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イタリア・トリエステで出逢った レストランでパンを捨てない方法と3つのメリット

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
イタリア・トリエステの埠頭(筆者撮影)

飲食店で余ってしまう食事や食材を、必要な人へとつなぐためのサービス「TABETE(タベテ)」「Reduce GO(リデュースゴー)」が、スマートフォンのアプリを通して始まっている。

2018年5月4日付のTHE JAPAN TIMESにも"Tokyo-based startups look to link consumers with restaurants to curb food waste"と題して特集記事が掲載され、筆者も食品ロス問題の専門家として取材を受け、記事の末尾に専門家コメントとして掲載された。

「TABETE」や「Reduce GO」のような、食べ物をシェアするのは、環境配慮の「3R(さんアール・スリーアール)」の原則のうち、2番目の「Reuse(リユース:再利用)」と言われる。最も優先されるべきなのは「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」だ。無駄を出さない、余らせない、作り過ぎない、売り過ぎない。

3Rとは、Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)、Reuse(リユース:再利用)、Recycle(リサイクル:再生利用)の3つのこと。Reduceが最優先(画像:iStock)
3Rとは、Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)、Reuse(リユース:再利用)、Recycle(リサイクル:再生利用)の3つのこと。Reduceが最優先(画像:iStock)

とは言え、言うは易く、行うは難し。レストランでテーブルにパンを長く出しておくと、時間が経ったものは表面が乾いて硬くなり、結果的に捨ててしまい「食品ロス」になる。朝食バイキングやビュフェなど、ワンテーブルだけでなく長時間、大量に置かれるものならなおさらだ。

ゴミ箱に捨てられるパン(画像:iStock)
ゴミ箱に捨てられるパン(画像:iStock)

このたび筆者が渡航して訪問したイタリア・トリエステのレストランでは、この悩みを解消するパンの提供の仕方をしていた。

袋に入れたままパンを提供する

それは、

袋に入れたまま、各テーブルに提供する

というスタイルだ。

このレストランでは、まず客はドリンクを注文する。

イタリア・ベネツィアでよく飲まれる微発泡ワイン、プロセッコ(筆者撮影)
イタリア・ベネツィアでよく飲まれる微発泡ワイン、プロセッコ(筆者撮影)

ドリンクの次は料理。

ここのレストランでは、多くの人が、海鮮のリゾットか、パスタ、マルゲリータのピッツアなどを注文する。

注文した後、料理を作って提供されるまでに時間がかかる。

そこで、しばらくすると、オリーブオイルの瓶とともに、茶色い袋に入った3切れほどのフランスパンが供される。

茶色い紙袋にフランスパンが3切れ入っていて、1テーブル2名に1袋くらいの割合で、オリーブオイルとともに提供される(筆者撮影)
茶色い紙袋にフランスパンが3切れ入っていて、1テーブル2名に1袋くらいの割合で、オリーブオイルとともに提供される(筆者撮影)

パンの袋に表示されているのは、レストランの名前ではない。パン屋さんの名前のようだ。

おそらく、パン屋さんに、この袋入りのパンを発注し、仕入れて、その日のお客さんに提供するのだろう。レストランとしても、パンを切る手間が省けるし、切る過程で半端な無駄が出ない。

また、お客さんは、食べ残したものをそのまま持ち帰ることができる。

このレストランに最初に行った時、全部のパンを食べきれなかったので、袋ごと持ち帰ることができた。

パンを袋ごと出す方法の3つのメリット

つまり、袋ごと出す方法には、次の3つのメリットがある。

1、テーブルに出している間、パンを乾かさないで無駄にしない

2、パンを切る手間を省け、切る過程で無駄を出さない

3、顧客が袋ごと持ち帰ることができる

レストラン側にとっても顧客側にとっても、それぞれメリットがある。

レストランで出されたリゾット(筆者撮影)
レストランで出されたリゾット(筆者撮影)

パンを乾かさないで品質を落とさず無駄にしない

このようなことを紹介すると、「袋に何か入れられたらどうするんだ」などの懸念を示す人がいるかもしれない。もちろん日本でそのままこの方法を導入するわけにはいかないかもしれない。が、パンは皿かカゴに出すべきだという固定観念を無くし、「袋に入れたままパンの専門店から入荷し、そのまま顧客に提供する」というアイディアは、食品ロスを減らす上で、一つの参考になると思う。

外食店での食べ残し率が高い「穀類」

そもそも日本の外食店では、パンやご飯、麺など、穀類の食べ残しが多く発生しているという調査結果がある。

農林水産省が長年、定期的に実施してきた食品ロスの統計調査

このうち、食品ロス統計調査・外食調査(平成27年度)によれば、食堂及びレストラン・披露宴・宴会のどの分野においても、穀類(ご飯・パン・麺類など)の食べ残す割合が高くなっている。

1、食堂・レストラン

食堂・レストランの場合、穀類の食べ残し量は食品群の中で最も高く、割合は野菜・調理加工品に次いで3番目に高い。

1食当たりの食べ残し状況 飲食店・レストランの場合(平成27年度 農林水産省調査より)
1食当たりの食べ残し状況 飲食店・レストランの場合(平成27年度 農林水産省調査より)

2、結婚披露宴

結婚披露宴の場合、予想できる通り、飲料類の食べ残し(飲み残し)量が最も多い。が、食べ残し量の割合は、野菜、果物に次いで穀類が3番目に高い。

1食当たりの食べ残し状況 結婚披露宴の場合(平成27年度 農林水産省調査より)
1食当たりの食べ残し状況 結婚披露宴の場合(平成27年度 農林水産省調査より)

3、宴会

宴会の場合、穀類の食べ残し割合が最も高い。食べ残し量は、飲料、野菜に次いで3番目に多い。

1食当たりの食べ残し状況 宴会の場合(平成27年度 農林水産省調査より)
1食当たりの食べ残し状況 宴会の場合(平成27年度 農林水産省調査より)

3原則「作り過ぎない、売り過ぎない、買い過ぎない」

2015年9月に国連サミットで採択されたSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)。

SDGs(国連広報センターHPより)
SDGs(国連広報センターHPより)

2030年までに世界で達成すべき17のゴールが定められている。食品ロス削減は、17のゴールのうち、12番目に「2030年までに半減させる」という目標が掲げられている。

SDGsの12番目「つくる責任 つかう責任」(国連広報センター)
SDGsの12番目「つくる責任 つかう責任」(国連広報センター)

どんな風にしたらこれが達成できるか。余ってしまったものは再活用したいが、毎日毎日余るのが前提、というのはおかしい。余らない工夫、ダメにしない工夫、すなわち「3R(さんアール・スリーアール)」の最優先である「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」を常に意識していきたい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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