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お供えした食べ物はどこへ?釈迦の生誕祝う花まつりの4月8日、超宗派で広がるおてらおやつクラブを知ろう

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

4月8日は花まつり。お釈迦様の降誕を祝す日だ。全日本仏教会の公式サイトによれば、全国でイベントが開催される。岡山県津山市の衆楽園でも4月5日、「花まつり」が開催された。

お寺にお供えする食べ物は、地物(その地域でとれるもの)、旬のもの、新鮮なもの、初物、などと言われる。お供えした食べ物は、そのあと、どこへ消えてしまうのだろう。

お寺のお供え物。実際は、処分されるものもあるという。そんな現状に心を痛めていたのが、奈良県・安養寺(あんようじ)の住職、松島靖朗さんだ。

奈良・安養寺の住職、松島靖朗さん(左)と筆者(右)(松島さん撮影)
奈良・安養寺の住職、松島靖朗さん(左)と筆者(右)(松島さん撮影)

実は松島さん、一度は奈良を出て東京でIT系のサラリーマンをしていたが、いろいろ考えて、奈良に戻った。

2013年5月24日、大阪の北区で、母子が餓死する事件が起こった。28歳の母親と、3歳の遺体が発見された。室内に食べ物はなく、電気・ガスも止まっていた。生活に困窮して餓死した可能性が高いと判断された。部屋には母親のメモが残されていた。

最後に、おなかいっぱい

食べさせてあげたかった

ごめんね

出典:28歳の母親が書き残したメモ

自身も子どもの父親となっていた松島さんは、矢も盾もたまらず、何かしなければと思った。

そうして2014年1月、おてらおやつクラブを立ち上げた。

おてらおやつクラブのロゴ(おてらおやつクラブ公式サイトより)
おてらおやつクラブのロゴ(おてらおやつクラブ公式サイトより)

仏さまの「おそなえ」を「おさがり」として「おすそわけ」する活動だ。

おてらおやつクラブの活動(おてらおやつクラブ公式サイトより)
おてらおやつクラブの活動(おてらおやつクラブ公式サイトより)

お供えの食べ物が、傷んでだめになってしまう前に、お下がりとして頂いて、食べ物を必要とする子どもたちへお裾分けをする。

実は、お寺自身、食べ物をだめにして捨ててしまうことに心を痛めていたそうだ。お寺の方から、この活動を喜ぶ声が、松島さんのところに多く届いている。反面、賛成しない声もあるそうだ。

この精神に共感するお寺がじわじわと増え、いまでは超宗派(宗派を超えて)で、全国812ものお寺が協力するまでになった。

親御さんからの喜びの声を松島さんから聞いた。

あけてビックリ!!

うれしくて!うれしくて!

我が家にお年玉が届いたような気持ちです

明日からがんばろ!と思いました。

出典:親御さんからの声

見ず知らずの方が、私たちのことを思って考えてくれたと思うと、どう言葉にすればいいのかわかりませんが、有難い限りです。

出典:親御さんの声

お米やおやつを頂戴しました。

子どもたちへのお菓子にくわえて

栄養ドリンクも入っていて

本当にありがたかったです。

応援してくれてる人がいる

あたたかな気持ちになりました。

出典:親御さんの声

おやつ昨日届きました。毎月ありがとうございます!偶然にも昨日はひとり娘の誕生日でした!思いがけないプレゼントに、親子ふたり大喜びさせて頂きました

いつも送付状に、優しいお気遣いのひと言を添えていただき、ありがとうございます。

小さな事かもしれませんが、こんな温かな手書きのひと言に、いつも感謝とありがたみで心が震えます。

出典:親御さんからの声

毎日新聞社の毎日メディアカフェで松島さんとともに講演する筆者(撮影:毎日新聞社)
毎日新聞社の毎日メディアカフェで松島さんとともに講演する筆者(撮影:毎日新聞社)

筆者は「おてらおやつクラブ」が立ち上がった2014年にこの活動を知り、全国での講演でご紹介していた。2015年の初旬、新聞記事に松島さんが載っているのを見て安養寺に電話したところ、松島さんご自身が出て「井出留美さんですね」と言われてびっくりした。講演で紹介していたのを聞いたどなたかから、松島さんが私のことを知ったそうだ。その後、2016年6月に毎日メディアカフェでご一緒に講演した。2017年5月24日、東大寺で開催されたおてらおやつ活動報告会でも講演させて頂いた。同じく2017年8月のNPO法人設立時に監事を任命された。

2017年5月24日に奈良・東大寺で開催された、おてらおやつクラブ報告会(スタッフ撮影)
2017年5月24日に奈良・東大寺で開催された、おてらおやつクラブ報告会(スタッフ撮影)

おてらおやつクラブは、新しい支援の形も始めたと言う。

宗教年鑑(平成28年版)によれば、全国の寺院の数は77,232だそうだ。

おてらおやつクラブの活動に賛同するお寺が、これからもじわじわと増え続けていくことを願っている。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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