52歳の男性が最期に食べたかったおにぎり  国民全員が毎日同じ量を捨てている事実

(写真:アフロ)

2018年4月17日、農林水産省と環境省は、平成27年度の食品ロスの推計値を発表した。年間で646万トン(昨年度の値は621万トン)。これは東京都民が一年間に食べる量に匹敵し、世界の食料援助量(320万トン)の2倍に相当する。国民1人1日あたりの食品ロス量は約139g。これは、お茶碗一膳のご飯と同じ量だ。

農林水産省「食品ロスの削減に向けて」p7より引用
農林水産省「食品ロスの削減に向けて」p7より引用

農林水産省の資料では「ご飯茶碗1杯分」と書かれている。筆者は、全国で行なう食品ロスの講演の時、この量を「(コンビニの)おにぎり1個分」とたとえて紹介している。国民全員が、毎日、おにぎりと同じだけの量を捨てていることになる。

2007年7月10日、北九州市小倉北区の独り暮らしの男性(52歳)が自宅で亡くなっているのが発見された。生活保護を受けていたが、2007年4月に受給廃止になっていた。最後に「おにぎり食べたい」と書き残していた(朝日新聞 2007年7月11日付 東京夕刊17ページ)。

彼は、長年働いていなかったわけではない。前の年である2006年の10月まではタクシー運転手だった。アルコール性肝障害になり、通院した。2006年12月7日、「病気で仕事ができない」と生活保護を申請し、認定された。だが翌年2007年2月、福祉事務所のケースワーカーから「働いたらどうか」と勧められ、生活保護を辞退したという。専門家は、この事例に関し「たとえ本人が自発的に辞退届を出したとしても、ケースワーカーは受給者が困窮する恐れがないかを検証し、受給者にきちんと説明しなければならない。自治体の対応は疑問だ」としている(2007年7月12日付朝日新聞西部朝刊27ページ)。

2018年4月22日、毎日新聞(西部)朝刊27ページでも『平成プレーバック:九州・山口の30年「おにぎり食べたい」男性孤独死 豊かな社会、格差衝撃』という記事で報じられている。10年以上経っても記事として取り上げられるほど、「おにぎり食べたい」と書き残して餓死したことは、象徴的な出来事だった。

2016年9月23日付、読売オンライン「ヨミドクター(yomiDr.)」の記事によれば、この男性が書き残した実際の言葉は「オニギリ食いたい」という言葉だったようだ。なぜ、茶碗に盛ったご飯ではなく、「オニギリ」だったのだろう。

もしかしたら、誰かがおにぎりをにぎってくれた思い出があるのかもしれない。

食事に困っていない人からすれば、たかが「おにぎり」。でも、その「おにぎり」と同じだけの量の食品を、国民全員が、毎日、ゴミ箱に捨てているという事実に思いを馳せてみたい。

参考情報

食品ロスの削減に向けて(農林水産省。7ページに国民1人1日あたりの食品ロス量が記載)

我が国の食品廃棄物等及び食品ロスの量の推計値(平成27年度)等の公表について(環境省 2018年4月17日発表)

食品ロス削減に資する啓発資材の公表について(農林水産省 2018年4月17日発表)

読売オンライン ヨミドクター 貧困と生活保護(39) 人を死なせる福祉の対応(中)北九州市の悲劇

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。Champions12.3メンバー。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』他。食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/令和2年食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞

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