なぜ賞味期限は食品ロスを増やすのか

イギリス・ロンドンのスーパーで売られている食品の賞味期限表示(下田屋毅氏撮影)

なぜ賞味期限の存在は食品ロスを増やすのだろうか。加工食品の中にもアイスクリームやガムなど賞味期限表示が省略されているものはあるし、野菜や果物など、青果物にも賞味期限表示はない。たとえなかったとしても、人はそれを買い、調理し、あるいはそのまま体内に取り入れている。食品業界の商慣習も含めて10の理由を考えてみた。

1、品質が切れる日付だと誤解しているから

賞味期限は「美味しく食べられる目安」だと、国(消費者庁)は説明している。だが、品質が切れる日付だと誤解している人がいる。そうでなくても、新しければ新しいほどいいと思って、先の日付のを買おうとする。日販品(デイリー)と言われる牛乳の1リットルサイズなどなら、家庭によって、消費のスピードが異なるから、先のを取ろうとするのもわかる。だが、今日食べる菓子パンまで棚の奥から取る人がいる。

賞味期限(黄色いライン)と消費期限(赤いライン)のイメージ(農林水産省HPより)
賞味期限(黄色いライン)と消費期限(赤いライン)のイメージ(農林水産省HPより)

これまで400回近く講演する中で、賞味期限と消費期限のクイズを出して、答えを聞いてきた。講演の対象は、高校生から80代まで。しっかりとその違いを理解している人は、全体の半分にも満たない。食品企業の社員の方でも、正答率は決して高くない。実際、食品企業の社員で「賞味期限過ぎたら速攻で捨てます」と話している人もいた。

消費期限は、日持ちが5日以内のものに表示される。弁当やサンドウィッチ、惣菜、生クリームのケーキなど。品質の劣化のスピードが早いため、できる限り早めに食べきるのがよい。一方、賞味期限は美味しさの目安に過ぎない。

2、企業側も前例に従ってアバウトに短めに決めている場合もあるから

賞味期限は、理化学試験・微生物試験・官能試験などをもとに、自社で設定する場合がある。自社に研究機関を持つ大企業はキッチリ検査して決めているところも多い。だが、100%自社で設定しているわけではない。自社に研究機関を持たない企業は、食品分析センターなど、専門分析機関に設定を依頼する場合もある。

また、自社でも分析センターでも検査をせず、慣習に従って決めるケースもある。日本の食品企業は、似たような商品を出している業界団体に所属する場合が多く、その業界団体が定める基準に準ずる場合がある。あるいは競合企業のうち業界トップの企業が定めている例に「右に倣え」で準ずる場合もある。つまり、必ずしも、その製品に適した期間を緻密に決めていない場合もある。

3、賞味期限にさらに1未満の安全係数を掛けるから

前述の通り、複数の試験をもとに設定された「美味しく食べられる目安の期間」である賞味期限に、さらに安全係数が乗じられる。安全係数とは、リスクを考慮して乗じられる1未満の数字を指す。国(消費者庁)は、加工食品のガイドラインやQ&Aで、0.8以上1未満の数字を推奨している。たとえば美味しく食べられる期間が10ヶ月であれば、それに0.8を掛けると8ヶ月になり、そのピンポイントの日付が「賞味期限」として印字される。安全係数を掛けることは、義務ではない。

筆者が食品企業に取材をした結果、ある冷凍食品の企業は0.7を使っていた。直接、取材に行った別の食品企業は3分の2(0.66)。1年半は美味しく食べられるが、そこに3分の2を掛けているという。品質保証部長に理由を聞いたら「検査の結果、掛け算しなくても大丈夫なことはわかっているが、3分の2にしておけば、さらに絶対大丈夫だから」とのことだった。

鮮度保持剤を製造する企業主催の勉強会では、生菓子店では、日持ちする日数の半分に設定することが多いと聞いた。つまり、安全係数は0.5となる。

このように、美味しく食べられる目安の期間である賞味期限は、様々なリスクを考慮し、さらに短くなる。

4、賞味期限のさらに手前に販売期限があるから

そして、短く設定された賞味期限のさらに手前に、食品業界特有の期限が2つある。1つが販売期限だ。

われわれ消費者が目にする期限表示は、食品の賞味期限、あるいは消費期限のみである。だが、食品業界には、「3分の1ルール」という業界の商慣習がある。賞味期限の手前に販売期限がある。賞味期間全体を3つに均等に分割し、作ってから3分の2のところに販売期限がある。6ヶ月の賞味期限のものであれば、製造して4ヶ月で販売期限が切れる。実際、スーパーやコンビニでは、販売期限が切れた食品に機械をかざすと、販売期限が切れているから棚から撤去するようにという指示が表示される。店員は、それを見て、食品を棚から撤去する。

