろう。一つには、生産管理や在庫管理、トレーサビリティ(追跡可能性)を担保するためだ。何年何月何日、どの工場の、どの製造ラインで、どの時間帯に(あるいはどのグループが)製造したものかを情報として登録する。製造する商品を管理する上では重要だ。万が一、異物混入などの事態が発生したときでも、印字した賞味期限表示やロットナンバーから、どれが対象品かがすぐ追跡できる。

とはいえ、それは数字で示す必要はない。筆者が勤めていた食品メーカーでは、賞味期限は年月表示にし、製造した日付や製造ライン、製造時間(担当グループ)などの詳細情報は、アルファベットの記号にして印字していた。こうすることで、消費者や取引先であるスーパー、コンビニは賞味期限の年月を把握できるし、メーカーの関係者は、アルファベットから詳細情報を把握することができる。

実際、年月表示の進みつつあるペットボトル飲料や、日持ちのしやすい菓子類に関しては、このような、年月表示と記号の併記が進んでいる。

でも「年月表示」は単純に日付だけ抜けばOK、ではない

冒頭の西日本新聞の記事には説明がなかったが、たとえば、下の写真の右側にあるペットボトル飲料の年月日表示は、年月表示に変えるとどうなるだろう?

右側は年月日表示(2018.4.18)(筆者撮影)
右側は年月日表示(2018.4.18)(筆者撮影)

「2018年4月」と答えるのではないだろうか。答えはバツだ。

正しくは「2018年3月」となる。消費者庁のQ&Aによれば、月末の場合のみ、その月の年月表示にしてよいことになっている。半端な日付の場合は、切り捨てて、前月表示となるのだ。

つまり、下の写真だと、左側は切り捨てで「2018年3月」に、右側は月末なので「2018年6月」になる。

右側の年月日表示は2018年6月30日を示す(筆者撮影)
右側の年月日表示は2018年6月30日を示す(筆者撮影)

「じゃあ逆に食品ロスが増えるじゃないか」という反論に対しては・・・

月末日付以外は切り捨てる。となれば、逆にロスが増えるじゃないか。その通り。

そこで、企業は、賞味期限の年月日表示から、単純に日付を抜くのではなく、それと並行して、賞味期限(賞味期間)そのものを延長する取り組みをしている。

たとえばキユーピーは、製造方法を変えることにより、7ヶ月だったマヨネーズの賞味期間を10ヶ月に延長した。さらに、酸素に触れづらい包装形態にすることで、12ヶ月まで延長した。

他にもカップ麺や袋麺は、包装技術の改善により、それぞれ1~2ヶ月、賞味期限を延長しているし、醤油などは、押すと出てくる容器にすることで、賞味期間を90日まで延長している。単純に日付だけ抜けばOK、という話ではないのだ。

業界団体として活動する食品業界は競合の動きも見ながら変更を加えていく

筆者が取材した食品メーカーは、2014年から、年月表示へと変えたい意向を持っていた。だが、同じような製品を製造している競合メーカー2社は、すぐにやりたくない、という。なぜなら2015年に食品表示に関する法律が変わったためだ。2年間の移行期間の間に、賞味期限だけでなく、他にも変えなければならない表示があるから、2014年に変えて、また2015年に変えるのは面倒くさい。食品企業が表示を変えるためには、パッケージの版下も刷り直さないといけないし、場合によっては工場の機械も変えないといけない。コストがかかる。

一社だけ先に走ればいいのに、と思ってしまうが、そこは日本ならではの「横並び意識」が働く。「競合の2社ともやっていないのに、うち(の会社)だけ先にやるわけにはいかないし・・・」と、その会社の執行役員の方は語っていた。

そういえば、東日本大震災の後、義援金を出す金額も、他社と同じにしていた業界があった。「あそこが○円出すなら、うちも・・」と、同じ金額を出していた。

年月表示でロスが減るのは飲料だけではない

というわけで、年月表示化がロスを減らすのはその通りだが、その裏側には、単純に日付を抜くだけではだめで、賞味期限そのものを延長する企業努力や、競合他社との足並みを揃えることなど、いろんな事情があるのだ。

さらに、冒頭の記事の見出しは『飲料ロス削減の切り札? 「○年△月」にシフトする賞味期限表示 壁は昔ながらの”商慣習”』となっていたが、年月表示でロスが減るのは飲料だけではない。賞味期限が3ヶ月以上ある食品ならすべてだ。

すでに年月表示化が進行している菓子や缶ビール、ペットボトル飲料などに加えて、粉末タイプのカップスープや1年以上の賞味期限があるレトルト食品、2年以上持つパスタなどの乾麺、3年間の賞味期間がある缶詰類などもそうだ。日本全国備蓄している備蓄食品も該当する。備蓄食は、特に法人向けのものは5年間の賞味期限という場合もある。

消費期限と賞味期限のイメージ(農林水産省HPより)
消費期限と賞味期限のイメージ(農林水産省HPより)

美味しさの目安でしかない賞味期限の年月日表示が、このような記事をきっかけに、もっと年月表示へと加速していくことを切に願っている。

参考記事:

イギリス・ロンドンのスーパーのインスタントラーメン「出前一丁」と日本の「出前一丁」は何が違うのか?

18ヶ月以上日持ちする食品は「年」表示のイギリス 3年以上日持ちする食品にも「年月日」表示する日本