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紅白歌合戦 有吉弘行は何回ボケて 橋本環奈は何回ツッコんだのか 紅白司会2023の実態

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:2023 TIFF/アフロ)

2023年紅白歌合戦の司会

2023年の紅白歌合戦の司会は有吉弘行、橋本環奈、浜辺美波だった。

あとNHKの高瀬耕造アナもいたが、彼はなんだか「司会お手伝い」という感じだった。

有吉、橋本、浜辺の3人ショットがメインだった。

有吉弘行が紅白司会だと聞いたときは、最初は驚いた。

橋本環奈は2022年に引き続き連続で司会である。

浜辺美波は初の司会。

有吉弘行の「冗談」

有吉弘行の司会は、前年までの大泉ほど自由に発言していなかった。

かなりしっかり進行していたとおもう。

それでもときどき自由に発言する。

2023年紅白における有吉弘行の自由に発言したとおもわれる「冗談」を拾い上げてみる。

1970年代ふうの登場

歌合戦番組が始まってすぐ、司会の3人は3台のゴンドラで降りてきた。

昭和時代の結婚披露宴で見かけた演出だ。それも1970年代を頂点にあまりやられなくなった古い演出である。なぜいま急に蘇ったのか、よくわからない。

ゴンドラで降りてくるとき、有吉弘行は「高いところからすいませーん」と謝りつつ降りてきて、橋本環奈は「こんばんはー、始まりましたー」と明るく叫んでいた。浜辺美波は「あはははは」と笑い声だけで、笑顔を振りまいていた。言葉は発していない。

このゴンドラでの3人のありさまが3人の司会スタイルを象徴していたとおもう。

純烈に「何をやらされてるんだか」

純烈が出てきたのは19時台の終わりころだった。

衣装から持ち物から、すべて「NHKプラス」のQRコードまみれになっていて、最近の紅白歌合戦では、若いほうの演歌歌手は必ずなにかイロモノ的な演出が施されるのであるが(けん玉とかドミノ倒しとか)、この純烈はイロモノにくわえて、NHKの広報の仕事まで請け負っている次第であった。

有吉はさすがに含み笑いしながら「すごい、サービスマンみたいなことを……」と指摘して、純烈の酒井も「平たくいうと廻しものかもしれません」と答えていた。

NHK広報仕事の請負人である。

終わったあとも「大忙しでしたね、何をやらされてるんだか」と軽い毒が入っていて、有吉らしい。

「紅白に私服できちゃだめよ」

そのあと「ano」ちゃんの応援に出てきたのは、「突撃!カネオくん」である。

カネオくんはバーチャルなキャラで、その声を千鳥のノブがやっている。番組そのままに、見えるところでノブはカネオくんの声をやっていた。

普段着で声をあてているノブに向かって有吉は「ノブちゃん、紅白に私服できちゃだめよ」と指摘する。

また、あのちゃんの情報を紹介したカネオくんが、どうでしたかと聞くので、有吉は「知ってる情報ばっかりでした」と正直に答えていた。

「言うなそれを、ナレーション録りに4回もスタジオいっとんじゃ、録り直し録り直しで」とノブは愚痴をこぼして、横にいる女性スタッフに受けていた。

「ウサギから悪魔」を「ウナギからアナゴ」

LE SSERAFIM(ル・セラフィム)が登場したとき、浜辺美波から彼女たちについてのプレゼンがあった。

「マネしたくなる踊り」が魅力で、「ウサギから悪魔に変わるという踊りがあって、SNSで大流行したんですよね」と浜辺は言う。

有吉は「ウナギからアナゴですか?」とボケた。おもしろかった。

有吉の明確なボケは珍しい。この日いちばんおもしろかったかもしれない。

台本どおり、という気配も強かったのだけど。

ただ浜辺は、最初は、ウサギに、と言って、すぐ、ウサギから、と言い直していたので、有吉が「ウナギからアナゴですか?」とボケたとき、まず「ごめんなさい」と言ってから「ウサギから悪魔です」と直していた。

惜しい。

「早くないですか」と素早くツッコむ橋本環奈

このあと、橋本環奈は「有吉さん、ル・セラフィムのみなさんの魅力、伝わりましたか?」と聞く。有吉は「もう好きになりました」と答えたので、「早くないですか、いまからパフォーマンスですよ」としっかり間を詰めてツッコんでいた。

横で浜辺は笑っている。

「この衣装、いいっしょー」と洒落る山内惠介

その次は演歌の山内惠介で、イロモノ担当演歌である。

浅草の商店街での歌唱には、吉村崇(平成ノブシコブシ)、とにかく明るい安村、アルコ&ピースの平子と酒井、4人の芸人が出てきた。

有吉は「何やってるの、本番中だからどいてください」と芸人に呼びかけ、「山内さんの邪魔をしないように」と注意して、顔ぶれを見てから「もっといいメンバーはいなかったんでしょうか」と、このあたりが有吉の本調子である。