5、賞味期限の手前の販売期限のさらに手前に納品期限があるから

もう1つの期限が「納品期限」だ。賞味期間全体を3つに均等に分割し、製造してから3分の1のところを納品期限と呼ぶ。6ヶ月の賞味期限のものであれば、製造して2ヶ月以内に納品しなければならない。海外で作ったものでも適用されるので、輸送するのにコストの安い船で運んで、納品期限にわずかに遅れてしまったため、大量の食品が売れなくなった・・ということも実際に起きている。

これら販売期限、納品期限を指す「3分の1ルール」により、年間1200億円以上のロスが生じている(流通経済研究所による)。この3分の1ルールは法律ではない。商慣習なので、2012年10月から、農林水産省と流通経済研究所、食品企業(メーカー・卸・小売)が横断的にこの緩和に動いており、実証実験の結果をもとに緩和させた大企業も多い。が、全国的には中小企業が圧倒的多数を占める食品業界の現場では、3分の1どころか、5分の1ルールなど、もっと厳しいルールを適用する小売もおり、中小メーカーを困惑させている。下の図のように、海外の納品期限は日本よりずっと長い。

食品業界の3分の1ルールの存在により、年間1200億円以上のロスが生じている(流通経済研究所のデータをもとに筆者作成)
食品業界の3分の1ルールの存在により、年間1200億円以上のロスが生じている(流通経済研究所のデータをもとに筆者作成)

京都市では、イズミヤや平和堂など、地元スーパー5店舗で、販売期限で棚から撤去することをせず、賞味期限ギリギリまで販売する実証実験を行ったところ、食品ロスが10%削減した(2017年11月から12月初旬にかけて)。

6、消費者が「同じ値段なら賞味期限の新しいものを」と奥から取り、日付が迫った手前のものを残していくから

消費者は、スーパーやコンビニで買い物する時、「同じ値段なら賞味期限の新しいものを取った方が得」といって、棚の奥から新しい日付のものを取っていく。その結果、商品棚には賞味期限や消費期限の迫ったものが残り、売れ残れば、日持ちのしないものは廃棄となる。たとえメーカーに返品されたとしても、多くのメーカーは、温度管理がどうなっていたかわからないものを再販売することはない。小売店から返品されたものは、自社が廃棄コストをかけて廃棄する。スーパーで売れ残った食品のうち、日持ちがしないものについてはスーパーが廃棄する。スーパーやコンビニの方に取材をすると、必ずと言っていいほど、苦情として「お客さんが奥から取って行く」という訴えを聞く。あるコンビニオーナーは、パンは、賞味期限表示3種類を置かない(たとえば6月27日、28日、29日など)。3種類置くと、必ず一番先から取って行かれるからだそうだ。

筆者がこれまで講演してきた中から、609名にアンケートを取った。店で買い物する時、賞味期限の新しいものを取ろうとして棚の奥へ手を伸ばして取ったことはありますか?という質問に対し、609名中、88%に当たる538名が「はい」と答えた。いいえが67名(11%)、わからないが4名(0.6%)。

「店で買い物する時、賞味期限の新しいのを取ろうとして棚の奥へ手を伸ばして取ったことはありますか?(609名のアンケート結果より、筆者作成)
「店で買い物する時、賞味期限の新しいのを取ろうとして棚の奥へ手を伸ばして取ったことはありますか?(609名のアンケート結果より、筆者作成)

賞味期限や消費期限の接近の日付に準じて価格を安くすることを「ダイナミック・プライシング」と呼ぶそうだ。すでに国内ではパナソニック社などによる実証実験も始まっており、海外でもスペインで実証実験がされているという。日付が迫っているほど安いのなら「安い方を買います」という消費者もアンケート結果によれば多い。実際、東京都とNTTドコモが行った実証実験でも、賞味期限が接近しているものを買った消費者にポイントが付与されるというサービスを行ったところ、買う人が増えて食品ロスが約10%減ったという結果も出ている。スーパーや百貨店では、期限の迫ったものが閉店間際に値下げされ、それを狙って買うという人もいるだろう。だが、値下げは全ての企業・全ての食品で行われるわけではない。

7、賞味期限について家庭でも学校でもきちんと教育されていないから

「親から、店で買う時は奥から(賞味期限の新しいものから)取るようにと教わった」人も少なくない。

義務教育では、小学校4年生で「ごみ」について習い、中学校の家庭科の教科書では賞味期限と消費期限について習っている。はず。でも、実際、講演でクイズで問うてみると、多くの人が間違える。なぜか。受験科目ではない家庭科を真剣に学んでいないからだろうか。そもそもある一定の年齢以上の男性は、家庭科を履修していない。彼らは「技術」を履修しており、「家庭科」は学んでいない。とはいえ、生きている限り、多くの人が自給自足ではなく、誰かが作った食品を選んで購入して消費していく。賞味期限がどのように設定されているかも知らずに。

8、経済と環境を両立させる倫理的な企業活動を行っていないから

経済産業省が事例を紹介している「マテリアルフローコスト会計(MFCA)」。製造工程で生じるロスも考慮に入れる、経済だけでなく環境負荷軽減も両立させる考え方だ。だが、多くの企業は、経済しか見ていない。CSR(企業の社会的責任)として環境のことももちろん考えているが、優先順位は売上や利益率で、社会貢献や環境は二の次という企業も多い。コンビニの食品ロスの記事を書けば「環境なんかより生活の方が大事なんだ!」とコメントが飛んでくる。環境への影響を無視したままで、これからも経済が回り続けると本当に言えるのだろうか。

多くの企業が、賞味期限を延ばしてロスを減らすことのできるよう、製造工程や食品の包装材料・技術を改善し始めている。賞味期限を年月日表示から年月表示にしている。だが、まだまだ全国的には数限られるし、この取り組みは途上だ。

2030年までに世界が達成するSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)(国連広報センターHPより)
2030年までに世界が達成するSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)(国連広報センターHPより)

9、組織依存型の働き方をしているから

この問題は、食品ロス問題にとって非常に大きい。食品に携わる多くの人は、組織に属している。組織ごとにヒエラルキー(階層)があるので、階層の上の組織に従わないと、契約を切られる事態が生じる。食品メーカーにとっては小売(スーパー・コンビニなど)がそうだし、コンビニオーナーにとってはコンビニ本部がそうだ。下の者は、賞味期限の手前の販売期限や納品期限を厳密に守らなければならない。欠品なんて、もってのほかだ。欠品を起こせば売り上げを失わせたという理由で契約を切られてしまう恐れがある。

第一勧業銀行(現みずほ銀行)で広報を務めていた作家の江上剛さんは、筆者が食品企業の広報室長だった時、所属していた広報研究会の閉会に際し、次のようなメッセージを会員に送ってくれた。

(前略)

広報は、本当に深い仕事だと思います。一言で言えば、組織内における第三者の目であるといえるでしょう。

たとえば、リスク管理について言えば、組織の論理で固まった会社を世間の目という第三者の目で見つめ、時には厳しい指摘をしなければなりません。

また世間の人に会社を知ってもらいたいと思えば、会社の人たちが組織の目で見ているために気付かない良さ、強さ、魅力などを第三者の目で発見し、それを会社の人たちに納得してもらい、世間に伝えねばなりません。もしこの広報が成功すれば、会社の人たちに自信を与えることでしょう。

しかし、この第三者の目を持つことは、非常な困難と孤独を伴います。組織の論理に流されていれば、たいていのことはまずまずのレベルで済んでしまうからです。(後略)

出典:2005年10月に広報研究会の講師を務めた作家の江上剛さんより、広報研究会の閉会に際してのメッセージ(2011年3月3日)

食品ロスは、組織の論理に流され、組織に対して言うべきことを言わない人たちのために発生している面は否めない。

ペットボトルのキャップ部分に多く印字されている賞味期限表示。これまでの年月日表示(右)から年月表示(左)へと移行している最中だ(筆者撮影)
ペットボトルのキャップ部分に多く印字されている賞味期限表示。これまでの年月日表示(右)から年月表示(左)へと移行している最中だ(筆者撮影)