クロスして喋る芸人たちに「ただ騒がないでください」(意味なく騒ぐな)と「有吉の壁」のMCらしい注意をする。たしかに安村は何言ってるかわからなかった。

浜辺美波が「(芸人の)みなさんがパフォーマンスを見せてくれるそうです」というので「山内さんだけのほうがいいとおもいますけどね」と有吉は正しく指摘する。

歌手の山内惠介まで「この衣装、いいっしょー」とまで言いだして、かなり収拾つかない場ではあった。ダンサーの踊りが華やかでした。

再び鋭くツッコむ橋本環奈

乃木坂46のセンターは5期生の井上和(いのうえなぎ)と浜辺が紹介すると、有吉「もう、5期生の井上和がそうなりましたか」と感慨深そうである。

橋本は「古株ですね」とツッコんでいる。

橋本が、可能なかぎりツッコむようにしている係のようだった。

まあ確認できたのは2回だけだけど、紅白で2回つっこむのはなかなか大変である。

生田絵梨花を冷やした濱家

ハマいくは、かまいたちの濱家隆一ともと乃木坂の生田絵梨花のユニット。

有吉としては、濱家がもっとも扱いやすい出演者だっただろう。

「いやこの紅白のすごいスターが出てるところによく来ましたね」と煽ったうえに、「日本中、なんなら世界中の人みてますから、メッセージ、英語でどうぞ」と濱家に振った。

濱家は戸惑うが、なんとか「……えー、アイラブユー」と答えてすべった瞬間に「なにやらすねん」と有吉につかみかかって、有吉はとても楽しそうだった。

それを受けた生田絵梨花は「いまちょっとからだが冷えたんですけど」と濱家を揶揄していて、この雰囲気はなかなかいい。

寺尾聰の昭和らしいプレゼント

寺尾聰がむかし似顔絵入りの煙草を段ボールごともらったという話をしたときには「すごいプレゼント! やさしいんだか、やさしくないんだか」と有吉は令和らしいMCぶりを発揮していた。

浜辺美波は驚き、橋本環奈は冷静に解説する

かなり大詰めの段階で、有吉は藤井フミヤと一緒に「白い雲のように」を歌った。そのあと着換えて司会に戻るはずだったのが、いろいろ手違いがあったようで遅れてしまい、浜辺と橋本二人で進行しているところに着換え中姿で戻ってきた。

橋本が「途中ですか?」と聞くので、「緊張であせっちゃって、はだしで出て来ちゃった」と告白していた。

浜辺は「大変」と言って驚いており、橋本は「いちばんのハプニングかもしれません」と冷静に解説していた。

有吉弘行の冗談は合計11回

というわけで、有吉の冗談じみた発言だけを並べると以下のとおり。

純烈に2回。「すごいサービスマンみたいな…」「何をやらされてるんだか」

千鳥のノブにも2回。「紅白に私服できちゃだめよ」「知ってる情報ばかりでした」

ルセラフィムに関して2回。「鰻から穴子ですか」「もう好きになりました」

吉村らに2回。「もっといいメンバーはいなかったんでしょうか」「山内さんだけのほうがいいとおもいますけどね」

濱家に1回。「メッセージ、英語でどうぞ」

寺尾聰に1回。「すごいプレゼント、やさしいんだかやさしくないんだか」

ヨアソビ紹介中に「緊張であせっちゃって裸足できちゃった」。

流れを止めるような冗談としては、この11回だったとおもう。

「ボケ」は少ない。ボケだけに限れば4つ、というところだろうか。

とにかく4時間超えのバラエティ司会としては、かなり少ない。

橋本環奈のツッコミと浜辺美波のブラボー

橋本環奈は、きちんとツッコむ。

ツッコミは2回である。「早くないですか」と「古株ですね」である。台本どおりかもしれないが(アドリブかもしれない)間合いを詰めていて、的確であった。さすが橋本環奈。進行係の意識が高そうだった。

浜辺美波はツッコミをやらなかったが、大泉洋の歌唱が終わったとき、「ブラボー!」と一人だけ叫んでいた。大泉が司会したとき連発していたブラボーである。純粋に応援だったとおもうが、聞きようによっては皮肉でもあった。ま、そんなわけないけどね。

有吉弘行はとても真面目な司会者であった

浜辺は橋本環奈が進行役に徹しているのでそちらは任せて、別の役を演じ続けていたようだ。もし橋本なく彼女だけだったら、それはそれで鬼の進行係になっていたんではないだろうか。

そして、有吉弘行は、やはりかなり真面目だな、とあらためておもう。

お笑い世界以外の人たちを笑いに巻き込まなかった。そのへんの意識は強く持ってるバランス感覚の人だなあ、とあらためて認識したばかりである。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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