10、美味しさの目安に過ぎない賞味期限なのに律儀に年月日表示を続けているから

日本の法律では、3ヶ月以上の賞味期限がある食品の賞味期限表示は、日付を省略できる。大手食品メーカーの味の素やキユーピー、大手小売のイオンなどが、賞味期限1年以上のものに関し、日付を省略して年月日表示にする取り組みを発表し、実際に始めている。清涼飲料水の業界の取り組みはもっと早い。2013年5月から始めている。しかし、5年経つ今も、ペットボトルのキャップ部分などに入っている賞味期限表示を見ると、まだまだ日付が入っているものが多い。講演の受講者に手を上げてもらうと、年月表示のペットボトルを持っている人より、年月日表示で日付が入っているものを持っている人が半分以上を占める会場も多い。

イギリス・ロンドンで販売されているインスタント麺の「出前一丁」(下田屋毅氏撮影)
イギリス・ロンドンで販売されているインスタント麺の「出前一丁」(下田屋毅氏撮影)

イギリスでは、18ヶ月以上の賞味期間の食品は、「年」表示だけでいい決まりだという。実際、イギリス・ロンドンに在住しているサステイナビジョン 代表取締役の下田屋毅(しもたや・たけし)さんに、イギリスのスーパーで販売されている食品の賞味期限表示を確認して頂いたところ、多くは年月表示のようだ。とは言え、日付が入っているよりずっとマシだ。

イギリス・ロンドンで販売されているインスタント麺の「出前一丁」の賞味期限表示。「02 2019」(2019年2月)の文字が読める(下田屋毅氏撮影)
イギリス・ロンドンで販売されているインスタント麺の「出前一丁」の賞味期限表示。「02 2019」(2019年2月)の文字が読める(下田屋毅氏撮影)

年月表示であれば、日付が入っているものより、月末まできちんと食品として流通でき、消費できる。

食品業界では、前日に納品したものより一日でも賞味期限表示が古いと納品できないという「日付後退品」(日付の逆転)という商慣習もある。消費者が日付すら見ないペットボトル飲料で、日付まで入れる必要があるのだろうか。いくつかの企業がすでに実施しているように、関係者だけが製造日や製造ラインなどの詳細情報がわかるアルファベットなどを入れておけば、それでトレーサビリティ(追跡可能性)は担保できる。

以上、主な10の理由を挙げてみた。

提言 賞味期限のために発生する食品ロスをどうすれば減らせるのか

じゃあ、どうすればいいのか。どの組織だけが悪い、と人のせいにするのではなく、どの立場の人も、少し意識や行動を変えなければならない。

省庁は、今でも「資源活用のために賞味期限は美味しさの目安です」と啓発しているが、もっとそれを進めて欲しい。2013年に、食品ロスの関係省庁が消費者庁に集まり、意見交換をした際、「消費期限と賞味期限が紛らわしいから呼称を変えてはどうか」とする意見が出された。本当はそれが理想だろう。期限と言われればそこが期限と思ってしまう。「おいしさ目安」のようにするとか。ただ、法律やQ&Aを変えるには年月がかかる。今すぐ今日からできることもしていかなければロスは減らない。

企業は、賞味期限の年月日表示から年月表示への移行を、賞味期間3ヶ月以上のもので加速させて欲しい。印字するには機械を変えなければならないので、時間がかかることは理解する。とはいえ、省庁と業界が食品ロス削減のための商慣習改善に動き始めた2012年10月からの、ここ6年間の動きを見ていると、遅々としているのを感じる。法律の移行期間は2年が設定される。この件は、法律を変える話でもなんでもない。なのに、2年どころかその3倍も月日が過ぎている。

われわれ消費者は、賞味期限は「美味しさの目安」だと理解する。店で買う時、すぐ消費するなら棚の手前から買う。

みんなが食べられるために、賞味期限のための食品ロスを、少しでも減らしたい。

参考資料

書籍『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書、3刷)

18ヶ月以上日持ちする食品は「年」表示のイギリス 3年以上日持ちする食品にも「年月日」表示する日本